ももしきの


ももしきの内のみ常に恋しくて雲の八重立つ山は住み憂し(如覚)

の、

ももしきの、

は、

「内」にかかる枕詞、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。また、

百礒城の大宮人は暇(いとま)あれや梅をかざしてここに集へる(万葉集)
布勢(ふせ)の浦を行(ゆき)きてし見てばももしきの大宮人に語り継ぎてむ(万葉集)、
ももしきの淤富美夜比登(オホミヤヒト)はうづら鳥領布(ひれ)取りかけて(古事記)、

などと、

大宮人、

にもかかる(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。上述の、

毛毛志紀能(モモシキノ)大宮人は鶉鳥(うづらとり)領巾(ひれ)取り掛けて(古事記)、

の、

ももしきの、

は、

百磯城の、
百敷の、
百国石の、

等々と当て(岩波古語辞典)、

ももしき、

は、

多くの石や木で造った「大宮」の意から、「大宮」にかかる、

とも、一説に、

多くの石で築いた城(き)の意でかかる、

とある(精選版日本国語大辞典)。

春草の茂く生ひたる霞たち春日の霧(き)れる百磯城之(ももしきの)大宮所見れば悲しも(万葉集)、

と、

「万葉集」ではすべて、枕詞として用いられているが、平安時代以降、枕詞としての用例は減少し、「万葉集」で「大宮人」と「大宮所」にかかっていたものが、「大宮人」のみにかかるようになる(仝上)、

とある。枕詞としての、

ももしきの、

から転じて、

ももしき、

は、

百敷、
百磯城、

と当て(日本語源大辞典)、後世は、

ももしぎ、

ともいい、

白露はおきて変われどももしきのうつろふ秋はものぞかなしき(伊勢)、

と、

内裏、
宮中、
禁裏、

の意で用いるようになっていく(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。この、

ももしき、

は、

百(もも)は、満盛廣大などの意、敷は、敷地などの敷、川敷、蔵敷、屋敷、道敷などと同趣(大言海)、
モモは百の義。シキは石城で、石を繞らして一定の地を限る意(読史百話=喜田貞吉)、
百官の座を敷くところだから(古今集注・河海抄・名語記・貞丈雑記・年々随筆・一挙博覧)、
崇神天皇の長い治世を祝って、そのシキノミヅガキ(磯城瑞籬)宮に因み、百敷城といったところからか(万葉代匠記・万葉集類林)、
百の寮をシキススムル(敷奏)の義(和訓栞)、
大宮を建てるに地を広く敷く意(安斎随筆)、
モモはタモチカゾフル意、シキはシキツラヌル意(皇国辞解)、

等々、諸説あるが、付会の説が多く、

敷く、

は、

一面に物や力を広げて限度まで一杯にする、すみずみまで力を及ぼす意、シク(及・頻)と同根、

とあり(岩波古語辞典)、

領(し)く、

とも当て、

あたり一面に隅々まで力を及ぼす、

意と見られ、意味としては、

百(もも)は、満盛廣大などの意、敷は、敷地などの敷、川敷、蔵敷、屋敷、道敷などと同趣(大言海)、

なのだと思うが、「しきしまの」で触れたように、

しきしま、

は、

敷島、
磯城島、
志貴嶋、

などと当て、

都を倭(やまと)の国の磯城郡の磯城島に遷す(日本書紀・欽明一年)、

と、

欽明天皇の、大和国、磯城郡、磯城島に、宮居したまへるに起こる、

とある、

大和国磯城郡の地、

で、

崇神・欽明両天皇の宮があったと伝承される地、

とされ、

大三輪町金屋辺り、

とされる(岩波古語辞典・大言海)。

秋津島の如し、

とある(大言海)。これは、

秋津洲、

が、

大和の一地名アキヅ(「秋津」 奈良時代、葛城地方の別名)が広がって日本全国を謂うようになった、

のと同趣ということである(岩波古語辞典・日本歴史地名大系)。こう見ると、

ももしき、

の由来としては、

崇神天皇の長い治世を祝って、そのシキノミヅガキ(磯城瑞籬)宮に因み、百敷城といったところからか(万葉代匠記・万葉集類林)、

との説が見過ごせないが、そもそもの、この、

しきしま、

の語源は、そうした背景を考えると、

イシキシマ(石城島)の義(日本語原学=林甕臣)、
シキシマ(敷版間)の義(柴門和語類集)、
シキはサキ(幸)の転声(和語私臆鈔)、
イザナギ・イザナミの赤白の神が滓を固めて造った國というところから、色嶋の義。また、東夷・南蛮・西戎・北狄の四将軍の城があるところから、四城嶋の義か(古今集注)、

と諸説あるが、

ひろく統べる、

という含意でいいのではなかろうか。ただ、

敷島、

と当てるのは、

おしなべて今朝の霞の敷島やまともろこし春を知るらむ(続拾遺集)、
敷島の三輪の社の(曾丹集・序)、

など、平安時代の後半と、比較的新しい(日本語源大辞典)とされている。

「百」.gif



「百」 甲骨文字・殷.png

(「百」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%99%BEより)

「百」(漢音ハク、呉音ヒャク)は、

形声。「一+音符白」を合わせた字(合文)で、もと一百のこと。白(漢音ハク・呉音ビャク)は音符で、白いという意味とは関係ない、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%99%BE・角川新字源)。別に、

形声文字です(一+白)。「1本の横線」(「ひとつ」の意味)と「頭の白い骨または、日光または、どんぐりの実」の象形(「白い」の意味だが、ここでは、「博」に通じ、「ひろい」の意味)から、大きい数「ひゃく」を意味する「百」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji133.html

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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