わが恋は千木(ちぎ)の片そぎかたくのみゆきあはで年のつもりぬるかな(大炊御門右大臣)、
夜や寒き衣やうすき片そぎの行合ひの間より霜やおくらむ(住吉御歌)、
の、
片そぎ、
は、
千木(棟で交叉して高く突き出ている社殿の両端の材)の片端を縦に切り落としてあること、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
千木、
については触れたが、「千木」は、
社殿の屋上、破風の先端が延びて交叉した木、
を指し、
古代の家は、この突き出た端を切り捨てなかった、
が(岩波古語辞典)、後世、
破風と千木とは切り離されて、ただ棟上に取り付けた一種の装飾(置千木)となる、
とある(広辞苑)。
上代の家作に、切棟作りの屋根の、左右の端に用ゐる長き材にて、基本は、前後の軒より上りて、棟にて行き合ふを組交へ、其組目以上、其梢を、そのまま長く出して空を衝くもの。其組目より下は、椽(タルキ)と並び、又、屋根の妻にては、搏風(ハフ)となる、
という(大言海)。
だから、「ちぎ」は、
千木、
知木、
鎮木、
等々と当てる(仝上)とともに、
搏風、
とも当てている(日本語源大辞典)が、本来、「搏風」は、
榑風、
なので、「ちぎ」に当てた字も、
榑風、
なのではないか。神武紀にある、
太立宮柱於底磐之根、峻峙榑風(チギ)於高天原、
も、
榑風、
を、
ちぎ、
と訓ませている(大言海)。「榑」(漢音フ、呉音ブ)は、「榑(くれ)」で触れたように、
会意兼形声。旁の部分(フ・ハク)は、大きく広がる意を含む。榑はそれを音符とし、木を添えた字、枝の広がった大木、
とある(漢字源)。「榑桑」は、太陽の出る所にあるといわれる神木、「扶桑」とも書く、わが国では、
皮のついたままの丸太、
の意である(漢字源)。これを交叉させて、上にで突き出た分が、
千木(榑風)、
山形に交叉した部分が、
搏風(榑風 ハフ)、
となった。「千木」は、
氷木(ひぎ)、
ともいう(広辞苑・岩波古語辞典)。『古事記』の出雲大社創建条は、
氷木(ひぎ)、
であり、また、
冰椽、
とも表記され、『日本書紀』の神武天皇紀にも、上述のように、
太立宮柱於底磐之根、峻峙榑風(チギ)於高天原、
と「チギ」と訓ませている。『延喜式』の祝詞において、
高天原の千木に高知りて、
と、「千木」の表記が現れ、平安時代中期には、
チギ、
と訓んだ(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%83%E6%9C%A8%E3%83%BB%E9%B0%B9%E6%9C%A8・岩波古語辞典)。
片削ぎ、
は、
千木、
には、
其梢の一角を殺ぐを、カタソギと云ふ。伊勢の内宮なるは内角を殺ぎ、外宮なるは外角を殺ぐ、共に共に風穴を明く、
とがあり(大言海)、例外もあるが、
千木には矩形(くけい)の穴があけられており、これを風切穴(かざきりあな)という。千木上部が水平になる内殺(うちそぎ)と、外側が垂直になる外殺(そとそぎ)があり、前者は女神、後者は男神が祭神の本殿を飾る千木という、
らしく(仝上)、
(女千木(めちぎ)男千木(おちぎ) https://izumo-enmusubi.com/entry/chigi/より)
内そぎは女千木(めちぎ)で女神を表す、
外そぎは男千木(おちぎ)で男神を表す、
となる(https://izumo-enmusubi.com/entry/chigi/)。つまり、
片削ぎ、
は、
かたそぎの月を昔の色とみて猶しもはらふ松の秋風(新後撰和歌集)、
と、
片方をそぎ落とすこと、
また、
そぎ落としたもの、
の意だか、ここでは、
神殿の千木、
を指す。
神殿の千木(ちぎ)が、先端を水平または垂直にそぎおとしてあるから、
である(広辞苑)。
(「削」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す) 戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%89%8Aより)
「削」(①漢音シャク・呉音サク、②漢音呉音ショウ)、
は、
会意兼形声。小は、真ん中の丨印をけずって、その細片の散るさまを示す。肖は、肉を細く削ること。削は「刀+音符肖(ショウ)」で、刀で細くけずること。小・肖の原義を表す、
とある(漢字源)。「削除」「削滅」などは①の音、鞘(ショウ)のに当てた、細いさやの意の場合、②の音である(仝上)。同趣旨だが、
会意兼形声文字です(肖+刂(刀))。「小さな点の象形と切った肉の象形」(骨肉の幼く小さいものの意味から、「小さい」の意味)と「刀」の象形から、「刀で小さくする」、「けずる」を意味する「削」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji1636.html)が、
形声。「刀」+音符「肖 /*SEW/」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%89%8A)、
形声。刀と、音符肖(セウ)とから成る。刀のさやの意を表す。借りて「けずる」意に用いる(角川新字源)、
は、形声文字とする。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95