岩代の神は知るらむしるべせよ頼む憂き世の夢の行末(読人しらず)、
の詞書に、
熊野へ詣で侍りしに、岩代王子に人々の名など書き付けさせてしばし侍りしに、拝殿の長押に書き付けて侍りし歌、
とある、
岩代王子、
は、
熊野九十九王子の一つ、紀伊国、現在の和歌山県日高郡みなべ町西岩代野添にある、
とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。九十九王子については触れた。
長押、
は、
間仕切りとして柱と柱の間に横に渡した木、
とある(仝上)。
(長押 デジタル大辞泉より)
で、
なげし、
の由来は、
長(長い横木)+押(押し渡した)」で、和室の梁の上に押すように取り付け、渡した長い横木の意、ナガオシがナゲシに転訛した(日本語源広辞典)、
ながおし(長押)の約(大言海・世界大百科事典)、
とされる。
和名類聚抄(931~38年)に、
長押、奈介之、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
長押、ナゲシ、
とある、日本の建築で、
柱から柱へと水平に打ち付けた材、
をいい、
柱の表面に釘(くぎ)で打ち付けて各柱を連結する横材、
である(日本大百科全書)。古代では、長押は、
重要な軸組用構造材の一つで、軸組を引き締める役割を果たしており、柱の頂部に頭貫(かしらぬき)が入れられたほか、柱の中間では長押を打ち付けて各柱を連結し、柱の横への移動を防ぐ方法がとられた、
とある(仝上・不動産用語辞典)。寝殿造で、
母屋(もや)・廂(ひさし)・簀子(すのこ)の間仕切りとして、柱から柱に横へ渡した(岩波古語辞典)、
ので、
母屋と廂との、中の隔の上下を限るもの、
とされ(大言海)、
下なるは幅広く、廂より高し、上なるを上長押(うはなげし)など云ふ、
とある(仝上)。後世、
鴨居の上、又は、敷居の下に、別に、横に長く亙せる化粧の材、
をいうようになる(仝上)。で、数寄屋建築や民家では、
天然の丸みを残した面皮(めんかわ)の材を使うこともある。装飾材となってからはことさら節(ふし)がなく木目のつんだ良材を用いるようになる。また、柱に止めた釘の上には釘隠(くぎかくし)を打つ、
とある(世界大百科事典)が、書院建築などでは、装飾を重んじて、
その意匠を凝らすことが多く、無節、柾(まさ)目の杉材が使用される、
ようになる(マイペディア)とある。
長押、
は、とりつける箇所によって、
地面に接する地(じ)長押、縁の上にある切目(きりめ)長押、
切目長押上の丈の低い半長押、
窓下や腰回りに打ち付けられる腰長押、
扉口や鴨居(かもい)の真上につく内法(うちのり)長押、
内法長押より上にある上(かみ)長押、
内法長押の裏側の縁(えん)寄りに取り付けられる縁長押、
天井と内法の間の小壁上方に蟻壁(ありかべ 室内の上端に設け、部屋を一周する細長い壁)を設けた場合には蟻壁を受ける蟻壁長押、
天井回縁(まわりぶち)の下に巡る天井長押、
柱の最下部をつなぐ地長押、
部屋の外側に回縁(まわりえん)を設けた場合、敷居下の縁板(えんいた)下に取り付ける切目(きりめ)長押、
等々がある(世界大百科事典・仝上)。奈良時代初期には、
扉を釣り込むためのもの、
であったが、まもなく、軸組を固めるために用いられるようになり(精選版日本国語大辞典)、鎌倉時代以降、中国の宋(そう)様式の導入によって、
貫(ぬき 柱と柱を貫いて連ねる部材)を通して柱を固めるようになると、徐々に構造的性質を失って装飾的な材へと変質していった、
ようだ(日本大百科全書・仝上)。断面は、
横長の長方形からほぼ正方形の裏側をL型に欠き取った形、さらに縦長の台形または三角形へと変化する。したがって、柱からふき出る部分(胸という)も古くは大きく、のちには小さくなる、
とあり、装飾材となってからは、
ことさら節(ふし)がなく木目のつんだ良材を用いるようになる。また、柱に止めた釘の上には釘隠(くぎかくし)を打つが、書院建築などではその意匠を凝らすことが多い、
という(仝上)。
現在では、
長押、
は、
鴨居の上にある柱の表面に水平(横)に取り付けた化粧材、
を言う(https://www.ooyamano-ie.jp/blog/5996)。
(現在の長押 https://www.ooyamano-ie.jp/blog/5996より)
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
ラベル:長押(なげし)