2024年11月14日

天の戸


清見潟月はつれなき天の戸を待たでもしらむ波の上かな(新古今和歌集)、

の、

天の戸、

は、

天にあり、日や月の出入りすると想像された戸、

で、この場合、

清美ヶ関の戸への連想もあるので、「戸」は「清見潟」の縁語、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

清見潟、

は、

駿河國の枕詞、

で、

現在の静岡市興津町付近の海岸、清見ヶ関があった、

とある(仝上)。

清見ヶ関の跡碑(清見寺内).jpg


清見ヶ関(きよみがせき)、

は、

平安時代、静岡市東部、旧清水市の興津(おきつ)にあった関。清見寺(せいけんじ)がその跡という、

とある(広辞苑・デジタル大辞泉)。跡碑のある清見寺の寺伝によると、

天武天皇在任中(673年~86年)に設置、

とあり、

その地は清見潟へ山が突き出た所とあり、海岸に山が迫っているため、東国の敵から駿河の国や京都方面を守るうえで格好の場所であった、

とされるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%85%E8%A6%8B%E9%96%A2。清見寺の創立は、

その関舎を守るため近くに小堂宇を建て仏像を安置したのが始まり、

という(仝上)。この関のあった、

興津、

は、延喜式に、

息津(おきつ)、

と見え、

東は興津川・薩埵(さつた)峠、西は清見寺山が駿河湾に迫る東海道の難所、清見寺山下には清見関が設けられ、坂東への備えとした、

とある(世界大百科事典)。

清見潟(明治時代).jpg

(明治時代の清見潟 https://sarasina.jp/products/detail/122より)

庵原(いほはら)の清見の崎の三保の浦のゆたけき見つつもの思ひもなし(万葉集)
清見がた沖の岩こす白波に光をかはす秋の夜の月(西行)、

等々、多くの和歌に詠まれた清見潟のテーマは、

海、波、岩など磯の風景、

とあるhttps://sarasina.jp/products/detail/122。この風景は現存しないが、

明治20年測量の5万分の一地形図と、幸運にも清見寺に残された清見寺に残された古写真から往時の風景を想像することができる、

とある(仝上)。

天の戸、

の、



は、「とま」で触れたように、

戸、
門、
所、
処、

等々と当て、

ノミト(喉)・セト(瀬戸)・ミナト(港)のトに同じ。両側から迫っている狭い通路。また入口を狭くし、ふさいで内と外を隔てるもの、

で(岩波古語辞典)、

両方から接近して狭くなっている所、そこを破って通る所の意、

であり(仝上)、

秋風に声をほにあげてくる舟はあまのとわたるかりにぞありける(古今和歌集)、

と、

天界の門、天界の入口にある門(岩波古語辞典)、
天河(あまのがは)の水門(みと)(大言海・広辞苑)、

と、

大空を海にたとえていった語で、「戸」は水流の出入りする所、

の意である(精選版日本国語大辞典)が、また、

銀河を川にたとえていった語で、「戸」は両側の狭くなっている川門(かわと)の意、

と、

織女(たなばた)のあまのと渡る今夜(こよひ)さへをち方人のつれなかるらん (後撰和歌集)、

と、七夕に牽牛、織女の二星が渡る、

天の川の川門。

の意でも使う(仝上)。で、上記の、

天の門、

の意から、

あまのとのさもあけがたくみえしかなこや夏の夜の短かりける(古今和歌六帖)、

と、

夜が明けることのたとえ、

として、

「の」「を」を伴って「明く」の枕詞的に用いられ、

夜と昼との間にある戸、

の意でも使われる(仝上)。なお、

天の戸、

を、

ひさかたの安麻能刀(アマノト)ひらき高千穂(たかちほ)の岳(たけ)に天降(あも)りし(万葉集)、

と、

天の岩戸、

の意でも使う(仝上・広辞苑・大言海)。

天の岩戸、

は、

天の岩屋、
天の岩屋戸、
天の岩門、

ともいい、

天磐戸(アマノイハト)を引き開(あ)け、天八重雲(あめのやゑくも)を排分(をしわ)けて、奉降(あまくだります)(日本書紀)、

と、高天原の入口にあると信じられていた、

岩窟の堅固な戸、

である(岩波古語辞典・仝上)。

天の岩屋に入りまして岩戸を閉(さ)して幽(こも)りましぬ(古事記)、

と、

アマテラスオホミカミがこもったという岩室、

であり、

東南アジアなどの冬至または日食の神話にも、日神が同穴などにかくれる例がある、

とある(岩波古語辞典)。また、

天の岩戸、

は、限定されて、

天の岩戸に入れば、灯明かがやかし。常闇(とこやみ)のむかし思ひ出られ、有難き事かぎりなし(俳諧「本朝文選(1706)」)、

と、

伊勢神宮の外宮の南方、高倉山の上にある大きな岩穴、

をもいう(仝上)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:05| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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