2024年11月16日

楸(ひさぎ)


うばたまの夜のふけゆけば楸おふる清き河原に千鳥鳴くなり(新古今和歌集)、
楸(ひさぎ)生(お)ふる片山陰に忍びつつ吹きぬけるものを秋の夕風(仝上)、

の、

楸(ひさぎ)、

は、

キササゲ、

とも、

アカメガシワ、

ともいわれ(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、

ともに夏に淡黄色の花が咲く落葉高木、

とあり(仝上)、

君恋ふと鳴海の浦の浜久木(はまひさぎ)しをれてのみも年を経るかな(新古今和歌集)、

の、

浜久木、

も、

浜に生えるひさぎ、

である(仝上)。

ひさぎ、

は、

ひさき、

とも訓ませ(岩波古語辞典)、和名類聚抄(931~38年)に、

楸、比佐木、

天治字鏡(平安中期)にも、

楸、比佐木、

とあり、

羽嶋椿・比佐木・多年木・蕨・薺頭蒿あり(出雲風土記)、

とある、

植物の古名、

で、

きささげ(木豇豆)、

または、

あかめがしわ(赤芽柏)、

をさしたと考えられる(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。

アカメガシワ(赤芽槲、赤芽柏)、

は、

トウダイグサ科アカメガシワ属の落葉小高木または落葉高木。主に山野に生えており、春にでる若葉が紅色をして目立つのが名の由来、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%82%B7%E3%83%AF

ゴサイバ(五菜葉)、

ともいう。

アカメガシワ、

の由来は、

新芽が鮮紅色であること、
葉がカシワのように大きくなること、

から命名されたといわれ(仝上)、地域によって、

アカガシワ、

ともよばれる。

五菜葉(ごさいば)、

というのは、

互生する大きな葉に飯を盛った、

からで、

菜盛葉(さいもりば)、

ともいう(世界大百科事典)。古来、歌人に愛された、

楸(ひさぎ)は本種とみなされる、

とある(仝上)。

漢名は、

野梧桐(やごどう)、

というhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%A1%E3%82%AC%E3%82%B7%E3%83%AF

新葉が紅色の星状毛を密生し、美しい鮮紅色を呈す。また秋には黄葉し、古本州中南部から台湾、中国にかけて分布する。陽樹で生長が速く、高さ10mになる。雌雄異株で、5~6月ころ、当年茎の先に長い円錐花序をつけ、小さな黄色の雌花か雄花を多数つける。果実は赤みをおびた蒴果(さくか)で、球形の種子が3個出る。材は淡黄色で柔らかく、薪炭材のほか下駄などの材料とされる。果実と葉から赤色染料がとれる、

とある(世界大百科事典)。樹皮は、

赤芽柏(あかめがしわ)、
あるいは、
将軍木皮(しようぐんぼくひ)、

と呼ばれ、

苦味質のベルゲニンbergenin、フラボン配糖体、タンニンなどが含まれる。胃潰瘍、十二指腸潰瘍など胃腸疾患、胆石症などに用い、製剤もある。葉の煎汁を痔に外用し、また新鮮な葉汁を、はれものの吸出しや痛み止めとして外用とする

とある(仝上)。

アカメガシワ.jfif



アカメガシワ 雄花.JPG



アカメガシワ  雌花 .JPG


因みに、

梓弓

で触れたように、「梓(あづさ)」は、和名抄には、

梓、阿豆佐、楸(ひさぎ、きささげ)之属也、

とあり、この「梓」には、古来、

キササゲ、
アカメガシワ、
オノオレ、
リンボク(ヒイラギガシ)

などの諸説があり一定しなかったが、白井光太郎による正倉院の梓弓の顕微鏡的調査の結果などから、

ミズメ(ヨグソミネバリ)、カバノキ科の落葉高木、

が通説となっているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A2%93、とある。

キササゲ.jpg


キササゲの花.jpg


キササゲ(木大角豆・楸・木豇)、

は、

ノウゼンカズラ科キササゲ属の落葉高木、

で、

果実がササゲ(大角豆)に似ており、束になって枝にぶら下がるのでキササゲ(木大角豆)と呼ばれる、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%82%B5%E3%82%B5%E3%82%B2。別名、

カミナリササゲ、
カワギリ、
ヒサギ、

とも呼ぶ。生薬名で、

梓実(しじつ)、

と呼ばれる。「梓(し)」は、「あずさ」と読まれ、

カバノキ科のミズメ(ヨグソミネバリ)の別名とされるが、本来はキササゲのことである、

とある(仝上)。漢名は、

梓、
あるいは、
梓樹、

とある(仝上)。

中国原産で薬用や観賞用に栽培されるノウゼンカズラ科の落葉高木、

で、

高さ6~9m、直径60cmくらい。葉は対生し、広卵形またはやや円形、長さ10~25cm、先端は急に短くとがり、基部は心形、裏面にははじめ短毛がある。7月ころ頂生の円錐花序に多数の花をつけ、長さ10~25cm。花は鐘形で淡黄色、暗紫色の斑点があり、長さ約2cm。蒴果(さくか)は線形で長さ20~30cm、直径4~7mm、幼時は長柔毛を有する。種子は長楕円形、長さ8~10mmで両端に長毛がある。日本では暖地で古くから栽培され、しばしば河岸などで自生している、

とある(世界大百科事典)。また、本種とその同属植物トウキササゲの果実は、生薬として、

梓実(しじつ)、

といい、利尿剤としての作用が強い(仝上)とある。なお、

ひさぎ、

に、

柃、

と当てると、

ヒサカキの異称、

で(広辞苑)、字鏡(平安後期頃)に、

柃、ヒサキ・ヒサカキ、

とある。

柃の花、

ともいい、

ツバキ科の常緑低木、

サカキに似、三月ごろ小さな白色の花が咲く、

とある(季語・季題辞典)。

さかき」で触れたように、

榊、

は、別名、

ホンサカキ、
ノコギリバサカキ、
マサカキ、

ともよばれhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD)

今、多く、ヒサカキを代用す、

とある(大言海)のは、

サカキは関東以南の比較的温暖な地域で生育するため、関東以北では類似種のヒサカキをサカキとして代用している、

ためであるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AB%E3%82%AD。ヒサカキは仏壇にも供えられる植物で、早春に咲き、独特のにおいがある。名の由来は小さいことから、

姫榊(ヒメサカキ→ヒサカキの転訛)、

とも、サカキでないことから、

非榊、

とも呼ばれる(仝上)。独特のにおいのあるのは、こちらである。

「楸」.gif


「楸」(漢音シュウ、呉音シュ)は、

会意兼形声。「木+音符秋(細く締まる)」で、枝の先が細い木、

とある(漢字源)。「ひさぎ」なのだが、

のうぜんかずら科の落葉高木、枝は細かく分かれ、葉は桐に似ている。初夏に淡黄色の花をつけ、ササゲに似た、鞘のみを結ぶ、きささげ、

と、

あかめがしわ、

の意味もある(仝上)。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:51| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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