みしぶ
みしぶつき植ゑし山田にひたはへてまた袖濡らす秋は來にけり(新古今和歌集)、
の、
ひた、
は、
引板、
で、
鳴子、
の意(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、
はへて、
は、たぶん、「ふりはへて」で触れた、
延へて、
とあて、
(引板の縄を)引いて延ばして、
の意(仝上)である。「引板」で触れたように、
ひた、
は、
ひきいた、
の音便で、
ヒキイタ→ヒキタ→ヒイタ→ヒタ、
と転訛して、
ひた、
といい、冒頭の歌の本歌で、
衣手(ころもで)に水渋(みしぶ)つくまで植えし田を引板(ひきた)我れ延(は)へ守れる苦し(万葉集)、
とある、
田や畑に張りわたして鳥などを追うためのしかけ、
で、
細い竹の管を板にぶらさげ、引けば鳴るようにしかけたもの、
をいい、
鳴子、
と同じで、
おどろかし、
とりおどし、
などともいう(精選版日本国語大辞典)が、また、竹筒などで水を引き入れたり、流水を利用して音を立てる、
ばったり、
ししおどし、
にもいう(仝上)。
みしぶ、
は、
水渋、
と当て、
水錆(水銹 みさび)、
ともいい
水上に泛ぶ赤黒いかす、
つまり、
水垢(みずあか)、
の意である(広辞苑)。
水の上に刀のさびの如くなるものの、浮かびて見ゆるもの、
とある(大言海)ので、
水錆(水銹 みさび)、
というようである。
「渋(澀)」(慣用ジュウ、漢音ソウ、呉音シュウ)は、
澀、
が
本字(繁体字)、
澁、
が、
旧字体、
渋、
は、
新字体、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B8%8B)。
会意兼形声。止は、足の形。歰(シュウ)は「下向きの足二つ+上向きの足二つ」の会意文字で、足がうまく進まず停止することを示す。澀は「水+音符歰」で、水を加えて、しぶることを明白にした字。澁は澀の止(足)一つを省略した字。常用漢字はさらにそれを略した、
とある(漢字源)。別に、
会意形声。水と、歰(シフ)(歮は省略形。とどこおる)とから成り、水がとどこおって流れにくい意を表す。常用漢字は省略形の俗字による、
ともある(角川新字源)が、
形声。「水」+音符「歰 /*SƏP/」。元々は歰で「とどこおる、しぶる」の意味を表したが、のちに水を足し、水がうまく流れない、「しぶる」を表すようになった(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%BE%80)、
は、形声文字とし、
会意文字です(氵(水)+歰)。「流れる水」の象形と「立ち止まる足の象形×4」(足がもつれるさまから、「とどこおる」の意味)から、「水がなめらかに流れない」、「しぶる」を意味する「渋」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1903.html)、
は、会意文字とする。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント