川霓(せんげい)


嶺雁随毫末(嶺雁(れいがん)は毫末(ごうまつ)に随い)
川霓飲練光(川霓(せんげい)は練光(れんこう)を飲む)
霏紅洲蕊亂(紅を霏(ち)らせば洲蕊(しゅうずい)は亂れ)
拂黛石蘿長(黛(たい)を払えば石蘿(せきら)は長し)(杜甫・奉観嚴鄭公庁事岷山沲江画図十韻)

の、

練光、

は、

練り絹の放つ光、

の意で、

絵のかかれた練り絹の光とする説、
画中の川が練り絹のように光って見えるとする説、

があるが、ここでは、

「毫末」にあわせて、前者をとる、

とし(前野直彬注解『唐詩選』)、

霏紅

の、

霏、

は、

雨や雪の降ること、ここでは、

霏紅、

で、

絵師が画面に紅色を点々と散らすこと、

を言い、

拂黛、

の、

黛、

は、

黒色の顔料、絵師が黒の絵具を塗りつけることをいう、

とある(仝上)。

川霓、

は、

川に掛かった虹、

の意、

むかし、虹は動物と考えられ、それが谷にかかるのは、虹が谷川へ下りて水を飲むのだと信ぜられた、

とある(仝上)。「霓裳(げいしょう)」で触れたように、

霓、

は、

虹、

をメタファに、

虹のように美しく裾を引いたもすそ、転じて、天人、仙女などの衣、

の意(精選版日本国語大辞典・広辞苑)でも使う。

嶺雁、

は、

嶺を越えて飛ぶ雁、

毫末、

は、

絵筆の穂先、

で、『老子』六十四章に、

合抱之木、生於毫末、九層之臺、起於累土、千里之行、始於足下(合抱(ごうほう)の木も、毫末(ごうまつ)より生じ、九層の台も、累土(るいど)より起り、千里の行(こう)も、足下(そっか)より始まる)、

とある(仝上)。

川霓、

の、

霓、

を、『全唐詩』『宋本』『九家集注本』『杜陵詩史』『四部叢刊本』『草堂詩箋』『銭注本』『詳注本』『心解本』『鏡銓本』等々では、

蜺、

に作るhttps://kanbun.info/syubu/toushisen146.htmlとある。同義である。

霓、

は、

にじ、

であるが、はっきりと見える、

虹、

に対し、その外側に薄く見える、

副虹、

を指すhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9C%93

紫が内側で、色が鮮やかなのを、

虹、

紫が外側で、色が淡いのを、

霓(蜺)、

とある(漢字源)が、要は、二本現われたにじのうち、

外側が赤、内側が紫で、全体が鮮明に見える、

主虹(しゅこう)を、

虹、

二本のにじの外側に位置して、やや淡く、内側の虹とは逆に、内側が赤、外側が紫の、

副虹(ふくこう)、

を、

霓、

という(漢辞海)のである。この、二重のにじを、

虹霓(こうげい)、

と言いhttps://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11170886386、にじを、

天空を貫く大蛇、

に見立て、ヘビの意味を表す「虫」と、貫くという意味を表す「工」をあわせて、「虹」になった(仝上)とある。伝承としては、



が、

雄の蛇又は竜、

であるのに対し、

霓、

は、

雌、

とされるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9C%93

「霓」.gif

(「霓」 https://kakijun.jp/page/E8BD200.htmlより)

「霓」(漢音ゲイ・ゲツ、呉音ゲ・ゲチ)は、「霓裳」で触れたように、

会意兼形声。「雨+音符兒(ゲイ 小さい子供)」、

とあり、「にじ」、転じて「五色」の意(漢字源)で、

雨が降った後に現れる小物体、

という意味らしいhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9C%93。「にじ」を、

蛇、
または、
竜、

とみなし、前述したように、

虹(コウ)、

を「雄」、

霓(ゲイ)、

を「雌」とし(漢字源)、「霓」は、

小形の細いにじ、

とされた(仝上)。ただ、

かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、

とされ、

形声。「雨」+音符「兒 /*NGE/」、

と、形声文字とするhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9C%93

参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
簡野道明『字源』(角川書店)
戸川芳郎監修『漢辞海』(三省堂)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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