星合の空
袖ひちてわが手にむすぶ水の面(おも)に天つ星合の空をみるかな(新古今和歌集)、
の、
ひつ、
は、
漬つ、
沾つ、
と当て、
ひたる、
濡れる、
意(広辞苑)、「ひつ」で触れたように、
室町時代まではヒツと清音、
で(岩波古語辞典)、江戸期には、
朝露うちこぼるるに、袖湿(ヒヂ)てしぼるばかりなり(雨月物語)、
と、
ひづ、
と濁音化した(デジタル大辞泉)。
奈良時代から平安時代初期、
は、
相思はぬ人をやもとな白たへの袖(そで)漬(ひつ)までに哭(ね)のみし泣かも(万葉集)、
と、
四段活用、
であった(岩波古語辞典)が、平安中期に、
袖ひつる時をだにこそなげきしか身さへしぐれのふりもゆくかな(蜻蛉日記)、
と、四段活用から、
上二段活用、
になった(大言海・精選版日本国語大辞典・仝上)とされる。
天の川なぬかを契る心あらばほしあひばかり影を見よとや(玉葉集)
あまのかは七日をちぎる心あらばほしあひばかりのかげをみよとや(蜻蛉日記)
等々とも使われる、
星合(ほしあひ)、
は、
牽牛・織女の二星があうこと、
とある(仝上・久保田淳訳注『新古今和歌集』)。で、
星合の空、
というと、
初秋はまだ長からぬ夜半なれば明くるや惜しき星合の空(風雅集)、
雲間より星合の空を見わたせばしづ心なき天の川波(新古今和歌集)、
と、
天で二星が逢う七夕の夜の空、
である(仝上)。
「星」の古字には、
曐、
皨、
𠻖、
などがある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%98%9F)が、
「星」(漢音セイ、呉音ショウ)は、
会意兼形声。「きらめく三つのほし+音符生」で、澄んで清らかにひかるほし。晶(ショウ・セイ)と生(ショウ・セイ)のどちらを音符と考えてもよい。生は、はえでたばかりのみずみずしい芽の姿、
とある(漢字源)が、他は、
形声。音符「晶 /*TSENG/」+音符「生 /*TSENG/」。「ほし」「天体」を意味する漢語{星 /*seeng/}を表す字。もと「晶」が{星}を表す字であったが、音符を加えた(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%98%9F)、
形声。意符晶(ほしの形。日は省略形)と、音符生(セイ)とから成る。「ほし」の意を表す(角川新字源)、
形声文字です(晶+生)。「ほし」の象形と「草・木が地上に生じてきた」象形(「生える、生きる」の意味だが、ここでは「清」に通じ、「すみきっている」の意味)から、澄んだ光の「ほし」を意味する「星」という漢字が成り立ちました。「曐」は「星」の旧字、「星」は「曐」の略字です(https://okjiten.jp/kanji89.html)、
といずれも、形声文字とする。
参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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