刈萱(かるかや)


うらがるる浅茅か原の刈萱(かるかや)の乱れてものを思ふころかな(新古今和歌集)、

の、

うらがるる、

は、

葉末が枯れる、

意、

刈萱、

は、

イネ科の多年草、

とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。

刈萱、

は、

刈草、

とも当てる(広辞苑)のは、古くは、

秋風の乱れそめにしかるかやをわれぞつかねて夕まぐれ見し(古今六帖)、

と、

屋根葺きのため刈り取る草(かや)の総称、

をいったから(日本語源大辞典・大言海)で、転じて、

草の花は、撫子、唐のはさらなり、大和のもいとめでたし、をみなへし(女郎花)、桔梗、あさがほ、かるかや、菊、つぼすみれ(枕草子)、

と、

イネ科の多年草、オガルカヤとメガルカヤの総称、

となり(仝上)、

主として、メガルカヤのことをいう(精選版日本国語大辞典)、
メガルカヤの別称(動植物名よみかた辞典)、

ともあるので、

メガルカヤ、

のことのようである。

メガルカヤ.jpg

(メガルカヤ デジタル大辞泉より)

オガルカヤ.jpg

(オガルカヤ https://neko-net.com/hana/archives/25351より)

雌刈萱(メガルカヤ・メカルカヤ)、

は、

イネ科の多年草。本州、四国、九州の池のほとりや湿った草地に生える。高さ七〇~一〇〇センチメートル。葉は狭線形で基部は鞘状、縁に長毛を密生。九~一〇月、房状の花穂を円錐形につける。各花穂には苞葉があり、小穂は下部につく四個の雄花と中央の両性花一個からなる。ひげ根でたわしや刷毛をつくる、

とあり、

かるかや、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。ちなみに、

雄刈萱(オガルカヤ)、

は、

イネ科の多年草。本州、四国、九州の丘陵地の草原や土手などに生える。全体に香気があり、稈(かん)は叢生(そうせい)して、高さ六〇~一〇〇センチメートルになる。葉は線形で長さ一五~四〇センチメートルで先は次第にとがり、基部は長いさやとなる。夏から秋にかけて赤紫色、または緑色の花序をまばらにつける、

とあり(仝上)、

いぬがるかや、
すずめかるかや、
かるかや、
あきわれもこう、

等々とも呼ばれる(仝上)。

かや、

は、

萱、
茅、
草、

と当て(岩波古語辞典)、古くから、

屋根材や飼肥料などに利用されてきたイネ科、カヤツリクサ科の大型草本の草本の総称、

で(日本語源大辞典)、

ススキ、
スゲ、
チガヤ、

等々を指す(仝上)。その意味で、

草、
葺草、

を当てて、

刈りて屋根を葺く物の意、

の、

かや、

と、

茅、
萱、

と当てて、

屋根を葺くに最良なれば、カヤの名を専らにす、

ために、和名類聚抄(931~38年)に、

萱、加夜

とあるように、

その草の名とした、

かや、

とを区別している『大言海』は卓見というべきである。なお、「チガヤ」については、「浅茅生」で、「ススキ」にいては「尾花」で、触れた。

ススキ.jpg


かや、

は、

ネやムギなどの茎(藁)は水を吸ってしまうのに対し、茅の茎は油分があるので水をはじき、耐水性が高い。 この特徴から茅の茎は屋根を葺くのに好適な材料、

であったhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%A4_(%E8%8D%89)ので、屋根を葺くために刈り取った茅をとくに、

刈茅(かるかや)。

と呼び、これを用いて葺いた屋根を、

茅葺(かやぶき)屋根、

と呼んだ(仝上)。

以前の日本では最も重要な屋根材として用いられた。

「萱」.gif


「萱」(漢音ケン、呉音カン)は、「恋忘れ草」で触れたように、

形声。「艸+音符宣(セン・ケン)」、

とある(漢字源・https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%90%B1・角川新字源)。「わすれぐさ」ともいい、

この草を眺めると憂いを忘れる、

というので、

忘憂草、

ともいう(仝上)。別に、

会意兼形声文字です(艸+宣)。「並び生えた草」の象形(「草」の意味)と「屋根・家屋の象形と物が旋回する象形」(天子が臣下に自分の意志を述べ、ゆき渡らせる部屋の意味から、「行き渡る」の意味)から、行き渡る草「忘れ草(食べれば、うれいを忘れさせてくれる草)」を意味する「萱」という漢字が成り立ちました、

ともあるhttps://okjiten.jp/kanji2238.html。なお、「萱」の異字体には、

萲、
蕿、
藼、
蘐、

がある(漢字源・https://kanji.jitenon.jp/kanjie/2263.html・漢辞海)。

「茅」.gif

(「茅」 https://kakijun.jp/page/0898200.htmlより)

「茅」(漢音ボウ、呉音ミョウ)は、「浅茅生」で触れたように、

会意兼形声。「艸+音符矛(ボウ 先の細いほこ)」

であり、尖った葉が垂直に立っている様子から、矛に見立てたものであり、「ちがや」「かや」の意である、

とある(漢字源)が、

形声。艸と、音符矛(ボウ)→(バウ)とから成る。「かや」の意を表す(角川新字源)、

と、形声文字とする説もある。

参考文献;
久保田淳訳注『新古今和歌集』(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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