渙汗
九重承渙汗(九重(きゅうちょう)に渙汗(かんかん)を承け)
千里樹芳菲(千里に芳菲(ほうひ)を樹(う)えたり)(鄭審・奉使巡検両京路種果樹事畢入秦因詠)
の、
九重、
は、『楚辞』の「九弁」に、
君之門以九重(君の門九重を以てす)、
とあり、
宮殿の門を九つ重ねて作ってあること、
から、
宮廷・宮中、
を指す(https://kanbun.info/syubu/toushisen151.html)。
渙汗、
は、
君主の命令、
つまり、
詔勅、
を言い(前野直彬注解『唐詩選』)、「易経」に、
九五、渙汗其大號。渙王居、无咎(九五、渙(かん)するとき其の大号(たいごう)を汗にす。渙(かん)して王居(お)れば、咎(とが)无(な)し)、
とあり、
その大号を渙汗す、
の、
渙、
は、
流れ散ること、
つまり、
君主の命令は汗の渙(なが)れるように、一度出たならば、修正され、あとへ戻ることはない、
ところから、こういうとある(仝上)。
渙汗之恩、宜及瘡痍之俗(冊府元龜)、
とあり、
広く大なり、
の意で、
王者の詔を出す義、
で、上述のように、
汗が出でて返らざる如く、詔令発すれば取り消すべからず、
の含意である(字源)。
綸言汗の如し、
と類語である。
綸言、
は、
「綸」は組糸。天子の言は、そのもとは糸のように細いが、これを下に達する時は綸のように太くなる、
意で(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、
詔(みことのり)、
の意。
綸言汗の如し、
は、
王言如糸、其出如綸、王言如綸、其出如綍(王言糸の如し、其の出づるや綸の如し、王言綸の如し、其の出づるや孛(ふつ 大なわ)の如し)(「礼記(らいき)」)
号令は汗の如し、汗は出て反(かえ)らざる者也(漢書・劉向(りゆうきよう)傳)、
等々による、
一度口に出した君主の言は、汗が再び体内に戻らないように、取り消すことができない、
意である(仝上)。なお、
渙汗、
は、また、
渙者散釋之名、大徳之人、建功立業、散難釋険、故謂之渙(易経)、
と、
卦の名、
で、周易六十四卦(カ)のひとつ、
坎下巽(カンカソンショウ)の形、
とされ、
渙兮若氷之将釋(渙として氷の将に釋(と)けんとするがごとし)(詩経)、
と、
艱難が離れて事が広がるさまを示す、
とある(字源・漢字源)。
渙、
は、
渙は亨(とお)る、
とあり、
渙とは渙散、散らすの意、
とある(高田真治・後藤基巳訳『易経』)。
「渙」(カン)は、
会意兼形声。「水+音符奐(ゆとりをあけて出る)」
とある(漢字源)が、
形声。声符は奐(かん)。奐は婦人の分娩の象であろう。その側身形は免(免)、俛・娩はその系統の字。渙ははげしく水の散る意。〔説文〕に「散りて流るるなり」とみえるが、自然に流れる水の状態ではない。獣子の生まれることを羍(たつ)といい、逹(達)はそのさまをいう。みな勢いづいたさまをいう語である、
ともある(字通)。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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