2024年11月28日
いも(妹)
秋風は身にしむばかり吹きにけり今やうつらむ妹(いも)が狭衣(新古今和歌集)、
の、
いも、
は、
妻、
の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。
いも、
の対は、
せ(兄)、
である(岩波古語辞典)。平安時代以降多く使われた、
いもうと、
は、
イモヒトの音便形、
である。
いも、
は、元来、
次に成れる神の名は、宇比地邇上神(うひぢにのかみ)、次に妹(いも)須比智邇去神(すひぢにのかみ)(古事記)、
と、
男性の側から、同腹の姉妹を呼ぶ語、
で、
年齢の上下に関係なく、姉をも妹をも呼ぶ、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
いもこ、
ともいう。ただ、
古は、兄弟、長幼を問はず、女は男を以て兄(せ)と言ふ、男は女を以て妹(いも)と言ふ(日本書紀・仁賢紀註)、
とある。平安時代以降、
いもうと、
にとって代わり、
この意味の、
いも、
は、歌謡・熟語に残った、
とある(岩波古語辞典)。この意味が転じて、
是に其の妹(いも)伊邪那美命を相ひ見むと欲して、黄泉国(よみのくに)に追ひ往く(古事記)、
と、
男性から結婚の対象となる女性、または、結婚をした相手の女性をさす称、
となる(精選版日本国語大辞典)。雄略紀の、
吾妹(わぎもこ)、
註に、
稱妻為妹、盖(蓋)古之俗乎、
とあり、
恋人、
妻、
の意で、
兄(せ)、
が対語である。
妻問い婚の時代に、男が訪問して結婚することを許した女を、男が呼ぶ称、
ともある(岩波古語辞典)。その他、
本辺(もとへ)は君を思ひ出末辺(すゑへ)は伊毛(イモ)を思ひ出(古事記)、
と、
年ごろの若い娘、
お嬢さん、
娘さん、
の意や、
風高く辺には吹けども妹(いも)がため袖さへ濡れて刈れる玉藻そ(万葉集)、
と、
女性が同性の友人や自分のいもうとなど親しい女性、
をさしていう、
あなた。
の意味でも使う。この、
いも、
は、
モはメ(女)に通う(日本語源=賀茂百樹)、
イは発語、モは向う義(東雅・万葉集類林・和訓栞)、
妻は夫より劣ったものという考えから、イロヲトリの義(関秘録)、
いきてあるうちおもうという意か(和句解)、
イはイトシキ意、モはミ(身)の転(国語の語根とその分類=大島正健)、
イは接頭語、モはセに対立する語(日本古語大辞典=松岡静雄)、
姻の音、Imの語尾MをMoと変えたもの(日本語原考=与謝野寛)、
等々諸説あるが、どうも付会にすぎ、
いも、
は、
母の「おも」、女の「め」などと関係があり、近親の女性を指したのが原義であろう、
とあり(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)、前述のように、
万葉集には、女性が同性の友人や姉妹を指して「いも」と呼ぶ場合があることも、そこから説明できる、
とある(仝上)。平安時代以後、前述の通り、
いも、
が、
歌語化、
したが、それは、
いもうと、
という語が成立したことが遠因である。この、
いもうと、
は、上述したように、
いもひと(妹人)の音便形、
で、
せうと(しようと)の対、
である(岩波古語辞典・日本語源大辞典)。
昔、男、いもうとのいとをかしげなりけるを見をりて(伊勢物語)、
と、
男性(兄弟)の側から、姉妹を呼ぶ語、
で、古くは、
年齢の上下に関らず姉をも呼んだが、のち、年下の女きょうだいだけに限られるようになった、
とある(精選版日本国語大辞典)。で、
せうと、
は、
セヒト(兄人)の音便形、
で、
姉妹から見て兄弟をいう語、
になる(岩波古語辞典)。さらに、
いもうと、
は、
このいもうと、せうとといふことは、上(うへ)までみな知ろしめし、殿上にも、司(つかさ)の名をば言はで、せうととぞつけられたる(枕草子)、
と、
(兄妹になぞらえて)男の側から、親しい女性をさしていう、
例もある(精選版日本国語大辞典)。それが、
姉はいもうとに問へと言ふ、妹は姉に問へと言ふ(平家物語)、
と、
女のきょうだいのうち、年下のほう、
を指すようになる(岩波古語辞典)。和名類聚抄(931~38年)に、
妹、女子後生為妹、以毛宇止(いもうと)、
とある。ただ、
いもうと、
は、
平安時代には、男性側が使う言葉で、女性が自分の年下の女きょうだいさして用いた例は見当たらない、
とある(日本語源大辞典)。だから、
おとうと、
と、男女別の対をなすようになるのは中世以後である(精選版日本国語大辞典)。一般的に、
「妹」「弟」のような年下の方を表わす語は年上からの呼びかけとしては使わない。名前、あるいはあだ名のようなもので呼ぶのが普通である。逆に、兄弟姉妹の年下は年上に対して、名前そのもので呼びかけはせず、「兄さん」「姉さん」あるいはそれに準じた呼び方、またはあだ名のようなもので呼ぶことが多い、
ともある(仝上)。
なお、
かしこきや命(みこと)蒙(かが)ふり明日(あす)ゆりや草(かえ)が共(むた)寝む伊牟(イム)なしにして(万葉集)、
と、
「いも(妹)」の上代東国方言に、
いむ(妹)、
があり、
己が妹(イモト)日(ひ)之媛(ひめ)を献る(日本書紀)、
と、
「いもうと(妹)」の変化した語に、
いもと(妹)、
旅とへど真旅になりぬ家の母(モ)が着せし衣に垢つきにかり(万葉集)、
と、
「いも(妹)」の変化した語に、
も(妹)、
もある(仝上)。
「妹」(漢音バイ、呉音マイ・メ)は、
会意兼形声。未は、木の字の先に一印をつけ、まだ伸びきらぬ若枝を示す。妹は「女+音符未」で、まだ成育しきらぬ若い女、つまり女きょうだいのうちのいもうとを意味する、
とある(漢字源)。また、
会意兼形声文字です(女+未)。「両手をしなやかに重ねひざまずく女性」の象形(「女」の意味)と「木に若い枝が伸びた」象形(「まだ小さい」の意味)から「まだ小さい、いもうと」を意味する「妹」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji38.html)が、
形声。「女」+音符「未 /*MƏT/」。「いもうと」を意味する漢語{妹 /*məəts/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A6%B9)、
形声。女と、音符未(ビ)→(バイ)とから成る。年下の女きょうだいの意を表す(角川新字源)、
も、形声文字とする。
参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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