莫比冥霊楚南樹(比す莫れ 冥霊(めいれい) 楚南の樹(じゅ)の)
朽老江邊代不聞(江辺(こうへん)に朽老(きゅうろう)して代(よ)に聞こえざるに)(張説・遥同蔡起居偃松篇)
の、
冥霊、
は、
伝説的な木の名、非常に長命だという、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。「列子」湯問篇に、
荊之南有冥霊者、以五百歳為春、五百歳為秋(荆の南に冥霊なる者有り、五百歳を以て春と為し、五百歳を秋と為す)、
とあるのにもとづく(仝上)とある。ちなみに、この続きは、
上古有大椿(たいちん)者、以八千歳為春、八千歳為秋(上古大椿(だいちん)者有り、八千歳を以って春と為し、八千歳を秋と為す)、
とある。「荘子」逍遥遊にも同文があり、つづいて、
而彭祖(ほうそ 長寿で知られた伝説的人物)乃今以久特聞、衆人匹之、不亦悲乎、
とある(Downloads/gakuho01_46-1-02.pdf)。なお、
荆(荊)南、
は、いまの
湖南省の地方、
で、この詩の
作者の流された岳州のあたりを含む、
とある(前野直彬注解『唐詩選』)。
冥霊(めいれい)、
は、
以五百歳為春、五百歳為秋、
以八千歳為春、八千歳為秋、
とあるので、
長寿の大樹、
とする説のように思えるが、別に、
溟海にいるという長寿の亀(かめ)、
とする説もある(字源・精選版日本国語大辞典)。
「冥」(漢音メイ、呉音ミョウ)は、「冥加」で触れたように、
会意。「冖(おおう)+日+六(入の字の変型)」で、日がはいり、何かにおおわれて光のないことを示す。また冖(ベキ おおう)はその入声(つまり音 ミャウ)にあたるから、冖を音符と考えてもよい、
とある(漢字源)。別に、
会意。「冖」(覆う)+「日」+「六」(穴の象形)を合わせて、日が沈んで「くらい」こと、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%86%A5)、
会意。冖と、日(ひ、明かり)と、(六は変わった形。両手)とから成る。両手で明かりをおおうことから、「くらい」意を表す、
とも(角川新字源)、
会意兼形声文字です(冖+日(口)+六(廾))。「おおい」の象形と「場所を示す文字」と「両手でささげる」象形から、ある場所におおいを両手でかける事を意味し、そこから、「くらい(光がなくてくらい、道理にくらい)」を意味する「冥」という漢字が成り立ちました、
とも(https://okjiten.jp/kanji1619.html)あり、「六」の解釈が分かれる。
(「靈」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%88より)
「靈(霊)」(漢音レイ、呉音リョウ)の異字体には、
灵(簡体字)、霛、 𢩙、 𧨈、 𩄀、 𩆮(古字)、 䨩、 𠳄、 𡀓、 𤫊、 𤴤、 𦊄、 𧈀、 𩂊、 𩃏、 𩄇、 𩆜、 𫻝、 𬋣、 𬰑、 𬻼(同字)、 𩂳(俗字)、
等々がある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%88)が、
会意兼形声。霝(レイ)は、「雨+〇印三つ(水玉)」を合わせた会意文字で、連なった清らかな水たま。零と同じ。靈は「巫(みこ)+音符霝」で、神やたましいに接する清らかな巫女。転じて、水たまのように冷たく清らかな神の力やたましいをいう。冷(レイ)とも縁が近い。霊はその略字、灵は、中国で霊の簡体字、
とある(漢字源)。同趣旨に、
会意兼形声文字です(霝+巫)。「雲から雨がしたたり落ちる」象形と「口」の象形と「神を祭るとばり(区切り)の中で人が両手で祭具をささげる」象形から、祈りの言葉を並べて雨ごいする巫女を意味し、そこから、「神の心」、「巫女」を意味する「霊」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1219.html)、
ともあるが、
形声。「巫」+音符「霝 /*RING/」。「みたま」「たましい」を意味する漢語{靈 /*reeŋ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9D%88)、
形声。意符巫(ふ)(みこ)と、音符霝(レイ)とから成る。雨ごいするみこの意を表す。常用漢字は省略形による。(角川新字源)、
は、形声文字とする。
参考文献;
前野直彬注解『唐詩選』(岩波文庫)
簡野道明『字源』(角川書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95