2025年01月07日
弟日娘女(おとひをとめ)
霰打つ安良礼(あられ)松原住吉(すみのゑ)の弟日娘女(おとひをとめ)と見れど飽かぬかも(長皇子)
の、
安良礼松原、
は、
大阪市住吉区付近の松原、
をいい、
住吉(すみのゑ)、
は、
すみよしの古称、
で、
大阪市住吉区、
とある(https://sanukiya.exblog.jp/26809964/)。
弟日娘子、
の、
弟日、
は、
倭(やまと)は彼彼茅原(そそちはら)浅茅原(あさちはら)弟日(オトヒ)、僕是(やつこらま)(日本書紀)、
と、
兄弟のうち年若い者、
をいい、
弟、
また、
妹、
を指す(広辞苑)。
をと、
は、
をとめ、
をとこ、
で触れたように、
をつの名詞形、
であり、「をつ」は、
変若つ、
復つ、
と当て、
変若(お)つること、
つまり、
もとへ戻ること、
初へ返ること、
で、
我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ(大伴旅人)、
と、
若々しい活力が戻る、
生命が若返る、
意であり(仝上・大言海)、
若い、
未熟、
の含意である。
をとめ、
は、
をとこ、
で触れたように、古くは、
をとこの対、
であり(岩波古語辞典)、
少女、
乙女、
と当てる(広辞苑・大言海)。和名類聚鈔(平安中期)は、
少女、乎止米、
類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう 11~12世紀)は、
少女、ヲトメ、
としている。
ひこ(彦)、
ひめ(姫)、
などと同様、「こ」「め」を男女の対立を示す形態素として、「をとこ」に対する語として成立したもので(精選版日本国語大辞典)、
ヲトは、ヲツ(変若)・ヲチ(復)と同根、若い生命力が活動すること。メは女。上代では結婚期にある少女。特に宮廷に奉仕する若い官女の意に使われ、平安時代以後は女性一般の名は「をんな(女)」に譲り、ヲトメは(五節の)舞姫の意、
とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
今星川王(ほしかはのみこ)、心に悖(さかしま)に悪しきことを懐(いだ)きて、行(わさ)、友于(ゆうう 兄弟の道 このかみオトヒト)に闕(か)けり(日本書紀)、
の、
弟人(おとひと)、
というと、
おとうと(弟)、
であり、
あに、
で触れたように、
おとうと、
の、
「え(兄・姉)」の対。オトシ(落)・オトリ(劣)のオトと同根、
とある(岩波古語辞典)。
え(兄・姉)、
は、
同母の子のうち年少者から見た同性の年長者。弟から見た兄、妹から見た姉、
を指す。つまり、下から見て、「え」という。「うへ(上、古くはウハ)」という意味ではあるまいか。
上(うへ)の約(貴(あて)も、上様(うはて)の約ならむ)(大言海)、
とある。逆に、年上から見て、下のものを、
おと、
という。
「え」は、弟から見た兄、妹から見た姉
「おと」は、兄から見た弟、姉から見た妹、
となる(仝上)。
三野国造の祖、大根王の女、名は兄比売、弟比売の二人の嬢女(おとめ)、其の容姿麗美(かたちうるは)しと聞し定めて(古事記)、
の、
おとひめ(弟姫・乙姫)、
は、
兄姫(えひめ)の対、
で、
妹の姫、
末の姫、
の意の他、
篠原の意登比売(オトヒメ)の子をさ一夜(ひとゆ)も率寝(ゐね)てむ時(しだ)や家にくださむ(肥前風土記)、
と、
年若く美しい姫、
の意でつかうが、
龍宮の乙(ヲト)ひめなどの出池のをもに遊て(「玉塵抄(1563)」)、
と、浦島伝説などによって、
竜宮に住むという乙姫、
と、固有の名となっていたりする(世界大百科事典)。
「弟」(漢音テイ、呉音ダイ、慣用デ)の異字体は、
𠂖、 𢦢(古字)、𭞟(同字)、 𬼺(俗字)、弚(訛字)、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%9F)、
指事。「ひものたれたさま+捧ぐい」で、棒の低いところを/印で指し示し、低い位置をあらわす。兄弟のうち大きい方を兄、背丈の低いのを弟という。また低く穏やかにへりくだる気持ちを弟・悌(テイ)という、
とある(漢字源)が、他は、
象形。「柲」(戈の柄)に縄を巻き付けたさまを象る。『説文解字』では「韋」と関連付けているが、これは誤った分析である。甲骨文字の形を見ればわかるように「韋」とは関係がない(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%BC%9F)、
象形。なめし皮で物を順序よく巻きつけている形にかたどり、順序の意を表す。ひいて、「おとうと」の意に用いる。(角川新字源)、
象形文字です。「ほこ(矛)になめし皮を順序良くらせん形に巻きつけた形」から「順序」の意味を持つ「弟」という漢字が成り立ちました。また、出生の順番の遅い「おとうと」を意味します(https://okjiten.jp/kanji37.html)、
象形。韋皮(なめしがわ)の紐でものを束ねた形。〔説文〕五下に「韋束の次第なり。古字の象に從ふ」とあり、次第してものを締結する意。のち兄弟の意に用いる。第は後起の字である(字通)、
と象形文字とする。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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