2025年01月16日

しましく


吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも(弓削皇子)
秋山に散らふ黄葉(もみじば)しましくはな散り乱(まが)ひそ妹があたり見む(柿本人麻呂)

の、

しましく、

は、

暫しく、

とあて、

しばらくの間、
少しの間、

の意である(広辞苑)。

しましく、

の、

クは副詞語尾、

とあり(岩波古語辞典)、

しましく、

の、

しまし、

は、

霍公鳥(ほととぎす)間(あひだ)之麻思(シマシ)置け汝が鳴けば吾が思ふ心いたも術(すべ)無し(万葉集)、

と、

しましく、

と同義で、上代語で、

しばし(暫し)、

の古形(精選版日本国語大辞典)、

限定された少時間内、

の意を表わし、

わずかの間、
少しの時間、
少時、
当分、

の意になる。

シマル(締まる)と同根、緊密で、隙間のないこと、転じて、時間の詰まっている状態、

とある(岩波古語辞典)が、

シバシナルコト(暫しなる事)、シバシナラク(暫しならく)、「シナ」を脱落してシバラク(暫らく)、また「なら」を脱落して(シバシク)・シマシク(暫く)に転音して、共に副詞化した、

とする説は、

しばし、

は、

「しまし(暫)」の変化した語(精選版日本国語大辞典)、
シマシ(暫)の転、平安女流文学で使われた(岩波古語辞典)、
「しまし」は「しばし」の古語(大言海)、

とされる、

しまし→しばし、

の転訛と先後が逆なのではないか。

「暫」.gif

(「暫」 https://kakijun.jp/page/1544200.htmlより)

「暫」(漢音ザン、呉音サン)は、

会意兼形声。斬(ザン)は「車+斤(おの)」からなり、刃物で車に切り込みを入れることを示す。中間に割り込む意を含む。暫は「日+音符斬」で、仕事の中間に割り込んだ少しの時間、

とある(漢字源)。同じく、

会意兼形声文字です(斬+日)。「車の象形と曲がった柄の先に刃をつけた斧の象形」(「刀で斬る」の意味)と「太陽」の象形から、斬りとられた時間を意味し、そこから、「しばらく」を意味する「暫」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1660.html

ともあるが、他は、

「会意形声文字」と解釈する説があるが、誤った分析であるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9A%AB

として、

形声。「日」+音符「斬 /*TSAM/」。「一時」「短い時間」を意味する漢語{暫 /*dzaams/}を表す字(仝上)、

形声。日と、音符斬(サム)とから成る。わずかの時間の意を表す(角川新字源)、

形声。声符は斬(ざん)。斬に一時断絶した状態にあることを示す意がある。〔説文〕七上に「久しからざるなり」という。漸と声義近く、漸は次第に他に及ぶ意で、暫が時間的であるのに対して、漸は場所的に浸透することをいう(字通)、

と、いずれも形声文字としている。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

ラベル:しましく 暫しく
posted by Toshi at 05:07| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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