2025年01月21日

言(こと)さへく


つのさはふ石見の海の言(こと)さへく唐(から)の崎なる海石(いくり)にぞ深海松(ふかみる)生(お)ふる荒磯(ありそ)にぞ玉藻は生ふる(柿本人麻呂)、

の、

つのさはふ、

は、

石見の枕詞、

で、

草の芽を遮る意か、

とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、

言さへく、

は、

唐の枕詞、

で、

言葉が騒がしく通じにくいの意、

とある(仝上)。

唐(から)の崎、

は、

島根県江津市大鼻崎あたりかという、

とある(仝上)。

海石(いくり)、

は、

海中の岩、
暗礁、

とある(広辞苑)。なお、

海松、

については、

みるめ

で触れたように、

海松、
水松、

と当て(岩波古語辞典)、

ミルメ(海松布)の略、分岐して生えているところからマル(散)と同義か(日本語源=賀茂百樹)、
ムルの転。ムルはマツラクの反、松に似ているところから(名語記)、
海に居て形が松に似ているから(https://www.flower-db.com/ja/flowers/codium-fragile)
「水松」を「うみまつ」と読ませ、「俗にいう海松」と説明している(和漢三才図絵)。

とあり、おそらく、

ミルメ(海松布)の略、

かと思われる。

ミルは、

学名:Codium fragile、

世界中の温かい海に生息する緑藻という海藻の一種、日本各地の海の潮間帯下部〜潮下帯の岩礁に生息し、色は深緑で二分枝しながら長さ40cm程に成長します。枝の断面は太さ1cm程で丸く長いのが、人間の指の様に見えます。以前は食用として食べられていましたが現在では日本では食用としていません、

とあるhttps://www.flower-db.com/ja/flowers/codium-fragile

つのさはふ(つのさわう)、

の、

つの、

は、

つな、つた、つると同源(広辞苑)、
ツノはツナ(綱)の母音交替形、サハフはサハ(多)、ハフ(這)の約か(岩波古語辞典)、

とあり、

菟怒瑳破赴(ツノサハフ)磐之媛(いわのひめ)がおほろかに聞こさぬ末桑(うらぐは)の木寄るましじき川の隈々(くまくま)寄ろほひ行くかも末桑の木(日本書紀)、

と、

人名「磐之媛(いはのひめ)」、地名「磐余(いはれ)」「石見(いはみ)」など、語頭に「いは」をもつ語にかかる、

とあり(精選版日本国語大辞典)、これを受ける人名・地名は、

「いは」を共有しているので、「岩」の意を介して続くと思われる、

とある(仝上)。

つのさはふ、

は、

冒頭の歌の他、「万葉集」中の五つの例、つまり、

つのさはふ磐余(いわれ)の道を朝去らず行きけむ人の思ひつつ通(かよ)ひけまくはほととぎす、
つのさはふ磐余も過ぎず泊瀬山いつかも越えむ夜は更けにつつ、
夢かもうつつかもと曇り夜の迷へる間にあさもよし城上(きのへ)の道ゆつのさはふ磐余を見つつ神葬り葬りまつれば、
つのさはふ磐余の山に白栲にかかれる雲は大君にかも、

のすべてが、

角障経、

という表記であるところから、

「つの」は植物の芽、「さはふ」は「障(さ)はふ」で、芽の伸びるのをさまたげる岩の意で係るとする説、、
「つの」は岩角、「さは」は多で、角のごつごつした岩の意で係るとする説、
「つの」を「つな」「つた」と同源で、蔓性の植物とし、「さはふ」は「さは(多)・はふ(延)」の変化したものとして、蔦のからみついた岩の意で係るとする説、

などがある(仝上)が、上述した、

(「つの」は)つな、つた、つると同源(広辞苑)、
ツノはツナ(綱)の母音交替形、サハフはサハ(多)、ハフ(這)の約か(岩波古語辞典)、
つる。つた。葛蔓、「つのさわう」の形で枕詞として用いられる(精選版日本国語大辞典)、

と、

つる、

の可能性が高いが、

語義・かかりかた未詳、

というところのようだ(精選版日本国語大辞典)。

ことさへく、

は、

「こと」は「言」。「さえく(さへく)」はやかましくしゃべる意)から、外国人のことばがわかりにくく、やかましく聞こえるところから、よくしゃべる意(精選版日本国語大辞典)、
「さへく」は、囀る意、外国人のことばの聞き分けにくい意(広辞苑)、
ことは、言なり、さへくは、四段活用の動詞にて(名詞形に、佐伯(さへき)となる)、囀る、喧擾(さばめ)くと通ず、ザワザワと物言う義にて、外国人の言語の、聞き分けがたき意(大言海)、
サヘクはサヘズル(囀)と同根。コトサヘクは意味の分からない言葉をぺちゃくちゃ言うこと(岩波古語辞典)、

などから、

「韓(から)」「百済(くだら)」、同音語を持つ地名「からの崎」「くだらの原」にかかる、

枕詞として使われる。後世、

むつかしやことさやく唐人(からひと)なればお言葉をも、とても聞きも知らばこそ(光悦本謡曲「白楽天(1464頃)」)、

と、訛って、

ことさやく、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

さへく、

は、

喧く、

と当て、

さわがしい声で物を言う、
聞き分けにくいように物を言う、

である(仝上・デジタル大辞泉)。

類義語、

さわぐ

については、触れた。

「囀」.gif


「囀」(テン)は、

会意兼形声。「口+音符轉(テン)」。轉は、ころがす意を含むが、囀はそれと同義、

とある(漢字源)が、

形声。声符は轉(転)(てん)。〔玉篇〕に「鳥鳴くなり」とあり、鳴きつづける鳥の声をいう(字通)、

と、形声文字とするものもある。

「喧」.gif


「喧」(漢音ケン、呉音コン)は、

形声。「口+音符宣(セン・ケン)」。口々にしゃべる意。歡(歓 口々に喜ぶ)とも縁がちかい、

とある(漢字源)。

形声。口と、音符宣(セン)→(クヱン)とから成る。(角川新字源)
形声。声符は宣(せん)。宣に諠(けん)の声がある。喧・諠は声義同じく、大声で喧嘩することを、また諠譁という(字通)、

と形声文字とするものの他に、

会意兼形声文字です(口+宣)。「口」の象形と「屋根・家屋の象形と、物が旋回する象形(「めぐりわたる」の意味)」(部屋で、天子が家来に自分の意思をのべ、ゆきわたらせる事から、「のべる」、「広める」の意味)から、「大声で述べる・広める」事を意味し、そこから、「やかましい、うるさい」を意味する「喧」という漢字が成り立ちました、

と、会意兼形声文字とするものもあるhttps://okjiten.jp/kanji2396.html

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:47| Comment(0) | 言葉 | 更新情報をチェックする
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