そらかぞふ
そら数ふ大津の子が逢ひし日におほに見しくは今ぞ悔しき(柿本人麻呂)
の、
おほに見し、
は、
ぼんやりと、
の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
そら数ふ、
は、
空で数えると大凡である、
の意とあり、
大津、
にかかる枕詞とある(仝上)。
そらかぞふ、
は、
空數ふ、
と当て、
語義・かかる理由未詳、
とされる(デジタル大辞泉)が、
おおよそに数える意からか(広辞苑)、
そらにおおよそ数える意から(精選版日本国語大辞典)、
不確かに数える意から(岩波古語辞典)、
等々により、
おおよその意の「凡(おお)」と同音であるところからか、地名の「大津」「大坂」など、「大(おお)」を語頭に持つ語にかかる、
とされる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
空がらくる、
空おぼれ、
で触れたように、
空(そら)、
は、
天と地との間の空漠とした広がり、空間、
の意だが(岩波古語辞典)、
アマ・アメ(天)が天界を指し、神々の国という意味を込めていたのに対し、何にも属さず、何ものもうちに含まない部分の意、転じて、虚脱した感情、さらに転じて、実意のない、あてにならぬ、いつわりの意、
とあり(仝上)、
虚、
とも当てる(大言海)。で、由来は、
反りて見る義、内に対して外か、「ら」は添えたる辞(大言海・俚言集覧・名言通・和句解)、
上空が穹窿状をなして反っていることから(広辞苑)、
梵語に、修羅(スラ Sura)、訳して、非天、旧訳、阿修羅、新訳、阿蘇羅(大言海・日本声母伝・嘉良喜随筆)、
ソトの延長であるところから、ソトのトをラに変えて名とした(国語の語根とその分類=大島正健)、
ソラ(虚)の義(言元梯)、
間隙の意のスの転ソに、語尾ラをつけたもの(神代史の新研究=白鳥庫吉)、
等々諸説あるが、どうも、意味の転化をみると、
ソラ(虚)
ではないかという気がする。それを接頭語にした「そら」は、
空おそろしい、
空だのみ、
空耳、
空似、
空言(そらごと)、
等々、
何となく、
~しても効果のない、
偽りの、
真実の関係のない、
かいのないこと、
根拠のないこと、
あてにならないこと、
徒なること、
などと言った意味で使う(広辞苑・岩波古語辞典・大言海)。
「空」(漢音コウ、呉音クウ)は、「空がらくる」で触れたように、
会意兼形声。工は、尽きぬく意を含む。「穴+音符工(コウ・クウ)」で、突き抜けて穴があき、中に何もないことを示す、
とある(漢字源)。また、
会意兼形声文字です(穴+工)。「穴ぐら」の象形(「穴」の意味)と「のみ・さしがね」の象形(「のみなどの工具で貫く」の意味)から「貫いた穴」を意味し、そこから、「むなしい」、「そら」を意味する「空」という漢字が成り立ちました、
ともある(https://okjiten.jp/kanji99.html)が、
形声。穴と、音符工(コウ)とから成る。「むなしい」、転じて「そら」の意を表す(角川新字源)、
形声。声符は工(こう)。工には虹・杠のようにゆるく彎曲する形のものを示すことがあり、穴󠄁のその形状のものを空という。〔説文〕七下に「竅(けう)なり」、前条の竅字条に「空なり」とあって、空竅互訓。竅とは肉の落ちた骨骼のように、すき間のある穴。はのち天空の意に用いる(字通)、
と、形声文字とするものがあり、
象形、洞窟あるいは穴居を象る。「あな」を意味する漢語{穴 /*wiit/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%A9%B4)、
と、象形文字とするものもある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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