そほ


旅にしてもの恋(こひ)しきに山下(やました)の赤(あけ)のそほ船沖に漕ぐ見ゆ(高市黒人)

の、

赤のそほ舟、

は、

赤土を塗った官船、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

そほ色.jpg

(そほ色 デジタル大辞泉より)

そほ、

は、

赭、
朱、

と当て(学研全訳古語辞典)、

赤色の土、

をいい、上代、

顔料や水銀の原料、

として用いられた(精選版日本国語大辞典)、

ので、

その色、

にもいう(仝上・広辞苑)、

是に、兄、着犢鼻(たうさきし)て赭(ソホニ、別訓 そふに)を以て掌(たなうら)に塗り、面に塗りて(日本書紀)、

と、

そほに(赭土)、

ともいう(仝上・大言海)。なお、近世になると、

赭(ソボニ)とて赤き土を、手にぬり㒵に塗て勤られしかども(根無草)、

と、

ソボニ、

とも訓まれるようになった(精選版日本国語大辞典)とある。また、

いづくにぞま朱(そほ)掘る岡薦畳(こもたたみ)平群(へぐり)の朝臣(あそ)が鼻の上を掘れ(万葉集)、
仏(ほとけ)造るま朱(そほ)足らずは水溜まる池田の朝臣(あそ)が鼻の上を掘れ(仝上)、

と、

まそほ

ともいい、

真赭、
真朱、

と当て、訛って、

ますほ、

ともいう(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)。

ま、

は接頭語で、

そほ、

と同じく、

顔料や水銀などの原料の赤い土、

である(仝上)。後世、

垣根潜(くぐ)る薄(すすき)ひともと真蘇枋(ますほ)なる(蕪村句集)

と、

真すほなる、

で、

まっすぐ(真直ぐ)と真蘇枋(赤みの深い赤紫色)をかける、

と注釈(玉城司訳注『蕪村句集』)されるように、

蘇芳色、

に転じている。

蘇芳.jpg

(蘇芳色 デジタル大辞泉より)

蘇芳色、

は、マメ科の植物である蘇芳(スオウ)の芯材で染めたhttps://anoiro.com/jis/suo

黒みを帯びた赤色(広辞苑)、
やや紫がかった紅色(精選版日本国語大辞典)、

とある。

「赭」.gif

(「赭」 https://kakijun.jp/page/E6DE200.htmlより)

「赭」(シャ)は、

会意兼形声。「赤+音符者(煮 火が燃える)」。火の燃える色、

とある(漢字源)が、

形声。「赤」+音符「者 /*TA/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B5%AD

形声。声符は者(者)(しや)。〔説文〕十下に「赤土なり」とあり、建造物の塗飾に用い、呪的な意味をもつことがあった。〔詩、邶風、簡兮〕「赫、渥赭(あくしや)の如し」、〔詩、秦風、終南〕「顏、渥丹(あくたん)の如し」は、いずれも祝頌の詩である(字通)、

と、他は形声文字とする。類聚名義抄(11~12世紀)には、

赭 アカシ、代赭 アカツチ、

字鏡(平安後期頃)には、

赭 アカシ・アカム・アカツチ

とある(字通)。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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