鳥総(とぶさ)


鳥総(とぶさ)立て足柄山に船木伐(ふなぎき)り木に伐り行きつあたら船木を(万葉集)

の、

舟木、

は、

評判の美女の譬え、

とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、

木に伐り行きつ、

は、

ただの木として男が切っていった、

のは、

人妻になったことの譬え、

と注釈する(仝上)。上述の、

鳥総(とぶさ)、

は、

山の神を祭るために鳥総(梢の枝葉のついた部分)を切株の上に立てる、

とある(仝上)。

鳥総、

は、

朶、

とも当て、

朶立(とぶさたて)にて、材を割り裂く器の名かと云ふ、

とあり(大言海)、

鐇(たつき)

ともいう(大言海)とある。「たつき」で触れたように、

鐇、

は、

たつぎ、

とも訓ませ、

立削(タツゲ)の転にて、竪に我が方へ削る意かと云ふ、

として、

杣人の用いる手斧の、刃の広き大なるもの、

をいい、

木材を竪に切るもの、

で、横に斬るのを、

よき(斧)、

といい、

横切(よこきり)の約、

で、

をの(斧)の別称、やや小さきもの、

をいう(大言海・広辞苑)。和名類聚抄(931~38年)に、

斧、與岐、

鐇、多都岐、廣刃斧也、

とある。

よき【斧】.png

(「斧(よき)」 (石山寺縁起絵) 精選版日本国語大辞典より)

木を切る用具から来たとの説もある、

鳥総、

は、

木のこずえや、枝葉の茂った先の部分、

をいい、

昔、樵人が木を切ったあとに、山神を祭るためにその株などに、切った梢を立てた、

とある(広辞苑・デジタル大辞泉・大言海)。その流からか、

鳥総松(とぶさまつ)、

というと、

新年の門松を取り去った後の穴に、その松の一枝を立てておくもの、

をもいう(デジタル大辞泉)。なお、

鳥総立(とぶさたつ)、

で、

霞わけねにゆく鳥もとぶさたつあしがら山をこへぞくれぬる(「壬二集(1237~45)」)、

と、「足柄山」にかかる枕詞として使うが、これは、冒頭の、

「とぶさ立て足柄山に船木伐り」の歌の意味がわからなくなって、枕詞と誤認して用いたもの、

とある(精選版日本国語大辞典)。

「朶」.gif


「朶」(慣用ダ、漢音呉音タ)の異体字は、

朵(簡体字)、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%B6。字源は、

象形。木の枝のたれたさまを描いたもの、

とある(漢字源)が、「万朶花(まんだのはな)」「五朶雲(ごだのくも)」と、花や雲の固まりを数えたり、「耳朶」と耳たぶの意でも使う(仝上)。他も、

象形。先端が垂れ下がった稲穂を象る。「垂れる」を意味する漢語{朶(𥠄) /*toojʔ/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%B6

象形。枝先の花が垂れて動く形。〔説文〕六上に「樹木垂るること朵朵たり。木に從ひ、象形。此れ(すい)と同なり」とあり、は穂の秀でる形。朶の上部は秀の下部と同じく花房の形で、秀は穀類の花をいう。その垂れ動くさまが、獣が食を求めて顎(あご)を動かすのに似ているので、食べたいようすをすることを朶頤(だい)という(字通)、

と、象形文字とする。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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