日(け)


一日(ひとひ)こそ人も待ちよき長き日(け)をかく待たゆれば有りかつましじ(八田皇女)、

の、

日(け)、

は、

上代語、カ(日)の転(広辞苑・岩波古語辞典)、
カ(日)の交替形(角川古語大辞典・小学館古語大辞典)、
「か(日)」と同語源という(デジタル大辞泉)
フツカ(二日)・ミッカ(三日)の「カ(日)」が「ケ」に転じた(日本語の語源)、

などとあるのが大勢だが、

「ふつか(二日)」「みか(三日)」などの「か」や「こよみ(暦)」の「こ(甲乙は不明)」と同語源とする説が古くからあるが、「ふつか」「ようか(四日=ヨッカの古形)」「いつか(五日)」「むゆか(六日=ムイカの古形)」「なぬか(七日=ナノカの古形)」「やうか(八日=ヨウカの古形)」「ここぬか(九日=ココノカの古形)」「はつか(二〇日)」などから取り出されるのは「か」ではなくむしろ「うか」であると考えられ、「け」との関連は薄い、

ともあり(日本語源大辞典・精選版日本国語大辞典)、他には、

キヘ(来歴)の約(万葉集考)、
カはキ(キヘの約)を通わしいうもの(古事記伝)、

等々があるが、

「キヘ(来経)の約」とする説は成り立たない、

とあり(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)、何れかは、はっきりしない。

け(日)、

は、

君が行き気(ケ)長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ(古事記)、

と、

何日にもわたる期間、
二日以上の日、
日々、
日かず、

の意で(精選版日本国語大辞典)、

「ひ(日)」が一日をいうのに対して、二日以上にわたる期間をまとめていう語、

とされ(岩波古語辞典)、

このように複数だけを表す単語は日本語には他例がない、

とある(仝上)。ただ、この、

「ひ(日)」の複数を表す、

との説については、

日本語には文法範疇としての「複数」が認められないので疑問である、

ともあり(日本語源大辞典)、

け(日)、

の由来がますますわからない。なお、

我が命の全けむかぎり忘れめやいや日異(ひにけに)は思ひ益すとも(万葉集)、

の、

ひにけに(日異)、

の、

け、

は、

異、

の意で、

ke、

の音、

け(日)、

は、

kë、

の音と(岩波古語辞典)、上代、

「け(異)」は甲類音、
「け(日)」は乙類音、

と別であり、

日に日に、

とは別語である(精選版日本国語大辞典)。なお、

け(日)、

には、

青山の嶺の白雲朝に食(け)に常に見れどもめづらし吾(あ)が君(万葉集)、

と、

朝にけに、

の形で用いて、

―日ごと、
毎日、

の意でも使う(精選版日本国語大辞典)が、これを、

朝、

に対して、

昼間、

という意で解するものもある(広辞苑)。

か(日)、

は、

接尾語、

で、

助数詞、

として、

数を表す和語に付いて、日数を数えるのに用いる語、

で(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)、

日日(かが)並(な)べて夜には九夜(ここのよ)日には十加(カ)を(古事記)、

と、

昼の数についていう、

場合と、

百(もも)可(カ)しも行かぬ松浦路(まつらぢ)今日(けふ)行きて明日(あす)は来なむを何か避(さや)れる(万葉集)、

と、

一昼夜を単位として数える、

場合があり、この場合、

「五日かかる」「あと十日」のように、日数についてもいい、「三月三日」のように、ある基準の日から数えてその日数に当たる日をさしてもいう、

とある(精選版日本国語大辞典)。

か(日)、

の由来は、

来歴(きへ)の約なる、ケの転。五日(いつか)の日(ひ)などと云ふは、五来歴(いつきへ)の日の義(大言海)、
日を表す名詞ケの交替形か(時代別国語大辞典-上代編)、
カ(箇)から、ふつかのひ、みかのひ、などの「ひ」を略したので日の字の訓になる(南留別志)、
アカの略(非南留別志)、
カズ(數)の義(俚言集覧・名言通)、
カガヤクのカの音より出る(本朝辞源=宇田甘冥・国語の語根とその分類=大島正健)、
朝鮮語haiと同源(岩波古語辞典・国語学通論=金沢庄三郎)
日数詞の語構成を「個数詞語幹+カ」ではなく、「個数詞語幹+uka」とし、ウカなる語を想定(安田尚道)

等々がある。もし、上述したように、

「みか(三日)」「ようか(四日=ヨッカの古形)」「いつか(五日)」「むゆか(六日=ムイカの古形)」「なぬか(七日=ナノカの古形)」「やうか(八日=ヨウカの古形)」「ここぬか(九日=ココノカの古形)」「はつか(二〇日)」などから取り出されるのは「か」ではなくむしろ「うか」である、

とすると、

か(日)、

の意味は、

昼間、

の用例だけになり、

ケ、

との関連も薄くなる。

ちなみに、

ひ(日)、

は、

陽、

とも当てるように、色葉字類抄(1177~81)に、

日、ヒ、太陽精不虧也、

とあるように、

太陽をいうのが原義。太陽の出ている明るい時間、日中。太陽が出て没するまでの経過を時間の単位としてヒトヒ(一日)という、

とあり(岩波古語辞典)、この、

ヒ(日)、

の、

複数形はヒビ(日々)というが、二日以上の長い期間をひとまとめに把握した場合は、フツカ(二日)・ミカ(三日)のようにカ(日)という、

説については上述した。

この、

ひ(日)、

の由来については、

ケフ(今日)・キノフ(昨日)のフと同語原(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀)、
ヒ(霊)の義(東雅・言葉の根しらべ=鈴木潔子)、
ヒカリ(光)のヒから(国語の語根とその分類=大島正健)、
ヒ(火)の義(和句解・言元梯・名言通・日本語原学=林甕臣)、

等々あるが、

火、

は、

fï、

日、

は、

fi、

の音と、上代特殊仮名づかいでは、

「ひ(日)」の「ひ」は甲類、
「ひ(火)」の「ひ」は乙類、

であるところから、「ひ(火)」とは別語になる(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。

なお、

ひ(日)
ひ(火)

については触れた。

「日」.gif

(「日」 https://kakijun.jp/page/0459200.htmlより)


「日」 金文・西周.png

(「日」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5より)

「日」(呉音ニチ、漢音ヅツ)の異字体は、「」で触れたように、

冃(「冃」の同字)、囸、𡆠(則天文字)、𡆸、𡇁(古字)、𡈎、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5。字源は、

象形文字。太陽の姿を描いたもの、

とある(漢字源)。他も、

象形。太陽を象る。「たいよう」を意味する漢語{日/*nik/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5)

なお、『中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)によれば、

「日、實也、太陽之精不虧―日とは実(じつ)である。太陽の精髄は、満ち欠けがないということである。類音の「実」による注釈。月と異なり、常に欠けることがないことが、太陽の本質であると説く。「実」の中古音は zyit(Baxter 表記)であるが、語源的関連はない、

とされているhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%97%A5

象形。太陽の形にかたどる。太陽・日光・一日などの意を表す(角川新字源)

象形文字です。「太陽」の象形から「太陽のひ」を意味する「日」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji87.html

象形。太陽の形。中に小点を加えて、その実体があることを示す。三日月の形に小点を加えて、夕とするのと同じ。〔説文〕七上に「實(み)てるものなり。太陽の精は虧(か)けず」とするのは、〔釈名、釈天〕の「日は實なり。~月は缺なり」とするのによるもので、音義説である。日と實、月と缺とは、今の音ははるかに異なるが、古音は近く、わが国の漢字音にはなおその古音が残されている(字通)、

と、象形文字である。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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