もとな


相見(あひみ)ずは恋ひずあらましを妹を見てもとなかくのみ恋ひばいかにせむ(大伴稲公)
さ夜中に友呼ぶ千鳥物思(も)ふとわびをる時に鳴きつつもとな(大神郎女)

の、

もとな、

は、

元無く、

で、

むやみに、

の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。又、後者の歌の古義には、

もとな鳴きつつの意、

とある(大言海)。

もとな、

の、

「もと」は根元または根拠の意。「な」は「無し」の語幹、「もとづくところなく」が原義(広辞苑)、
「モト(元、本、根拠)+ナ(無)」、わけもなく、根拠もなく、むやみに、しきりに、やたらに、の意(日本語源広辞典)、
モトは根本・性根。ナは無しの語幹。性根もなくてどうにもならぬ、の意(岩波古語辞典)、
基(もと)なくの略(大言海)、
「もと」は根本の意。「な」は形容詞「無し」の語幹(デジタル大辞泉)、
「もと」は根元・根拠の意、「な」は形容詞「無し」の語幹で、理由なく、根拠なくの意から(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、解釈は多少異なるが、原義は、

玉かぎるほのかに見えて別れなば毛等奈(もとな)や戀ひむ逢ふときまでは(萬葉集)、
紫の帯の結びも解きもみず本名(もとな)や妹に戀ひわたりなむ(仝上)、

と、

なんのわけもなく、
よしなく、
とめどもなく、

といった意味が、シフトして、

心なき秋の月夜(つくよ)の物思(も)ふと寝(い)のねらえぬに照りつつもとな(万葉集)、
いづくより来りしものそ眼交(まなかひ)に母等奈(モトナ)かかりて安眠(やすい)し寝(な)さぬ(仝上)、

と、

やたらに……してどうにもならない、
しきりに、
みだりに、
無性に、

の意で使われる(大言海・広辞苑・岩波古語辞典)。多く、

自分には制御のきかない事態をあきれて眺めているさまに用いられる、

とある(精選版日本国語大辞典)。

「元」.gif

(「元」 https://kakijun.jp/page/0419200.htmlより)

「元」 甲骨文字・殷.png

(「元」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%83より)

「元」(漢音ゲン、呉音ガン、慣用ゴン)の異体字は、

圓(繁体字)、玄(語義)、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%83

圓、

は、

中国における貨幣単位、圆の別表記、

で、

玄、

は、

「玄」の避諱字。宋の時代では聖祖の諱「玄朗」を避けるため、清の時代では康熙帝の諱「玄燁」を避けるためと言われる、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%83。字源は、

象形。丌(人体)の上にまるい印(あたま)を描いたもので、人間の丸い頭のこと。頭は上部の端にあるので、転じて先端、はじめの意となる、

とある(漢字源)。他も、

象形。頭を強調した人体を象る。「あたま」を意味する漢語{元 /*ngon/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%85%83

象形。人の首の部分をまるく大きな形で示し、その下に人の側身形を加える。首の意。元首という。〔説文〕一上に「始なり」と元始の意とする。戦場で命を全うして無事に帰還し、廟に報告することを完といい、結髪してに廟報ずるを冠といい、虜囚を廟に献じてこれを殴(う)つことを寇という。元に正・嫡・長・大の意があり、みな頭首の意から出ている。自然界にも適用して、元気・太元のようにいう(字通)、

と、象形文字とするが、

指事。儿と、二(頭部を示す)とから成り、人の頭、ひいて、おさ、「もと」などの意を表す(角川新字源)、

と、解釈は似ているが、指事文字(抽象的概念を点や線の位置関係等で示す方法)とするものもある。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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