はつはつに人を相見ていかにあらむいづれの日にかまた外(よそ)に見む(河内百枝娘子)
この山の黄葉(もみぢ)の下(した)の花を我(わ)れはつはつに見てなほ恋ひにけり(万葉集)
の、
はつはつに、
は、
ちらりと、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
はつはつ、
は、
はつか、
はつ(初)、
と同根、
とあり(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、
端端、
とも当て(大言海)、
あることが、かすかに現われるさま、
ちょっと行なわれるさま、
を表わし、
ほんのちらっと、
ちらっと、
わずかに、
かすかに、
の意で(仝上・学研全訳古語辞典)、
形容動詞ナリ活用、
だが、
はつはつに、
と、
副詞的にも用いる(仝上)。後には、時間的な意味に転じて、
やっとのことでそうなるさま、
かつかつ、
の意でも使う(「日葡辞書(1603~04)」)。
はつか、
は、
僅か、
と当て、
わずか、
いささか、
の意であり(広辞苑)、
はつか、
の、
はつ、
は、
ハツ(初)と同根(岩波古語辞典)、
「はつはつ」と同語源で、「か」は接尾語(精選版日本国語大辞典)、
はつはつは極極(はつはつ)の義(大言海)、
などとあり、
春日野の雪間をわけて生ひいでくる草のはつかに見えし君はも(古今和歌集)、
と、
物事のはじめの部分がちらりと現われるさま、
瞬間的なさま、
かすか、
ほのか、
の意で、特に、
視覚や聴覚に感じられる度合の少ないさまを表わす、
とある(仝上・岩波古語辞典)。それが、時間的な表現にシフトして、
今宵の遊びは長くはあらで、はつかなるほどにと思ひつるを(源氏物語)、
と、少しの時間であるさまの、
しばらくの間、
ちょっと、
の意で使い(仝上)、その、
少し、
を、
わずか(僅か)、
と混同して、量的にシフトさせ、
其勢はつかに十七騎(平家物語)、
と、分量の少ないさまの、
ほんの少し、
わずか、
の意で用いるに至る(仝上)。
ハツ、
は、
初、
と当て、
最初にちらっとあらわれる意、
で(岩波古語辞典)、起源的には、
初雁、
初草、
初霜、
初花、
等々、
ハツハツ(端端)などのハツと同じく、ちらっとその端だけを示す意が根本、多く、その季節の最初にちらっとあらわれた自然の現象をいうのが古い用法、
とある(仝上)。また、
事物の周縁部を意味する語ハタ(端)と母音交替の関係にあるものか。上代にはハツカの例は見出せないが、ハツカと共通の形態素を持ち、意味的にも関連性が認められるハツハツが視覚に関して使用されることが多いという傾向が認められるので、ハツカの原義は、物事の末端を視覚的にとらえたさまを表わすところにあったと推測される。この点で、物事の分量的な少なさを表わすワヅカとの意味上の差異は明確であるが、後世には両語を混同して用いることも多くなる、
ともある(精選版日本国語大辞典)。なお、
初、
を、
うひ、
とよますと、
初陣、
初冠(うひかうぶり)、
等々、
事にたって初心で、不慣れで、ぎこちない意、
となる(仝上)。
(「初」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%9Dより)
(「初」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%9Dより)
「初」(漢音ショ、呉音ソ)の異体字は、
䃼、䥚、𠁉、𠜆、𠫎(古字)、𡔈、𢀯、𢀰(則天文字)、𣦂、𥘉、𥘨(訛字)、𥝢、𭃡、𭃨、𭖏、𮕥(俗字)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%9D)。字源は、
会意文字。「刀+衣」で、衣料に対して最初にはさみを入れて切ることを示す。また、最初に素材に切れめを入れることが、人工の開始であることから、はじめの意に転じた。創(ソウ 切る→創作・創造する)の場合と、その転義の仕方は同じである、
とある(漢字源)。他も、
会意。衤(衣)+刀を合わせて、布を切る事で衣の製作の「はじまり」を表す(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%88%9D)、
会意。刀と、衣(ころも)とから成り、衣を作るはじめの裁断、転じて、物事の「はじめ」の意を表す(角川新字源)、
会意文字です(衤(衣)+刀)。「衣服のえりもと」の象形(「衣服」の意味)と「刀」の象形から、刀で衣服を裁断する事を意味し、裁断する作業が衣服を作る手始めの作業である事から、「はじめ」を意味する「初」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji696.html)、
会意。衣+刀。衣を裁(た)ちそめる意。〔説文〕四下に「始なり。刀に從ひ、衣に從ふ。裁衣の始めなり」という。〔爾雅、釈詁〕に初・哉・肇・基など、「始なり」と訓する字を列するが、それらはいずれも、ことはじめとしての儀礼的な意味を背景にもつ字である。初・裁は神衣・祭衣を裁(た)つ意の字であろう。金文の「初見」「初見事」は君臣の礼。最初の意は引伸の義である(字通)、
と、何れも会意文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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