ふふむ


春雨を待つとにしあらし我がやどの若木(わかき)の梅もいまだふふめり(藤原久須麻呂)

の、

ふふめり、

は、

つぼんだまま、

と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

ふふむ、

は、

含む、

とあて、

ま/み/む/む/め/め、

の、自動詞マ行四段活用である。類聚名義抄(11~12世紀)に、

含、フクム・ククム・フフム・シノフ・ツボム、

とあるように、

花や葉がふくらんで、まだ開ききらないでいる、
つぼみのままである、

という意で使う(学研全訳古語辞典)が、それをメタファに、

五瀬の命矢に中(あた)りて薨(かむさ)りませり。天皇銜(フフミもち)たまふて常に憤懟(いかかみうらむること)を懐(いた)きて(日本書紀)、

と、

ある感情を内に抱く、多く、怒り、怨みなどの感情を抱く場合にいう、

意でも使い(精選版日本国語大辞典)、後には、

舌を巻きて口を鉗(フフム)で黙して閑居す(「将門記承徳三年点(1099)」)、

と、

とざす、
つぐむ、

意でも使う(仝上)。また、

ま/み/む/む/め/め、

の、他動詞マ行四段活用として、

時に先の夫(を)の烏(からす)、食物をふふみ持ち来たりて(霊異記)、

と、

(口に)含む、

意や、それをメタファに、

此人、内には悪の心を含めりけれど、外かには猶僧の姿なり(「観智院本三宝絵(984)」)、

と、

思い、感情などを心中に抱く。また、他の命令、意志などを守ろうとして心にとめる、

意や、

エミヲ fucumu(フクム)(「日葡辞書(1603~04)」)、

と、

内に包みもっている感情、思いなどを表面に表わす、
また、
様子、色あいなどを帯びる、

意で使う(精選版日本国語大辞典)。この、

ふふむ、

の由来は、

物を口内に含む形から(国語溯原=大矢徹)、
ホホエミ(頬笑)の義(言元梯)、

とあるが、どうも。先後が逆のような気がする。むしろ、意味からいうと、

ふくらむ、

意の、

ふくる(膨る・脹る)、

とかかわるのではないか。

ふくる、

は、

れ/れ/る/るる/るれ/れよ、

の、自動詞ラ行下二段活用で、

風いとおもき人にてはらいとふくれ(竹取物語⦆、

と、

内から外へ張り出す、
内が充満して外側に丸みを帯びて大きくなる、

意で、

噴くの転か、

ともあり(大言海)、

フクダムと同根、

とあり、

ふくだむ、

は、

ふくる(脹る)、

と同根で、

毛がそそけだってふくらんだようになる、

意である(岩波古語辞典)。

ふふむ、

と同義の、

ふくむ、

は、

脹(フク)の活用(大言海)、
ホホコム(頬籠・頬蓋)の義(言元梯・和訓栞)、
フフムの訛りか、またフフクム(含組)の約(俗語考)、
フクメ(吹目)の義(名言通)、
フはフサグの義か。クはクチ(口)の義、ムはノムの義(和句解)、
フキウム(吹産)の約(国語本義)、
フクはフクフクシ(肺)・フクロ(袋)・フクツケシ(貧)のフクと同源(古代日本語文法の成立の研究=山口佳紀)、

等々とあり、語呂合わせを除けば、

脹らむ、

とつながるとみていいのではないか。

含む、

は、

ま/み/む/む/め/め、

の、自動詞マ行四段活用で、

指貫の裾つかた、すこしふくみて(源氏物語)、と、

中に包み持っているような形になる、
ふくらむ、
ふくれて柔らかになる、

という意で、そこから、

忘るやと野に出でて見れば花ごとにふくめるものはあはれなりけり(古今和歌六帖)、

と、

植物がつぼみをもつ、

意で使い、

ま/み/む/む/め/め、

の、他動詞マ行四段活用で、

太刀の先を口にふくみ、馬より逆さまに飛び落ち、貫(つらぬ)かってぞ失(う)せにける(平家物語)、

と、

中に入れる、
中に裹み持つ、

意や、

いやしくも勅命をふくんでしきりに征罰を企つ(平家物語)、

心にとどめおく、
心中にいだく、

意で使う(学研全訳古語辞典・デジタル大辞泉)。

ふふむ、

の転訛で、

ほほむ、

という言い方もあるが、どうも、意味の重なりから見ると、

ふふむ

(ほほむ)

ふくむ、

という転訛もあり得る気がする。

「含」.gif

(「含」 https://kakijun.jp/page/0743200.htmlより)

「含」 金文・西周.png

(「含」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%ABより)


「含」 楚系簡帛文字.png

(「含」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%ABより)

「含」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「含」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)  https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%ABより)

「含」(慣用ガン、漢音カン、呉音ゴン)の異体字は、

唅、 𫩧、𬡀、 𭇥(俗字)

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%AB。字源は、

会意兼形声。今は「亼(かぶせる)+一印(隠されるもの)」の会意文字で、中に入れて隠す意をふくむ。含は「口+音符今」で、口中に入れて隠すこと、

とある(漢字源)。同趣旨で、

会意兼形声文字です(今+口)。「ある物をすっぽりおおい含む事を示す文字」と「口」の象形から、「口にふくむ」を意味する「含」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1225.html

と会意兼形声文字とするものもあるが、他は、

形声。「口」+音符「今 /*KUM/」。「口にふくむ」を意味する漢語{含 /*gəəm/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%90%AB

形声。口と、音符今(キム)→(カム)とから成る。口中に物を「ふくむ」意を表す(角川新字源)

と形声文字とするもの。

会意。今+口。今は、酒器を盦(あん)、飮(飲)の初文を㱃(いん)としるすように、器の栓のある蓋の形。口は甲骨・金文の字では、一般に祝告を収める器の形のᗨ(さい)であるが、含は含玉の意であるから、今を口に加えて、死気を遮閉する意とみてよい。〔説文〕二上に「嗛(ふく)むなり」とあり、琀の初文。その復活を願う意を以て、蟬形の玉器を用いる。含玉の意より、のちすべて内に含む意に用いる(字通)

と、会意文字とするものとに分かれる。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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