洲鳥(すどり)


円方(まとかた)の港(みなと)の洲鳥(すどり)波立てや妻呼び立てて辺(へ)に近づくも(万葉集)

の、

円方、

は、

三重県松阪市東黒部町、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

洲鳥、

は、

渚鳥、

とも当て、

洲にいる鳥、

の意で、

シギ・チドリの類、

を指し、

みさごの異称、

とも(広辞苑)、

かわせみ(翡翠)の異名、

ともある(「物類称呼(1775)」)。なお、シギについては、

鴫の羽掻

で、千鳥については、

千鳥

百千鳥

千鳥足

で、みさごについては、

みさご

で、それぞれ触れた。

シギの群れ.jpg


州鳥、

は、

海や川の州にいる鳥、

である、

シギ

チドリ

等々を指す(広辞苑・精選版日本国語大辞典)が、

カワセミ、

の別名とも(デジタル大辞泉)、

みさご(鶚)、

の異名ともされる(広辞苑・大言海)。

カワセミ(オス).jpg



カワセミ(メス).jpg


かわせみ、

は、

翡翠、
川蝉、
魚狗、

等々とあて(広辞苑・大言海)、

ブッポウソウ目カワセミ科カワセミ属に属する小型の鳥、

で、

全長約一七センチメートルで、スズメよりやや大きい。雌雄ともに頭部は暗緑色、背面は空色で腹面は橙色。くちばしは太く、長さは約四センチメートル。尾は短く、あしは赤い。水辺にすみ、川魚、カエル、昆虫などを食べ、土手やがけに横穴を掘って営巣する。日本全土にみられる留鳥(りゅうちょう)、

である(精選版日本国語大辞典)。

くちばしが長くて、頭が大きく、頸、尾、足は短い。オスのくちばしは黒いが、メスは下のくちばしが赤い。また、若干メスよりオスの方が色鮮やかである。頭、頬、背中は青く、頭は鱗のような模様がある。喉と耳の辺りが白く、胸と腹と眼の前後は橙色。足は赤い、

とされhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%BB%E3%83%9F、その、

鮮やかな青色は色素によるものではなく、羽毛にある微細構造により光の加減で青く見えるのは、シャボン玉がさまざまな色に見えるのと同じ原理、

で、構造色といい(仝上)、

両翼の間からのぞく背中の水色は鮮やかで、光の当たり方によっては緑色にも見える、

とある(仝上)。

古くは、和名類聚抄(931~38年)に、

鴗、魚虎鳥、曾比(そび)、色青翠而食魚、

とあるように、

鴗(ソヒ 別訓ソニ)を以て尸者(ものまさ)と為(日本書紀)、
鴗(ソニ)を以て尸者(ものまさ)と為。雀を以て舂者(つきめ)と為(日本書紀)、

と、

そび(鴗)、
そに(鴗)、

また、

蘇邇杼理能(ソニドリノ)青き御衣をまつぶさに取り装ひ(古事記)、

と、

そにどり(鴗)

ともいった(大言海・精選版日本国語大辞典)。

古言、ソビが、セビ、又セミと転じ、更に、深山(みやま)せみ、ヤマセミに対し、川せみと云ふなり、

とある(大言海)。で、

カワセミ、

は、

セウビ、
カワセビ、
キヨモリ、
セウビン(翡翠)、

等々ともいう(大言海)。漢語では、

翡翠(ヒスイ)、

といい(字源)、

魚狗、
翠雀、
翠鷸、

とも当てる(仝上)。

ソビ(鴗)、

の由来は、

ソは小の義、ヒは鳥の意の古語(東雅)、
セヒ(背翡)の義(言元梯)、
ソニの転(大言海・岩波古語辞典)、
鳴き声から(名言通)、

とあるが、はっきりしない。

カワセミ、

の由来は、

カハソビ(川鴗)の転(言元梯)、
カハセミ(川蝉)の意(万葉代匠記)、
カホソビ(容鴗)の義(松陰随筆)、
カワセムグリ(川瀬潜)の義(日本語原学=林甕臣)、

と、

ソビ(鴗)、

からきている(日本語源大辞典)ようだ。

古くは「ソニ」(「新撰字鏡(平安前期)」)、「曾比(ソビ)」(「和名類聚抄(931~38年)」)で、しょうびんはその変化したもの、カワセミのセミもソビの変化したもの、

とする説がある(仝上)とするが、上述の、

古言、ソビが、セビ、又セミと転じ、更に、深山(みやま)せみ、ヤマセミに対し、川せみと云ふなり(大言海)、

という説が妥当に思える。

ヤマセミ・オス.jpg



ヤマセミ・メス.jpg


カワセミ、

と、対にされる、

ヤマセミ、

は、

山翡翠、
山魚狗、

とあて、

みやまそび(深山魚狗、翡翠)、
やましょうびん、
やまぜみ、

ともいい、江戸末期の『本草綱目啓蒙』(1847⦆に、

魚狗、……翡翠、カホドリ、やましゃうびん、みやまそび、みやましゃうびん、

貝原益軒編纂の『大和本草(1708)』には、

魚狗(カハセミ)、大小二首り、小はカキセミと云、多し、是翡翠なるべし、……山せみ、……常の川せみに似て大也、

とある、

ブッポウソウ目カワセミ科に分類される鳥類、

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%BB%E3%83%9F

川ではヤマセミよりも上流に生息する、

が、一部では混在するhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%82%BB%E3%83%9F、山地の渓流に生息するカワセミの仲間であるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%9E%E3%82%BB%E3%83%9F

体長は約38 cm。翼開長は約67 cm。カワセミの倍、ハトほどの大きさで、日本でみられるカワセミ科の鳥では最大の種類である。頭には大きな冠羽があり、からだの背中側が白黒の細かいまだら模様になっているのが特徴。腹側は白いが、あごと胸にもまだら模様が帯のように走っている。オスとメスはよく似るが、オスはあごと胸の帯にうすい褐色が混じる。日本では、留鳥として九州以北に分布、繁殖している、

とある(仝上)。

「洲」.gif



「洲」(漢音シュウ、呉音ス)は、

会意兼形声。州は、川の流れのなかすを描いた象形文字。洲は「水+音符州」で、水にとりまかれたなかすのこと、

とある(漢字源)。他は、

会意形声。水と、州(シウ)(なかす)とから成る(角川新字源)、

会意兼形声文字です(氵(水)+州)。「流れる水」の象形と「川の流れの中に囲まれた土地」の象形から、「川・湖・海の底に土砂がたまって高くなり水面上に現れたもの」を意味する「洲」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji2556.html

と、会意兼形声文字とするもの、

形声。「水」+音符「州 /*TU/」。{洲 /*tu/}を表す字。もと「州」が{洲}を表す字であったが、水を加え、水で囲まれたしまを指すhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%B4%B2

形声。声符は州(しゅう)。洲は州の俗字。のち州県の字と区別して、川の洲や大陸の名に用いる(字通)、

と、形声文字とするものにわかれる。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
簡野道明『字源』(角川書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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