つと


つともがと乞(こ)はば取らせむ貝拾(かひひり)ふ我れを濡らすな沖つ白波(しらなみ)(万葉集)

の、

つと、

は、

土産、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

つと.png

(「つと」 精選版日本国語大辞典より)


藁苞に包まれたわら納豆.jpg

(藁苞に包まれたわら納豆 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B4%8D%E8%B1%86より)

苞豆腐

で触れたように、

つと、

は、

苞、
苞苴、

と当て(「苞苴」は「ほうしょ」とも訓む。意味は同じ)、

わらなどを束ねて物を包んだもの、

で、

藁苞(わらづと)、
荒巻(あらまき 「苞苴」「新巻」とも当てる)、

とも言う(広辞苑)が、「苞」には、

土産、

の意味がある(広辞苑)のは、

歩いて持ってくるのに便利なように包んできたから、

という(たべもの語源辞典)。土産の意では、

家苞(いえづと)、

ともいう(広辞苑)。「苞」は、また、

すぼづと、

ともいう(たべもの語源辞典)が、

スボというのはスボミたる形、

から呼ばれたらしい(仝上)。

苞(つと)、

は、

つつむ

で触れたことだが、

沖行くや赤ら小船(をぶね)に裹(つと)遣(や)らばけだし人見て開き見むかも(万葉集)、

と、

ツツム(包)のツツと同根、包んだものの意、

とあり(岩波古語辞典)、

包(ツツ)の転(大言海)、
ツツムの語幹、ツツの変化(日本語源広辞典)、

と、「つつむ」とつながる。

つつむ、

は、

裹む

で触れたように、

包む、

とも当てるが、

雨障み

で触れたように、

愼(つつ)む、
障(つつ)む、
恙(つつ)む、

と繋がり、

裹(包)む、

の、

ツツ、

は、

ツト(苞)と同根、

愼(つつ)む、

は、

ツツ(包)ムと同根、悪いことが外に漏れないように用心する(岩波古語辞典)、
人の感情や表情を内におさえて、外に表われないようにする(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、

障(つつ)む、
恙(つつ)む、

は、

ツツム(包)と同根、こもって謹慎する意、

とある(岩波古語辞典)。

つつむ、

は、

詰め詰むの略、約(つづ)むに通ず(大言海)

とする(大言海)が、

約(つづ)む、

は、

詰め詰むるの略、ちぢむ(縮)と通ず、

とあり(仝上)、

縮(ちぢ)める、

意なので、

ちぢむ、

は、

しじむ、

の転ずる(岩波古語辞典)。

しじむ、

は、

蹙む、

とも当て、「顰蹙」の「蹙」で、

しかめる、

意である。しかし、「つつむ」を「縮める」とするのは、ちょっとずれている気がする。むしろ、「苞」との関連の方が、「つつむ」の語感にはあうのではないか。

ツツム(包・裹・障)で、隠して見えなくするのが語源です。とりかこむ、おおって入れる、広げた布の中に入れて結ぶなどは、後に派生したか、

とする(日本語源広辞典)のは、語源の説明になっていないが、語感としてはこんな感じである。

tuto→tutu、

あるいは、

tutu→tuto、

の転訛はあり得るのではないか。「苞」の項で、大言海は、

包(つつ)の転、

とする。そして、「つつ」で連想する、

筒(つつ)、

の項で、矛盾するように、

包む意ならむ、

という。とすると、

tutu→tuto、

だけでなく、

tutu→tutumu、

と、「つつ」を活用させたとみることもできる。いずれも、

物をおおって中に入れる、

意(「つつむ」の意味)である。「つつむ」は、「苞(つと)」と同根であり、「筒(つつ)」ともつながるとすれば、「つつむ」は、

苞、

筒、

の動詞化なのではあるまいか。

つと(苞・苞苴)、

は、上述したように、

わらなどを束ねて、その中に魚・果実などの食品を包んだもの、

の意だが、

消(け)残りの雪にあへ照るあしひきの山橘を都刀(ツト)に摘み来な(万葉集)、

と、

他の場所に携えてゆき、また、旅先や出先などから携えて帰り、人に贈ったりなどするみやげもの、

の意もあり、また、

なむあみだ仏なむあみだ仏と申て候は、決定往生のつととおぼえて候なり(「一言芳談(1297~1350頃)」)、

と、

旅行に携えてゆく、食糧などを入れた包み物、

の意もあり、

旅苞(たびづと)、

というと、

たびつつみ(旅包)、

と同義で、

旅行中携行するつつみ物、

の意だが、

旅つとにもたるかれひのほろほろと涙ぞおつる都おもへば(「久安百首(1153)」)、

と、

家苞(いえづと)、

と同義で、

旅行先から持ち帰るみやげ、

の意もある。その同じ意味で、

女郎花(をみなへし)秋萩折れれ玉桙の道去裹(みちゆきづと)と乞はむ児のため(万葉集)、

と、

道行苞(みちゆきづと)、

ともいう。

草苞(くさづと)、

というと、

松か崎是も都の草つとに氷をつつむ夏のやま人(「草根集(1473頃)」)、

と、

草で包んだ土産物、

の意だが、

虚病をかまへ、軍役をかき、武具をも嗜まねば……出頭衆へ草づとを恵(「甲陽軍鑑(17C初)」)、

と、

つかいもの、賄賂、

意もある。

浜苞(はまづと)、

というと、

潮干なば玉藻刈りつめ家の妹が浜褁(はまづと)乞はば何を示さむ(万葉集)、

と、

浜のつと、

ともいい、

浜のみやげ、

つまり、

海辺から持ってくる土産物、

の意、

老苞(おいづと)、

は、

おいづとに何をかせまし此の春の花待ちつけぬ我が身なりせば(「西行家集(12C後)」)、

と、

おいのつと、

ともいい、

老人の持ってくるみやげ

の意、

黄泉苞(よみづと)、

というと、

あが君や、よみづとにし侍らんずるなり(栄花物語)、

と、

黄泉(よみ)へゆくみやげもの、

つまり、

冥土への土産、

の意等々、

みやげもの、

の意や、転じて、

賄賂、

の意になったりする(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。なお、

火苞(ひづと)、

は、

山野・田畑などで、蚊や蚋(ぶゆ)を防ぐためにくゆらす、藁・草木の根などを束ねた苞、

の謂いである(仝上)。

つと、

にあてる、

苞苴、

は、

ほうしょ、

とも訓ませ、

凡以弓劔苞苴箪笥問人者(曲禮)、

と漢語で、

おくりもの、

の意で、

苞はつと、苴はわらをしたにひく、

とある(字源)。

苞苴、

は、転じて、

苞苴行耶、宮室営耶、女謁盛耶(説苑)、

と、

賄賂、

の義となる(仝上)。日本でも、

苞苴する、

という言い方で、

苞苴、

は、

わらなどを束ねて、その中に魚、果物などの食品を包むこと、また、その包んだもの、

の意で使い、

あらまき、
つと、

と同義であるが、転じて、

海物一拾箇效苞苴之貢(「惺窩文集(1627頃)」)、

と、

つとに入れたみやげもの、また一般に、贈答品、

の意や、

蓋苞苴行歟、女謁進歟(「性霊集(835頃)」於大極紫震両殿請百僧雩願文)、

と、

賄賂、音物(いんぶつ)、

の意で使うが、いずれも漢文脈である。なお、

音物(いんぶつ)、

は(「いん」「ぶつ」は「音」「物」の漢音)、

好意を表わすためのおくりもの、また、目上の者が賞与として授ける品物、

の意で、

進物、

の意の他に、

賄賂、

にもいう(精選版日本国語大辞典)。

なお、

つと、

には、

髱、

と当てる、

日本髪の後ろに張り出した部分(岩波古語辞典)、
日本髪で、襟足にそって背中の方に張り出した部分(デジタル大辞泉)、

を指す意味がある。これは、関西での言い方らしい(デジタル大辞泉)が、

たぼ(髱)、
たぼがみ、
たば、
たぶ、

ともいい(仝上・岩波古語辞典)、

ツト(苞)と同根、形の類似によって名づけたるもの(岩波古語辞典)、
ツト(苞)の意(大言海)、
結髪のツツミたるさまから(日本語源=賀茂百樹)、

と、その形からきているようでうある。

たぼ.jpg

(たぼ デジタル大辞泉より)

この髪型は、貞享(1684~88)のころに生まれ、優美なカーブを描く洗練された髱として、セキレイの長い尾の形をした、

せきれい髱、

とか、カモメの舞い飛ぶ姿からとった、

かもめ髱、

などの名で呼ばれた(世界大百科事典)とある。関西では髱を「つと」と呼んだことは前述した。もともと、

中世以降、女性は下げ髪(垂髪)であったが、のち唐輪髷(からわまげ)となって髷ができても髱はなかったが、江戸時代初期の被(かぶ)り物禁止以降、素顔で歩くようになって、後頭部に髪をまとめることがおこり、これを髱(たぼ)とよんだ、

とあり(日本大百科全書)。当時の髱は鴎(かもめ)の腹の形から、

鴎髩(かもめづと)、

といった。18世紀に入ると、髱が垂れ下がって着物の襟を汚すところから、髱差しを利用して反り返る形をとるようになり、せきれい髱、雀(すずめ)髱が生じ、18世紀後半になると、鬢(びん)が張り出してきた結果として髱は小さくなり、19世紀に入ると鬢が縮小したのにつれて、髱差しが再度利用されることになった(仝上)。これを、

たぼ(髱・髩)、

と呼んだのは、

タワム(撓)の義のタワの転、

とある(俗語考・厭世女装考・大言海)。

たぼさし(髱刺・髱差)、

は、その、

髱を張り出すために、髪の内へ入れる結髪具、

をいい、

針金で形を作って綿で包み、紙を張って黒漆を塗ったもの。古くは鯨のひげを使った、

とあり(精選版日本国語大辞典)、

すみやり、
つとばり、
つとさし、
たぶさし、
つとこうがい、
つとはね、
つとばり、

ともいった(精選版日本国語大辞典・大言海)。

文化の初めより、針金にて剣術のときに用いる面の如く作り、紙を巻きて漆塗にしたるものあり、又、撞木(しゅもく)の如くにし、頭の両端尖りて内に反り、尾も少し反れるものあり、髻(もとどり)に差して、結へるなるべし、

とあり(大言海)、

鯨細工、

だが、

上等品は水牛で作り、下等品は針金を綿で包み紙を巻き漆を塗ったものを用いる、

とある(江戸語大辞典)。江戸後期の三都(京都・大阪・江戸)の風俗、事物を説明した類書(百科事典)『守貞謾稿』には、

物類称呼云、畿内にてツトサシ、東国にてタボサシ、中国、西国とものにツトハネ、……賎の緒手巻云、貞享の頃也けり、女子のたぶさしという物、始めて流行出で、京より下りしを、母も女子も珍しがりて、もてはやしぬ、鯨にて拵たるもの也、

とある。

「苞」.gif

(「苞」 https://kakijun.jp/page/E49A200.htmlより)


「苞」(漢音ホウ、呉音ヒョウ)は、

会意兼形声。「艸+音符包(つつむ)」

とある(漢字源)。「茅の一種」、「ぞうり・むしろなどをつくるのに用いる」とあり、それを材料にして包むせいか、「つつみ」「つと」「みやげもの」の意にも使う(仝上)。

「苴」.gif

(「苴」 https://kakijun.jp/page/E493200.htmlより)

「苴」 甲骨文字・殷.png

(「苴」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%B4より)

「苴」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「苴」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%B4より)

「苴」(漢音ショ、呉音ソ)は、

会意兼形声。「艸+音符且(ショ かさねる)、

とあり(漢字源)、麻、また麻の実の意、また麻の繊維で編んだ衣、さらか、履物の中に重ね敷く草履のふみしろを作る草の意(仝上)で、「苞苴」は、つつみ草としき草の意から、転じて、前述したように、贈答品、また賄賂の意である(仝上)。他は、

形声。「艸」+音符「且 /*TSA/」https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%B4

と、形声文字としている。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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