息の緒に思へる我れを山ぢさの花にか君がうつろひぬらむ(万葉集)
の、
山ぢさの花にか、
を、
しぼみやすいえごの木の花のように、
と注釈し、
山ぢさのあだ花になってしぼんでしまったのでしょうか、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
息の緒(いきのお)、
は、
息が長く続くのを緒にたとえた表現、
で、万葉集では、
息の緒に、
の形で、
命のかぎり、
命がけで、
の意で用いる(仝上)。
山ぢさ、
は、
山萵苣、
とあて、
山に生えているチシャノキ、
をいい、
ムラサキ科の落葉高木、
であるが、
エゴノキの別名、
ともされ(広辞苑)、一説に、
イワタバコ、
ともされる(岩波古語辞典)。
チシャノキ、
は、
ムラサキ科チシャノキ属の落葉高木、
で、和名は、
若葉の味がチシャに似ている、
また、
樹皮や葉がカキノキに似ている、
ことから、
カキノキダマシ、
ともいう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%8E%E3%82%AD_(%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%82%B5%E3%82%AD%E7%A7%91))とある。
本州の中国地方、四国、九州の浅い山地に生え、高さ約五メートル。樹皮は紫色を帯び、葉は長さ五~一五センチメートルの楕円状倒卵形で縁に鋸歯(きょし)がある。初夏、枝の先に白色で先端の五裂した小さな花の密集した円錐状の花序を出す。果実は径約五ミリメートルの球形で橙黄色に熟す。材は家具・細工物に、古くは樹皮を染料に使った、
とある(精選版日本国語大辞典)。また、
樹皮にタンニン、アラントイン、蔗糖(スクロース)を含み、アラントインは地下部に多く、上に行くに従って減少し、葉には含まれない、
とある(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%81%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%8E%E3%82%AD_(%E3%83%A0%E3%83%A9%E3%82%B5%E3%82%AD%E7%A7%91))。江戸時代中期編纂の日本の類書(百科事典)『和漢三才図絵(わかんさんさいずえ)』(寺島良安)には、
売子木(チサノキ)按売子木今謂知佐乃木者与此形状大異、
とあり、
ちさのき、
とも訛り、
ちさ、
かきのきだまし、
また、
とうびわ、
ともいう(仝上)が、
エゴノキの別名
ともある(大和本草)。
エゴノキ、
は、
斎墩果、
とあて(動植物名よみかた辞典)、
エゴノキ科 エゴノキ属の落葉小高木、
で、和名エゴノキは、
果皮は有毒でのどを刺激してえごいためであろう、
とある(https://www.ffpri.affrc.go.jp/kys/business/jumokuen/jumoku/zukan/egonoki.html)。最大樹高、
15メートル前後、樹高のわりに余り幹は太くならず最大胸高直径は50cm程度である、
とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%8E%E3%82%AD)、
樹皮は暗灰色にして平滑であるが、老樹では外皮に浅い縦裂を生ずる。枝はジグザグに屈曲し、帯紫褐色をなし、外皮は細長い線状となって剥げる。葉は有柄で互生し、狭長卵形で先端は尖り、上面は緑色をなし、下面は淡緑色をなす。短枝上端および上部の葉腋に短い花序を出し、1~4個の花を開き下垂する。果実は球形または卵形で、熟すると果皮が裂け、中から褐色で堅い1種子を出す、
とあり(https://www.ffpri.affrc.go.jp/kys/business/jumokuen/jumoku/zukan/egonoki.html)、
材は、建築材、器具材、土木用材などに使用し、果皮は、長さ10 - 13 mmの卵球形で灰白色をしており、大きい種子を1個含む。熟すと果皮は不規則に破れて種子が露出する。花期は初夏、果実は同年秋に熟す、
といい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B4%E3%83%8E%E3%82%AD)、
果実は、有毒でこれをすりつぶして、川に流し魚をとる用に供する、
とある(https://www.ffpri.affrc.go.jp/kys/business/jumokuen/jumoku/zukan/egonoki.html)。
イワタバコ、
は、
岩煙草、
とあて、
イワタバコ科の多年草、
で、日本の山地の湿った岩上に生える。この名は、
葉の形や花の感じがタバコに似て岩の上に生える、
のでこの名がある。
葉は軟らかく、少数(1~3枚)が褐色の毛を有する根茎から出て、岩壁では垂下している。形は楕円形から長楕円形、先はとがり、辺縁には不整のまばらな鋸歯があり、葉身基部は葉柄に流れ翼状となる。花期は夏、10cm前後の花茎を垂らし、数個から20個近い花を散状につける。淡紫色の花は径2cmほど、花冠は放射状に5深裂し、5本のおしべと1本のめしべを有する。果実は細長く、多数の微細な種子をいれる蒴果(さくか)。越冬芽はちりめん状の葉を有していて特異である。若葉は苦みがあるが軟らかく粘り気があって食用にされ、胃腸薬として民間で利用されることがある、
とある(世界大百科事典)。この別名が、
岩萵苣(いわじさ)、
である(動植物名よみかた辞典)。ちなみに、和名、
チシャ(萵苣)、
古名を、
ちさ、
といい、これは、
チは茎葉を断つときは、乳汁の如きもの出づる、
より(大言海)、
乳草(ちちくさ)の略、
とされる(大言海・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%82%B9)、
キク科の一年草または二年草、
の、レタス、サラダ菜、カキチシャ、タチヂシャなどに大別される代表的な蔬菜、
をいい(精選版日本国語大辞典)、
全体に白粉を帯び、切ると白い乳液が出る。根生葉は楕円形で大きく、茎葉は茎を抱く。夏、枝先に舌状花だけからなる淡黄色の花が咲く、
とあり(仝上)、ヨーロッパ原産で、古くから栽培されている。日本名のレタスは、
英名lettuce、
から取られたもので、語源はラテン語で、「牛乳」という意の語、
Lac、
である(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%82%B9)。和名で、
乳草、
というのも、レタスの切り口から出る白い液体の見た目に基づき付けられた呼び名である(仝上)。和名類聚抄(931~38年)に、
苣、知散、
本草和名(ほんぞうわみょう)(918年編纂)に、
白苣、知佐、
字鏡(平安後期頃)に、
苣、知佐、
萵、知左、
とある。なお、
球萵苣(タマヂシャ)
というと、
レタスの別名、
で、結球性のレタスをいい、結球のゆるいものをサラダ菜ということもある(デジタル大辞泉)とある。
ちしゃ、
ちさ、
の呼び方については、「観智院本名義抄」に、
「チサ」「チシャ」の両表記が見られ、中世以降の辞書類には「チシャ」と附訓されている。これは仮名文字が作られた頃のサ行音は〔 ʃ 〕という拗音性の音価で、これを仮名一文字で表記したが、後に他の行の表記にあわせて、「サ=〔 sa 〕」から「シャ=〔 ʃa 〕」へと表記が変わったことによるものである、
とある(精選版日本国語大辞典)。ついでながら、この、
萵苣、
の別名は、
エゴノキ、
である(レ精選版日本国語大辞典)。また、
野萵苣(のぢしゃ)、
というと、
スイカズラ科ノヂシャ属、
で、江戸時代に長崎で栽培されていたものが野生化したといわれ、本州や九州の道端などにみられる帰化植物。
枝先に2mm程度の淡青色の漏斗状の小さな花が、びっしり咲きます。花は、先端が5裂していて、雄蕊が3個あります。花の下部には丸い子房があります。茎が何度も二又に分岐し細く伸びるのが特徴です。分岐した部分の下に、長さ2-4cm程度の長倒卵形~長楕円形の葉が対生します。果実は、大きさ2mm強程度でほぼ円形です。中に2mm程度の種子が1個あり、硬く、形は舟形で凹みがあります。葉は柔らかくサラダに使用されます、
とある(https://sekainotabinikki.web.fc2.com/syokubutu/hana/nodisya.html)。
瑠璃萵苣(ルリヂシャ)、
というと、
ボリジの和名、
で、
ムラサキ科の一年草、
で、原産地は南ヨーロッパ、古くから薬用植物として利用され、
草丈は50センチメートル内外。茎にも葉にも粗毛が多い。葉は長さ10~20センチメートルの楕円(だえん)形で、白いうぶ毛に覆われ、ふちには粗い鋸歯(きょし)と剛毛がある。6~8月に葉のつけ根からさそり形花序を出し、直径2~3センチメートルの瑠璃(るり)色で星形の花を下向きに開く。開花が始まると、つぼみが次々にできて、1か月くらい咲き続ける。花には、甘味と酸味がある。葉はキュウリに似た香りがあり、サラダに入れる。花もサラダの彩りや砂糖菓子として楽しめる、
とある(日本大百科全書)。
(ホリジ デジタル大辞泉より)
赤萵苣(アカジジャ)、
というと、
クスノキ科の落葉低木、
で、
薬用植物の、
シロモジの別称、
である(動植物名よみかた辞典)。
白文字、
とあて、
クスノキ科の落葉低木で高さ6メートルに達する。幹は灰褐色、小形で円い皮目があり、年を経た枝は暗灰褐色。葉は互生し、倒卵形で長さ8~12センチメートル、普通は三つに中裂し、3脈が目だつ。雌雄異株。花は4月、小形の散形花序につき、淡黄色、葉と同時に開く。果実は球形で径約1センチメートルで黄緑色に熟す幹が白みを帯びるため、クロモジに対してこの名がある。材を杖(つえ)などに利用する、
とある(日本大百科全書)。
沢萵苣(さわぢしゃ)、
というと、
さわおぐるま(沢小車)」の異名、
で、
多年草.草丈50~80 cm.茎は太くて柔らかく、葉とともに白いくも毛がある.根出葉はロゼット状、楕円形~長楕円形あるいは披針形、長さ12~25 cm、幅1.5~7 cm、有柄.茎葉は卵状披針形、基部は広く茎を抱く.頭花は6~30個の散房状または散状に付き、径3.5~5 cm、
とあり(https://www.pharm.kumamoto-u.ac.jp/yakusodb/detail/005752.php)、利尿作用があるとされ、
全草を煎じて冷めないうちに服用するか、頭花に熱湯を注いで服用する、
とある。
川萵苣(カワヂシャ)、
というと、
で、
オオバコ科クワガタソウ属の越年草、
溝の縁や田に生える。茎は直立または斜上して高さ10〜100cm、葉とともに無毛である。葉は狭卵形または長楕円状狭卵形で先はややとがり、基部は円形で柄がなく茎をやや包み、縁にはややとがる鋸歯があり、長さ2.5〜8cm、幅0.5〜2.5cm。葉腋に長さ5〜15cm、幅1〜1.5cmの細い花序を出し、50〜120個の花をつける。花柄は長さ3〜5mm、腺毛を散生し、果期にまっすぐに斜上する。萼裂片は狭卵形でとがる。花冠は白色から白紫色で淡紫色の脈があり、皿状に広く開き、径4〜6mm。さく果は球形で先がわずかにへこみ、長さ幅とも2.5〜3.2mm、先端に長さ1〜1.5mmの花柱がある。種子は板状の楕円形で長さ0.5mm、幅0.4mm。 花期は5〜6月。、
とあり(https://matsue-hana.com/hana/kawadisya.html)、
葉はチシャに似る、
のでこの名がある(デジタル大辞泉)。若葉は食用にする(精選版日本国語大辞典)。
ぎばそう、
さんらいそう、
さんれいそう、
の別名がある(仝上)。
(カワヂシャ(川萵苣) https://matsue-hana.com/hana/kawadisya.htmlより)
菊萵苣(キクヂシャ)、
というと、
キク科の一~二年草。野菜としてヨーロッパで広く栽培され、日本には江戸初期に渡来した。茎は高さ約一メートルになり、若い茎、葉には白い細毛を疎生する。根葉は長楕円形で波状のしわがある。茎葉は三角形で互生し、長さ約一〇センチメートルの縁は鋸歯(きょし)状。基部は茎を抱く。五~六月、葉腋(ようえき)に径三~四センチの紫色の頭花を開く。サラダなどに用いる、
とあり(精選版日本国語大辞典)、
きくぢさ、
はなぢしゃ、
オランダちさ、
エンダイブ、
などともよぶ(仝上)。
「萵」(ワ)は、
会意兼形声。「艸+音符咼(カ まるい、まるい穴)」。葉が内側に曲がって、真ん中がマルクくぼんだやさい、
とあり(漢字源)、「ちさ」「レタス」を指し、「萵菜(ワサイ)」「萵苣(ワキョ)」と使う。別に、
形声。「艸」+音符「咼」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%90%B5)、
とある。
「苣」(漢音キョ、呉音ゴ)は、
会意兼形声。「艸+音符巨(キョ 間をへだてる)、
とある(漢字源)。
「炬」に同じ(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%8B%A3)、
とあり、「たいまつ」の意である。野菜の名「萵苣(かきょ)」に用いられる(https://kanji.jitenon.jp/kanjik/5329)とある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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