しじ貫く
大船(おほぶね)に真楫(まかぢ)しじ貫き漕(こ)ぎ出(で)なば沖は深けむ潮は干(ひ)ぬとも(万葉集)
の、
漕(こ)ぎ出(で)なば、
は、
交際に踏み切ることの譬え、
とし(伊藤博訳注『新版万葉集』)、
沖は深けむ、
は、
将来二人の仲は深まろう、
の意(仝上)、
干ぬ、
は周囲の情勢が悪化することの譬え、
と注釈する(仝上)。
しじ貫く、
は、万葉仮名で、
真梶之自奴伎(シジヌキ)、
と、
真楫(まかぢ)しじ貫き、
の形で用いられ、
左右の楫を舷側から、ぎっしり突き出す、
意である(広辞苑)。
しじぬく、
は、
繁貫く、
とあて、
か/き/く/く/け/け、
の、他動詞カ行四段活用で、
シジはシジ(縮・緊)と同根、ぎっしりとあるさま(岩波古語辞典)、
「しじ」は繁く、「ぬく」はつき通すの意(精選版日本国語大辞典)、
とあり、文字通り、
繁(しげ)く貫く(大言海)、
多く貫く、ぎっしりとすきまなく貫く(精選版日本国語大辞典)、
意だが、
(船のかいなどを)たくさん取り付ける(学研全訳古語辞典)、
舟の楫(かじ)・櫂(かい)を数多く取り付ける(岩波古語辞典)、
(左右の楫を舷側から)ぎっしり突き出す(広辞苑)、
艪ろや櫂かいなどをすきまなく突き通して並べる(デジタル大辞泉)、
等々、特に、
かいを船ばたにたくさんとりつける、
意で使うようだ(精選版日本国語大辞典)。上代語で、近世和歌における擬古例を除いては「万葉集」等の上代の用例に限られる(精選版日本国語大辞典)とあり、
大船に真梶シジヌキ、
という慣用用法が圧倒的に多く、全例がその上に三音節語の「真梶(まかぢ)」「真櫂(まかい)」「小梶(をかぢ)」を承接している(仝上)。で、
しじにぬく、
の縮約形と考えられている(仝上)とある。
しじに、
は、
繁に、
とあてるが、その、
しじ、
の、
繁、
は、
シジミ(縮)・シジニ(繁)・シジマ(黙)・シジラ(縬)・シジミ(蹙)などの語根、
とあり(岩波古語辞典)、
美濃山に之之(シジ)に生ひたる玉柏豊の明(あかり)に会ふが愉しさや会ふが愉しさや(催馬楽)、
と、
こんもりと、
ぎっしり、
の意で、
木の生い茂っているさまを表わす語、
としてや、
竹珠(たかたま)を密(しじに)貫き垂れ斎瓮(いはひへ)に木綿(ゆふ)取りしでて斎(いは)ひつつ(万葉集)、
と、
物の目がつんでいてすきまのないさま、
ぎっしりつまって密集しているさま、
ぎっしりと、
ぎっしりいっぱいに、
と、
数量の多いさまを表わす語、
として使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)が、
口などをきっと閉じて無言であるさま、
などもあらわす(岩波古語辞典)ともある。
「貫」(カン)は、
会意文字。もと、丸い貝を二つひもでつらぬき通した姿を描いた象形文字。のち、「毌(抜き通す)+貝(貨幣)」、
とある(漢字源)。同じく、
会意形声。貝と、毌(クワン)(つらぬく)とから成り、ひもに差し通した銭の意を表す。ひいて「つらぬく」意に用いる(角川新字源)
会意兼形声文字です(毌+貝)。「物に穴をあけ貫き通す」象形と「子安貝(貨幣)」の象形から、「貫き通した銭」、「つらぬく」を意味する「貫」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1610.html)、
と、会意兼形声文字とするもの、
会意。貝+毌(かん)。毌は貝を貫く形。〔説文〕七上に「錢貝の貫なり」とあって、ぜにさしをいう。金文の図象に、貝を二つ連ねて綴るものがあり、前後二系を合わせて一朋という。朋はもと貝を綴った形。ものを貫くことから、継続慣行の意となる(字通)、
と、会意文字とするもの、いずれも、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)の、
「毌」+「貝」、
という分析によっているが、これは、
金文などの資料とは一致しない誤った分析である。また、「毌」なる字の実在は確認されていない、
と否定し(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%B2%AB)、
象形。縦棒が二つの貝を貫通した形を象る。「つらぬく」「うがつ」を意味する漢語{貫 /*koons/}を表す字、
としている(仝上)。
「繁」(①漢音ハン、呉音ボン、②漢音ハン、呉音バン)の、異体字は、
䋣(本字)、緐(別体)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B9%81)。字源は、「しみみに」で触れたように、
会意兼形声。毎は子を産むように、草のどんどんふえること。繁の字の音符は「糸+毎(ふえて多い)」の会意文字で、ふさふさとした紐飾り。繁はそれに支(動詞の記号)を加えた字で、どんどんふえること、
とあり(漢字源)、「繁茂」「繁盛」「繁文縟礼」「頻繁」などは①の音、馬のたてがみにつけるふさふさとした飾りの意の時は、②の音とある(仝上)。他に、
会意兼形声文字です(毎(每)+攵(攴)+糸)。「髪飾りをつけて結髪する婦人」の象形(「髪がしげる」の意味)と「ボクッという音を表す擬声語と右手の象形」(「手でボクッと打つ」の意味)と「より糸」の象形から、「しげる」を意味する「繁」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1353.html)、
と、会意兼形声文字とするもの、また、
会意、糸と每(たくさんあるさま)とから成る。多くの糸をつけることから、馬のたてがみのかざりの意を表す。転じて、「しげる」、さかんの意に用いる。旧字は、形声で、糸と、音符敏(ビン)→(ハン)とから成る。常用漢字はその省略形による(角川新字源)、
会意。敏(敏)(びん)+糸。敏は婦人が祭事にあたって髪に盛飾を加える形で、祭事に奔走することを敏捷という。疌(しよう)はその側身形に足を加えた形。髪に糸飾りをつけて繁という。繁は繁飾の意。〔説文〕十三上に緐を正字とし「馬の髦飾(ばうしよく)なり。糸毎に從ふ」(段注本)とし、〔左伝、哀二十三年〕「以て旌緐(せいはん)に稱(かな)ふべけんや」の文を引くが、馬飾の字は樊(はん)に作り、樊纓(はんえい)といい、繁とは別の字である。樊纓は馬の「むながい」。紐を縦横にかけたもので、樊がその義にあたる。婦人の盛飾を每(毎)といい、その甚だしいものを毒といい、祭事にいそしむを敏捷といい、その髪飾りの多いことを繁という(字通)、
と、会意文字とする説もあるが、
かつて「会意形声文字」と解釈する説があったが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%B9%81)、
形声。「攴」+音符「緐 /*PAN/」。「しげる」を意味する漢語{繁 /*ban/}を表す字(仝上)、
と、形声文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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