我がやどに蒔きしなでしこいつしかも花に咲きなむなそへつつ見む(大伴家持)
の、
なでしこ、
は、
撫でし子の意を強く匂わす、
とあり、
なそへ、
の、
なそふ、
は、
なぞらえる、
の意、
花そのものを(坂上)大嬢(家持正妻)として見る意、
とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
いつしかも、
は、
早く咲いてほしいという願望、
で、
大嬢の成長への期待、
が含意としてある(仝上)とし、
いつになったら花として咲き出るのであろうか、
と訳す(仝上)。また、
いつしかもこの夜の明けむうぐいすの木伝(こづた)い散らす梅の花みむ(万葉集)
では、
明けむ、
の、
「む」と呼応して、……したい、……してほしいの意を表す、
とあり(仝上)、
いつになったら、この夜はあけるのだろうか、
と訳す(仝上)。
いつしかも、
は、
何時しかも、
とあて、
副詞「いつしか」に、係助詞「も」のついたもの、
で(精選版日本国語大辞典)、下に、
願望の表現を伴って、
伊都之可母(イツシカモ)見むと思ひし安波島(あはしま)をよそにや恋ひむ行くよしをなみ(万葉集)、
いつしかも人々しくなり、おもだたしきめをも見給へと(宇津保物語)、
早く(……したい)、
今すぐにも(……したい)、
意となる(学研全訳古語辞典)。
いつしか、
は、
何時しか、
とあて、
「し」は強めの助詞、「か」は疑問の助詞(広辞苑)、
シは強意の助詞(岩波古語辞典)、
代名詞「いつ」に、強めの副助詞「し」、疑問の係助詞「か」の付いたもの(デジタル大辞泉)、
代名詞「いつ」に、間投助詞「し」および係助詞「か」が付いてできたもの(精選版日本国語大辞典)、
何時(いつ)し歟(か)の意。シは強く指す意の辞(大言海)、
などとある副詞で、
いつしかと待つらむ妹(いも)に玉梓(たまづさ)の言(こと)だに告(つ)げず去(い)にし君かも(万葉集)、
と、「いつしかと」の形で用いることが多く、
「いつ…する(できる)だろうか」という気持から、ある物事の実現を待ち望む気持、
を表わし、
いつかいつかと、
すぐにでも、
早く、
の意や、
いつしか雛(ひいな)をしすゑて、そそきゐたまへる(源氏物語)、
おもふよりいつしかぬるるたもとかな涙ぞ恋のしるべなりける(千載和歌集)、
と、
ある物事が気づかないうちに、または予想以上に早く実現したさま、時の経過の不明なこと、
を表わし、
いつのまにか、
早くも、
の意や、
いつしかまゐりつる神のやしろも、今年は(喪中で)かなはぬことなれば(「問はず語り」(鎌倉後期))、
と、
過去および未来の事がらに関して、その事のあった、または、ある時が特定できないこと、
を表わし、
いつであったか、
そのうちいつか、
の意や、さらに近世になると、
それを両方から、あからさまにいふてゐましては、いつしか話しになるためしはござりませぬよって(咄本「諺臍の宿替」(19C中))、
と、下に打消を伴って、
いつまでたっても、
いつになっても、
という意で使うに至る(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
何時しかも、
の、
かも、
は、さまざまの用例があり、その解釈には、種々あるが、
御諸(みもろ)の厳白檮(いつかし)が本(もと)白檮(かし)が本(もと)忌々(ゆゆ)しき加母(カモ)白檮原
(かしはら)嬢子(をとめ)(古事記)
天の原ふりさけ見れば春日(かすが)なるみかさの山に出でし月かも(古今和歌集)、
と、
詠嘆を表わし、
疑問の「か」に詠嘆の「も」を添えたもの(広辞苑)、
名詞、活用語の連体形、まれに形容詞シク活用の終止形に付く(デジタル大辞泉)、
係助詞の「か」と「も」が重なったもの(精選版日本国語大辞典)、
「か」の下に「も」を添えた助詞、複合係助詞および終助詞、疑問視を承ける。従って体言または活用語の連体形を承ける(岩波古語辞典)、
とあるが、
連語「かも」の文末用法より転じたもの。「か」を終助詞、「も」を終助詞あるいは間投助詞とする説もある、
とあり(デジタル大辞泉)、
連語「かも」、
は、
係助詞「か」+係助詞「も」、
で、上代、
あしひきの山かも高き巻向(まきむく)の岸の小松にみ雪降り来る(万葉集)、
と、種々の語に付き、「かも」がかかる文末の活用語は連体形をとり、
感動を込めた疑問、
の意を表し、
……かなあ、
の意となる(精選版日本国語大辞典)。
かも、
は、中古以降、おおむね、
かな、
に代わる(デジタル大辞泉)。また、
朝ごとにわが見る屋戸(やど)の瞿麦(なでしこ)の花にも君はありこせぬ香裳(かも)(万葉集)、
と、
ぬかも、
の形で、願望を表わすが、
「ぬ」と「か」との複合が願望を表すことを承けたもので、「ぬか」に「も」が加わった形である、
とあり(岩波古語辞典)、
ぬかも、
で触れたように、
ぬかも、
は、上代語で、
連語「ぬか」+終助詞「も」、
で、
…くれないかなあ、
…てほしいなあ、
と願望をあらわす(岩波古語辞典・デジタル大辞泉)。連語、
ぬか、
は、
打消しの助動詞ズの連体形ヌに疑問の助詞カのついたもの、
で、
……ないものかなあ、
……ほしい、
と、
願望の意を表す、
とある(岩波古語辞典)。で、
ぬかも、
は、
打消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」+詠嘆の終助詞「かも」、
で、
否定的な事態の詠嘆、
を表わし、
………ないなあ、
……ないことよ、
と、
詠嘆の意を表し、
……くれないかなあ、
……ないものかなあ、
……てほしいなあ、
……ないなあ、
といった意となり、
ぬか、
よりも強い願望の意を表す、
とある(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。しかし、
ぬかも、
は、
ぬか‐も、
とみると、
吉野川行く瀬のはやみしましくも淀むことなくありこせ濃香問(ヌカモ)、
は、
願望の終助詞「ぬか」に詠嘆の助詞「も」の付いたもの、
とみなし、
先行する助詞「も」と呼応して、ある事態の生ずることを願う意、
を表わし、
………てでもくれないかなあ、
………であってほしい、
という意になり、
ぬ‐かも、
と見なすと、
さ寝床もあたは怒介茂(ヌカモ)よ浜つ千鳥よ(日本書紀)
あをによし奈良の都にたなびける天(あま)の白雲見れど飽かぬかも(万葉集)
と、
打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」に係助詞「か」、詠嘆の助詞「も」の付いたもの、
として、
否定的な事態の詠嘆を表わす、
……ないなあ、
……ないことよ、
という意になる(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)として、
ぬか‐も、
と
ぬ‐かも、
を別項を立てている。前者は、
……であってほしい、
となり、後者は、
……ないなあ、
となり、前者が、「ない」から、
……ほしい、
という願望なのに対して、後者は、
……ないなあ、
と、
「ない」ことを詠嘆する、
意になる。なお、
も、
は、係助詞として、種々の語につくが、ここでは、
活用語の終止形(係結びでは結びの形)、ク語法について、詠嘆の意を表す、体言には「かも」「はも」などの形で用いる。なお「かも」は平安時代には「かな」に代わる(広辞苑)、
用法が該当し、
沖つ鳥胸(むな)見る時羽叩(はたた)ぎ母(モ)これはふさはず(古事記)、
と、
主題を詠嘆的に提示する、
が、
「も」möは推量の助動詞「む」muと子音mを共有している。möが不確定なこととして提示するのに対して、muも不確実なことについての推量判断を表わすので、両者はm音を共有する点で意味上も起源的な関係をもつものと推測することができる、
ともある(岩波古語辞典)。ちなみに、
いつしかもこの夜の明けむうぐいすの木伝(こづた)い散らす梅の花みむ(万葉集)
の、
明けむ、
の、
む、
は、
(ま)|○|む(ん)|む(ん)|め|○、活用語の未然形に付く(デジタル大辞泉)、
活用は「ま・◯・む・む・め・◯」。四段型活用(精選版日本国語大辞典)、
とあるが、
動詞・助動詞の未然形を承ける語で。む・む・め、と活用する。「ま」という活用語があるように見えるが、それは、「行かまく」「見まく」など、「まく」の形の場合であり、これはいわゆるク語法(用言の語尾に「く」を伴って名詞化する文法。)による語形変化で、未然形ではない(岩波古語辞典)、
未然形「ま」は、上代のいわゆるク語法の「まく」の形に現われるものだけである(精選版日本国語大辞典)、
とある、
推量の助動詞、
で、
現実に存在しない事態に対する不確実な予測、
を表わす(精選版日本国語大辞典)が、
一人称の動作につけば、
秋風の寒きこのころ下に着む妹が形見とかつも偲はむ(万葉集)、
と、
……(し)よう、
……(し)たいね
……するつもりだ、
と話し手の意志や希望を表し(仝上・岩波古語辞典)、
二人称の動作につけば、
い及(し)けい及(し)け 吾(あ)が愛(は)し妻にい及(し)き逢(あ)は牟(ム)かも(古事記)
などかくはいそぎ給ふ。花を見てこそ帰り給はめ(宇津保物語)、
と、
……してくれ、
……してもらいたい、
と、
相手や他人の行為を勧誘し、期待する意を表わす。遠まわしの命令の意ともなる。また、
三人称の動作につけば、
推量の意、
を表わし(仝上)、たとえば、
山処(やまと)の 一本薄(ひともとすすき)項傾(うなかぶ)し汝が泣かさ麻(マ)く朝雨の霧に立た牟(ム)ぞ(古事記)、
端にこそたつべけれ。おくのうしろめたからんよ(枕草子)、
と、目前にないこと、まだ実現していないことについて想像し、予想する意を表わし、
…だろう、
の意、
かくの如名に負は牟(ム)とそらみつ大和の国を蜻蛉(あきづ)島とふ(古事記)、
をとここと心ありてかかるにやあらむと思ひうたがひて(伊勢物語)、
と、原因や事情などを推測する場合に用い、
……だろう、
……なのであろう、
の意、
命(いのち)の全(また)け牟(ム)人は畳薦(たたみこも)平群(へぐり)の山の熊白檮(くまかし)が葉を髻華(うず)にさせその子(古事記)、
大事を思ひ立たん人は、去りがたく心にかからん事の本意を遂げずして(徒然草)、
と、
(連体法に立って)断定を婉曲にし、仮定であること、直接経験でないことを表わし、
……であるような、
……といわれる、
……らしい、
の意で使う(仝上)。この、
む、
は、古くは、
ム、
と発音されたが、平安時代中期には、muの発音が m となり、さらに n に変わったので、
ん、
に転じ、また m は ũ から u に転じて、鎌倉時代には、
う、
を生み、やがて u の発音は前の語の末の母音と同化して長音化するようになった(仝上)。
mu→m→n→u、
と転訛し、今日の、
う、
に続いている(仝上)。
(「何」 金文・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
(「何」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
(「何」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
(「何」 金文・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
(「何」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
(「何」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95より)
「何」(漢音カ、呉音ガ)は、「何せむに」で触れたように、
象形。人が肩に荷を担ぐさまを描いたもので、後世の負荷の荷(になう)の原字。しかし普通、一喝するの喝と同系の言葉に当て、のどをかすらせてあっとどなって、いく人を押し止めるの意に用いる。「誰何(スイカ)する」という用例が原義に近い。転じて、広く相手に尋問する意になった、
とあり(漢字源)、同じく、
象形。戈を担いだ人を象る。「になう」「かつぐ」を意味する漢語{荷 /*ɡˤajʔ/}を表す字。のち仮借して疑問詞の{何 /*ɡˤaj/}に用いる。のち疑問を表す符号として振り返る頭を加えて「⿰旡丂」の字形となり、羨符「口」を加えて「𣄰」の字形となり、筆画中の「旡」が「人」に、「可」が音符「可 /*KAJ/」に訛変し「何」の字形となる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%BD%95)、
象形文字です。「人が肩に物を持って運ぶ象形」から「になう」を意味し、それが転じて(派生して・新しい意味が分かれ出て)、「なに」を意味する「何」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji276.html)、
と、象形文字とするものもあるが、
形声。人と、音符可(カ)とから成る。背に荷物を負う意を表す。もと、「荷(カ)(になう)」の原字。借りて、疑問詞「なに」の意に用いる(角川新字源)、
形声。声符は可(か)。〔説文〕八上に「擔(にな)ふなり」とあり、荷担する意。〔詩、商頌、玄鳥〕「百祿を是れ何(にな)ふ」、〔詩、商頌、長発〕「天の休(たまもの)を何(にな)ふ」とあり、古くは何をその義に用いた。卜文の字形は戈(ほこ)を荷(にな)うて呵する形に作り、呵・荷の初文。金文に旡+可に作る形があり、顧みて誰何(すいか)する形。のち、両字が混じてひとつとなったものであろう(字通)
と、形声文字とするものもある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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