我(わ)が畳(たたみ)三重の川原の磯の裏にかくしもがもと鳴くかはづかも(伊保麻呂)
の、
我が疊、
は、
三重の枕詞、
で、
三重敷く意、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
畳を何枚も重ねて用いる意で、地名「三重(みへ)」にかかる、
である(精選版日本国語大辞典)。
かくしもがもと、
は、
いつまでもこうしていたいと、
の意で、
河鹿の声をこのように聞いたもの、
とし、
かくしもがも―いつまでもこうしていられたらな―と、河鹿がしきりに鳴いている、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
かくしもがも、
の、
かくしも、
は、
このように、
の意の、
斯(かく)、
に、
強意の助詞「し」、詠嘆の助詞「も」が付いたもの、
もがも、
は、
係助詞「も」に、願望を表わす終助詞「が」が、さらに詠嘆を表わす助詞「も」が付いたもの、
で、
……であったらいいなあ、
の願望を、二重三重に強調した表現になっている(精選版日本国語大辞典)。
かくしも、
は、
斯しも、
とあて、
万代に訶勾志茂(カクシモ)がも千代にも訶勾志茂(カクシモ)がも(日本書紀)、
いとかくしもあらじと思ふに、真実(しんじち)に絶えいりにければ(伊勢物語)、
などと、
「斯(かく)」に強意の助詞「し」、詠嘆の助詞「も」が付いたもの、
で、
いとかうしもあるはわれをたのまぬなめり(蜻蛉日記)、
と、
こう(斯)しも、
とも訛る。
かくし、
は、
斯し、
とあて、
あらかじめ人言繁し如是(かくし)あらばしゑやわが背子将来(おく)もいかにあらめ(万葉集)、
と、
「かく(斯)」に強意の助詞「し」を加え、強調の意を加え、
このようにも、
こんなふうに、
の意となる(仝上)。その、強調の助詞、
し、
を除いた、
かくも、
は、
斯も、
とあて、ここも、格助詞、
も、
で、「かく(斯)」に強調の意を加え、
年のはに如是裳(かくも)見てしかみ吉野の清き河内(かふち)のたぎつ白浪(万葉集)、
と、
このようにも、
こうも、
の意となる(仝上)。「も」「し」という強調の助詞を除いた、
斯く、
は、
此く、
是く、
と当て(仝上・広辞苑・岩波古語辞典)、
上の語の意を受けて、下に移す語、此の如く、かやうに、音便に、か(こ)う、如此(大言海)、
カは此・彼、クは副詞語尾、目前の状態や、直前に述べたこと、直後に述べることを指していう、こう、このように(岩波古語辞典)、
古くは「か」と対の形でも用いられた(→とかく→とにかく→ともかく→とやかく)(デジタル大辞泉)、
「かく」の「く」は形容詞連用形語尾の「く」と同じであろう。この接尾要素によって、「かく」は「か」よりも副詞として安定した性格を持つもののようである(精選版日本国語大辞典)、
などとあり、古くは、
宇奈比川(うなひかは) 清き瀬ごとに 鵜川(うかは)立ち か行ゆきかく行き 見つれども そこも飽(あ)かにと 布施の海に 船浮(う)け据(す)ゑて 沖辺(おくへ)漕(こ)ぎ(万葉集)、
と、「かく」と対比した形で、
か……かく……、
の形で使う(岩波古語辞典)、
か、
は、代名詞で、
彼、
とあて、
遠いものを指し示す語、
で、
こ(此)の対、
となり、
「あ」の古形、
で、用法も「あ」より広い(仝上)とあり、
か……かく……、
と、上記のように、副詞として使う時、
あのように、
の意となり(仝上)、
か行ゆきかく行き、
は、
あちらへ行きこちらへ行きし、
と訳し(伊藤博訳注『新版万葉集』)、
上つ瀬に生ふる玉藻は下つ瀬に流れ触らばふ玉藻なすか寄りかく寄り靡(なび)かひし(万葉集)、
では、
か寄りかく寄り、
を
(玉藻さながらに)寄り添う、
と訳す(仝上)。なお、
かくしもがも、
の、
もがも、
は、
終助詞「もが」にさらに終助詞「も」を添えた語、主に奈良時代にもちいられ、平安時代には「もがな」に代わった、
とあり(広辞苑・デジタル大辞泉)、
体言、形容詞の連用形、副詞などの連用部分につき、その受ける語句が話し手の願望の対象であることを表す、
とし、その
事柄の存在・実現を願う、
意を表し、
……があるといいなあ、
……であるといいなあ、
の意で使う(仝上・デジタル大辞泉)。発生的には、
「もが」に「も」が下接したものであるが、「万葉集」で「毛欲得」「母欲得」「毛冀」などと表記されている例もある、
とされ、上代にすでに、
も‐がも、
という分析意識があった(精選版日本国語大辞典)としている。
都へに行かむ船もが刈り薦(こも)の乱れて思ふ言告げやらむ(万葉集)、
あしひきの山はなくもが月見れば同じき里を心隔てつ(万葉集)、
と、奈良時代に使われた、
もが、
は、
係助詞「も」に終助詞「か」がついた「もか」の転(広辞苑・デジタル大辞泉)、
係助詞「も」に終助詞「が」の付いたもの(精選版日本国語大辞典)、
がある(広辞苑・精選版日本国語大辞典)が、
名詞、形容詞および助動詞「なり」の連用形、副詞、助詞に付く。上の事柄の存在・実現を願う意を表す(デジタル大辞泉)、
文末において、体言・副詞・形容詞および助動詞「なり」の連用形、副助詞「さへ」などを受けて、願望を表わす(精選版日本国語大辞典)、
体言・形容詞連用形・副詞および助詞「に」を承け、得たい、そうありたいと思う気持ちを表す(岩波古語辞典)、
等々とあり、
……があればいいなあ、
……であってほしいなあ、
……でありたい、
……がほしい、
といった意味で使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
もが、
をさらに強調して、
もが・も、
といったことになる。上代でも、
「もが」単独の形、は「もがも」に比して少なく、中古以後は「もがな」の形が圧倒的になる、
とある(精選版日本国語大辞典)。
(「斯」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%AFより)
(「斯」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%96%AFより)
「斯」(シ)は、
会意文字。「其(=箕 穀物のごみなどをよりわける四角いあみかご)+斤(おの)」で、刃物で箕(み)をばらばらにさくことを示す。「爾雅釈言篇に「斯とは離なり」とあり、また「広賀」釈詁篇に「斯とは裂なり」とある、
とする(漢字源)。同じく、
会意文字です(其+斤)。「農具:箕(み)」の象形(「穀物を振り分ける」の意味)と「曲がった柄の先に刃をつけた手斧」の象形から、「斧で切り分ける」を意味する「斯」という漢字が成り立ちました。また、「此(シ)」に通じ(同じ読みを持つ「此」と同じ意味を持つようになって)「これ」の意味も表すようになりました(https://okjiten.jp/kanji2478.html)、
会意。其(き)+斤(きん)。〔説文〕十四上に「析(さ)くなり」とし、其声とするが、声が合わず、また其は箕(き)の初文であるから、斤を加うべきものではない。おそらく丌(き 机)の上にものを置き、これを析く意であろう。〔詩、陳風、墓門〕「墓門に棘(きょく)有り 斧(ふ)を以て之れを斯(さ)く」、また〔列子、黄帝〕「齊國を斯(はな)るること幾十萬里なるかを知らず」のように用いる。指示代名詞としては、ものを強く特定する意があり、〔論語〕に「斯文」「斯の人」「斯の民」のようにいう。「斯須」は連語、「すなわち」のように副詞にも用いる(字通)
と会意文字とするものもあるが、
形声。斤と、音符其(キ)→(シ)とから成る。切りはなす意を表す。借りて、助字に用いる(角川新字源)
と、形声文字とするものもある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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