ゆなゆな


若くありし肌も皺(しわ)みぬ黒くありし髪も白(しら)けぬゆなゆなは息さへ絶えて後(のち)つひに命(いのち)死にける(万葉集)

の、

ゆなゆな、

は、

あげくのはてには、

と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

ゆなゆな、

は、万葉仮名で、

由奈由奈(ユナユナ)、

とあてている(精選版日本国語大辞典)が、

ユは「ゆり(後)」のユ、ナは「朝(あさ)な朝な」「朝な夕な」のナと同じ接尾語でのちのちの意(岩波古語辞典)、
後々(のちのち)の意か。「のちのち」の意とするのは、「ゆり(後)」の「ゆ」に「朝な朝な」「夜な夜な」などの「な」の付いたものとすることによる(精選版日本国語大辞典)、

とあり、

のちのち、

の意のほか、

はて、
終、

の意とある(広辞苑)。

我妹子が家(いへ)の垣内(かきつ)のさ百合花(さゆりばな)ゆりと言へるはいなと言ふに似る(紀豊河)

で、

のちに、

の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)する、

ゆり

は、

後、

とあて(広辞苑)。

後(のち)、
今後、
後刻、
後日、

の意(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・広辞苑)で、

緩(ゆり)の義、

とあり、

しばらくしてのち、
ゆるりとすること、

ともある(大言海)が、格助詞、

ゆり、

の源となった語(岩波古語辞典)とされる。格助詞、

ゆり、

は、

ヨリの母音交替形(岩波古語辞典)、

とされ、

時や動作の起点・経過点をあらわす(岩波古語辞典)、
名詞・活用語の連体形に付く。動作・作用の起点を表す(デジタル大辞泉)、
体言または体言に準ずるものを受け、時間的、空間的起点を示す(精選版日本国語大辞典)、

とあり、

かしこきや命(みこと)被(かがふ)り明日(あす)ゆりや草(かえ)が共(むた)寝む妹(いむ)なしにして(万葉集)、

と、

……から、

の意である(仝上・岩波古語辞典)。この、

ゆり、

は、上述した、「後」の意味の名詞、

ゆり(後)、

が転じたものする説があり(仝上)、

ゆり、

と、同じ格助詞の、

ゆ、
よ、
より、

が、ほぼ同じ意味である。上代には、共通の用法をもつ格助詞として、

ゆ、
ゆり、
よ、
より、

の四語があった(精選版日本国語大辞典)が、

より、

は用法が最も多く、中古以降も使われ(精選版日本国語大辞典)、中古に入ると、

ゆり、
よ、
ゆ、

は、「より」に統一されていく(学研全訳古語辞典)。

「髪」.gif


「髪」(漢音ハツ、呉音ホチ)の異体字は、

发(簡体字)、髮(旧字体/繁体字)、

とありhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%AB%AA

「髪(髮)」.gif


「髮」(漢音ハツ、呉音ホチ)の異体字は、

发(簡体字)、髪(新字体)、𨱳(同字)、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%AB%AE。字源は、

会意兼形声。「髟(かみの毛)+音符犮(ハツ はねる、ばらばらにひらく)」で、発散するようにひらくかみの毛、

とあり(漢字源)、同じく、

会意兼形声文字です。「長髪の人」の象形と「長く流れる豊かでつややかな髪」の象形と「犬をはりつけにした」象形(犬をはりつけにして、いけにえを神に捧げ、災害を「取り除く」の意味)から、長くなったらはさみで取り除かなければならない「かみ」、「草木」を意味する「髪」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji293.html

と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、

形声。「髟」+音符「犮 /*POT/」。「かみ」を意味する漢語{髮 /*pot/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%AB%AE

旧字は、形声。髟と、音符犮(ハツ)とから成る。「かみ」の意を表す。常用漢字は俗字による(角川新字源)、

形声。声符は(はつ)。〔説文〕九上に「根なり」、〔慧琳音義〕に引く〔説文〕に「頂上の毛なり」とみえる。また重文二を録し、その第一字は金文にもみえ、犬牲を示す犬と首との会意字で、もと祓禳を意味するものであったと思われる。髮はその形声字と考えられる(字通)、

と、形声文字としている。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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