いく木ともえこそ見わかね秋山のもみぢの錦よそにたてれば(忠岑)
の、
いく木、
は、
幾寸(き)、
を掛ける。
寸(き)、
は、
古代の長さの単位で、寸(すん)に相当する、
とし(水垣久訳注『後撰和歌集』)、
幾本の木とも(また幾寸の織物とも)、とても見分けることができない、
と訳す(仝上)。
寸(き)、
は、
古代の長さの単位、
で、
切るの語根(万葉集「玉刻春(たまきはる)」「真割持(まきもたる)」)、食指(ひとさしゆび)の中程の二節の閒にて度(はか)りたる語なるべし、
とあり(大言海)、ほぼ、いまの、
寸(すん)、
に相当する(広辞苑)。
寸、
は、「令義解(718)」に、
凡度。十分為寸。十寸為尺。十尺為丈、
とあり、尺貫法で長さの単位。一尺の十分の一。一分の十倍。一寸は、明治八年(一八七五)以来の、折衷尺を基準とする、
曲尺(かねじゃく)では、約三・〇三センチメートル、
くじら尺では、約三・七九センチメートル、
にあたる(精選版日本国語大辞典)。また、色葉字類抄(1177~81)に、
寸、キ、馬長也、
とあるように、
此語、高麗尺、唐尺、渡りてより、寸(すん)の義となりて、馬の丈(たけ)を度(はか)るのみに遺れり(銭の半文をキナカと云ふは、一文の五分にて、寸半(きなか)の義、是は、量の名となる)、
とあり(大言海)、
馬は、四尺を馬長(うまたけ)と云ひ、以上を一寸(ひとき)、二寸(ふたき)、七寸(ななき)、八寸(やき)などと云ひ、これを超にゆるを、長(たけ)に剰(あま)ると云ふ、
とあり(仝上)、室町後期の類書『塵添壒嚢抄(じんてんあいのうしょう)』に、これにつづけて、
四尺に足らぬを、駒と云ふ、是曲尺(かねしゃく)の尺也、
とある。また、
三尺九寸は「かえり一寸」、
といい、一説に、
四寸から七寸までに限っていった、
ともある(精選版日本国語大辞典)。太古、
尺度(ものさし)なき時は、すべて、指、又は、手にて、物の長さを度(はか)れり、
とあり(大言海)、
寸(き)、
のほか、
あた(咫)、
さか(尺)、
つか(握)、
ひろ(尋)、
等々あり、たとえば、
あた(咫)、
は、
食指(ひとさしゆび)と中指とを開きたる広さなるべく、後に云ふ、二寸ほどならむ、
とある(仝上)が、
親指と中指とを広げた長さ、
ともある(精選版日本国語大辞典)。
握、
は、
八束、
で触れたように、
指四本の幅、
さか(尺)、
は、
サはシャの直音化、カは「尺」の末尾の音のkを母音終わりにしたもの、
とあり(岩波古語辞典)、
八坂瓊(やサカに)の曲玉(まがたま)を(日本書紀)、
と、
一杖(つえ)(=約三メートル)の十分の一、
をいい(精選版日本国語大辞典)、色葉字類抄(平安末期)に、
尺、シャク、十寸為尺、
とある。
ひろ(尋)、
は、
「広」(ひろ)の意、
で、
両手を左右に広げたときの両手先の間の距離、
をいい(広辞苑)、
凡そ、六尺、
とある(大言海)。
(「寸」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8より)
(「寸」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8より)
(「寸」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8より)
「寸」(漢音ソン、呉音ソン)は、「ずたずた」で触れたように、
会意。寸は「手のかたち+一印」で、手の指一本の幅のこと。一尺は手尺の一幅で、22.5センチ。指十本の幅がちょうど一尺にあたる。また漢字を組み立てる時には、手、手をちょっとおく、手をつけるなどの意味をあらわす、
とあり(漢字源)、別に、
会意。又(ゆう)+一。又は手指の形、指一本の幅を寸という。拇指と中指をひろげて、手首をそえた形は尺。寸はその十分の一にあたる。〔大戴礼、主言〕に「指を布きて寸を知り、手を布きて尺を知る」という。〔説文〕三下に「十分なり。人の手、一寸を卻(しりぞ)くところの動衇、之れを寸口と謂ふ」とするが、寸口は脈の大候の存するところで、医術上の用語。尺字条八下に「周の制、寸・尺・咫(し)・尋・常・仞の諸度量は、皆人の體を以て法と爲す」とあり、尋は左右の手を広げた長さ、常は尋を折り返した織物の長さである。わが国では手指四本をならべた長さは「つか」、「ひろ」は左右の手を伸ばした長さ。尋とひろは同じ長さであるから尋を「ひろ」と訓するが、寸にあたる国語はない(字通)、
も、会意文字とするが、他は、
象形文字。手を当てて物の長短を測る様を象る。手で測れるほど長くないという短さから「みじかい」という意味になった。「尊」の略体。のち仮借して{寸 /*tshuuns/}に用いる、
とも(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8)あるが、他は、
指事。手の象形文字(=又。て)の下部に一点を加えて、手首の脈搏(みやくはく)をはかる意を表す。また、手のひらの付け根から手首の脈までの間を基準にして、長さの単位の一寸とす(角川新字源)る、
指事文字です。「右手の手首に親指をあて、脈をはかる事を示す文字」から、脈を「はかる」を意味する「寸」という漢字が成り立ちました。また、親指ほどの長さ、「一尺の十分の一の単位」も表すようになりました(https://okjiten.jp/kanji950.html)、
と、指事文字とする。しかし、会意文字、指事文字の解釈の違いはあるが、上記の説を、
手を当てて物の長短を測る様を象る象形文字などと解釈する説があるが、根拠のない憶測に基づく誤った分析である。
なお、「肘」や「守」に含まれる「寸」は異なる起源を持つ(肘#字源の項目を参照)。また、「寺」「專」「辱」など(「尊」も含む)、字の下側に位置する「寸」の多くは、それぞれの甲骨文字や金文の形を見ればわかるように、「又」に羨筆(無意味に足された筆画)が付加されて形成されたものである、
と、
手を当てて物の長短を測る様を象る象形文字、
とする説を一蹴し、
「尊」の略体。のち仮借して、長さの単位を指す漢語{寸 /*tshuuns/}に用いる、
としており(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%B8)、「尊」の字源は、
象形。手(寸)で持った酒の容器(酉)を差し出す様子。「そなえる」「配置する」の意味を表す漢語{尊 /*tsuun/}を表す字。のち仮借して「うやまう」「とうとぶ」の意味を表す漢語{尊 /*tsuun/}に用いる、
としている(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B0%8A)。ちなみに、「肘」の字源は、
形声。「肉」+音符「寸 /*TU/」。「ひじ」を意味する漢語{肘 /*truʔ/}を表す字。「寸」の部分は腕の肘の部分に印をつけた指事文字で、現在の「寸」とは別の字。もとこの字が単独で{肘}を表す字であったが、肉月を加えた、
とし(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%82%98)、「守」の字源は、
形声。「宀(家・建物)」+音符「寸(肘) /*TU/」。「まもる」「たもつ」を意味する漢語{守 /*stuʔ/}を表す字。『説文解字』では会意文字と誤った解釈がなされているが、金文を見ればわかるように、「肘」の原字を音符にもつ形声文字である、
とし(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AE%88)、「寺」の字源は、
形声。「又」+音符「之 /*TƏ/」。「もつ」「にぎる」を意味する漢語{持 /*drə/}を表す字。のち仮借して「官舎」「役所」を意味する漢語{寺 /*s-də-s/}に用いる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%BA)、
「專」の字源は、
象形。紡錘(叀)を手(又 > 寸)で扱うさまを象る。「紡錘」を意味する漢語{塼 /*don/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B0%88)、
「辱」の字源は、
会意。「辰(除草に用いる石器)」+「又(石器を持つ手)」、農地を除草する様子。「除草する」「たがやす」を意味する漢語{耨 /*nooks/}を表す字。のち仮借して「はじる」「はずかしめる」を意味する漢語{辱 /*nok/}に用いる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%BE%B1)、
としている。
参考文献;
水垣久訳注『後撰和歌集』(Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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