秋萩の妻をまかむと朝月夜(あさづくよ)明けまく惜しみあしひきの山彦響(とよ)め呼び立て鳴くも(万葉集)
の、
秋萩、
は、
萩の花、
のことで、
秋に花が咲くのでいう、
とある(精選版日本国語大辞典)が、
萩の初花を妻問うために。萩は鹿の妻とされた、
とも、
共寝の時に萩の花をしとねとすることから、萩は雄鹿の妻とされる、
ともあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、ここでは、
秋萩の妻をまかむと、
は、
秋萩の花妻と手枕を交わそうと、
と訳し(仝上)、
あしひきの山彦響(とよ)め呼び立て鳴くも、
を、
山彦をとどろかせ、雄鹿がしきりに呼び立てて鳴いている、
と訳す(仝上)。
花妻(はなづま)、
は、
はなつつま、
とも訓ませ、
なでしこが其の波奈豆末(ハナヅマ)にさゆり花後(ゆり)もあはむと慰むる(万葉集)、
と、文字通り、
花のように美しい妻、
の意で、一説に、
間もなく結婚する男女が、結婚前の一定期間会わずに離れて過ごすという、その期間の、触れることのできない妻、
という意もある(精選版日本国語大辞典)が、また、
吾が岡にさ男鹿来鳴く初萩(はつはぎ)の花嬬(はなづま)問ひに来鳴くさ男鹿(万葉集)、
と、
萩は鹿の起き伏しして親しむものであるところから、萩を鹿の妻に見立てた語(精選版日本国語大辞典)、
萩の初花を妻問うために。萩は鹿の妻とされた(伊藤博訳注『新版万葉集』)、
等々、つまり、萩の花を、
鹿の妻、
にみなしていう(仝上・広辞苑)とある。
朝月夜、
は、
あさづきよ、
とも訓ませ、
夕月夜(ゆふづくよ)、
と対で、
月が残っている明け方。また、そのときの月(学研全訳古語辞典・デジタル大辞泉)、
明け方に月の残っている下旬の夜、またその月(岩波古語辞典)、
で、冒頭の、
秋萩の妻を枕(ま)かむと朝月夜(あさづくよ)明けまく惜しみあしひきの山彦響(とよ)め呼び立て鳴くも、
は、
月が残っている明け方、
の意だが、
わが寝(ね)たる衣(ころも)の上ゆ朝月夜(あさづくよ)さやかに見れば栲(たへ)の穂に夜の霜降り(万葉集)、
では、
「月夜」は、月の意(精選版日本国語大辞典)、
唯、朝の月なり、夜と云ふ語に意なし(大言海)、
で、
朝まで残る月、
つまり、
有明の月、
の意となる(精選版日本国語大辞典)。
月夜、
は、
つくよ、
つきよ、
と訓ませるが、
闇夜、
に対し、
月の光明る夜、
の意である(大言海)。なお、
陰暦10日頃までの夕方の時刻に、空に出ている上弦の月、
を指す、
夕月夜、
については触れた。
(「朝」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%9Dより)
(「朝」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%9Dより)
(「朝」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%9Dより)
「朝」(①漢音・呉音チョウ、②漢音チョウ、呉音ジョウ)は、「後朝(きぬぎぬ)」で触れたように、
会意→形声。もと「艸+日+水」の会意文字で、草の間から太陽がのぼり、潮がみちてくる時をしめす。のち「幹(はたが上るように日がのぼる)+音符舟」からなる形声文字となり、東方から太陽の抜け出るあさ、
とある(漢字源)。①は、「太陽の出てくるとき」の意の「あさ」に、②は「来朝」のように、「宮中に参内して、天子や身分の高い人のおめにかかる」意の時の音となる(仝上)。同趣旨で、
形声。意符倝(かん 日がのぼるさま。𠦝は省略形)と、音符舟(シウ)→(テウ)(は変わった形)とから成る。日の出時、早朝の意を表す、
とも(角川新字源)、
会意文字です。「草原に上がる太陽(日)」の象形から「あさ」を意味する「朝」という漢字が成り立ちました。潮流が岸に至る象形は後で付された物です、
とも(https://okjiten.jp/kanji152.html)、
会意。艸(そう)+日+月。艸は上下に分書、その艸間に日があらわれ、右になお月影の残るさまで、早朝の意。〔説文〕に字を倝(かん)部七上に収め、「旦なり。倝(旗)に從ひ、舟(しう)聲」とするのは、篆文の字形によって説くもので、字の初形でない。金文には右に水に従う形が多く、潮の干満、すなわち潮汐(ちようせき)による字形があり、その水の形が、のち舟と誤られたものであろう。左も倝の形ではなく、倝は旗竿に旗印や吹き流しをそえた形で、朝とは関係がない。殷には朝日の礼があり、そのとき重要な政務を決したので、朝政といい、そのところを朝廷という。朝は朝夕の意のほかに、政務に関する語として用いる。暮の初文である莫(ぼ)も、上下の艸間に日の沈む形である、
とも(字通)あるが、
「朝」には今日伝わっている文字とは別に、甲骨文字にも便宜的に「朝」と隷定される文字が存在する、
として(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%9D)、
会意文字。「艸」(草)+「日」(太陽)+「月」から構成され、月がまだ出ている間に太陽が昇る明け方の様子を象る。「あさ」を意味する漢語{朝 /*traw/}を表す字。この文字は西周の時代に使われなくなり、後世には伝わっていない、
とは別に、
形声。「川」(または「水」)+音符「𠦝 /*TAW/」。「しお」を意味する漢語{潮 /*draw/}を表す字。のち仮借して「あさ」を意味する漢語{朝 /*traw/}に用いる。今日使われている「朝」という漢字はこちらに由来する、
とし、
『説文解字』では「倝」+音符「舟」と説明されているが、これは誤った分析である。金文の形を見ればわかるように、「倝」とも「舟」とも関係が無い、
とある(仝上)。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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