したふ
肝向(きもむか)ふ心砕けて玉たすき懸けぬ時なくやまず我(あ)が恋ふる子を玉釧(たまくしろ)手に取り持ちてまそ鏡直目(ただめ)に見ねばしたひ山下行く水の上に出でず我が思ふ心安きそらかも(田辺福麻呂)
の、
肝向(きもむか)ふ、
は、
心の枕詞、
玉たすき、
は、
懸く(心にかける)の枕詞、
口やまず、
は、
その名をいつも口にして、
の意、
玉釧、
は、
腕飾り、
で、
手に持つ、
の枕詞(釧(くしろ)については触れた)、
まそ鏡、
は、
直目に見る、
の枕詞、
したひ山、
は、
もみじした山、
で、
したひ山下行く水の、
は、
「上に出でず」を起こす、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
秋山のしたへる妹なよ竹のとをよる子らはいかさまに思ひ居れるか(万葉集)、
では、
したへる妹、
の、
したふ、
を、
赤く色づく意、
として、
もみじのように照り映える娘子、
との意として、
秋山のように美しく照り映えるおとめ、
と訳す(仝上)。
したふ、
は、
は/ひ/ふ/ふ/へ/へ、
の、自動詞ハ行四段活用、
フは、上代ではfuの音で、四段活用、シタブと訓んで上二段活用とする(大言海)のは誤り、
とあり(学研全訳古語辞典・岩波古語辞典)、
木の葉が赤く色づく、
紅葉する、
意で(仝上)、
「した」は「したてる」「しなう」などの「した・しな」と同源か(精選版日本国語大辞典)、
「した」は赤の意(広辞苑)、
葉、萎(しな)ぶの意にて、やがて紅葉(もみぢ)するを云ふ(大言海)、
などとある。
しなう、
は、
耳に聞き目に見るごとにうち嘆き萎(しな)えうらぶれ偲(しの)ひつつ争ふはしに木(こ)の暗(くれ)の四月(うづき)し立てば(万葉集)、
と、
萎う、
撓う、
とあて、
生気を失ってうちしおれる、
意、
撓ふ(う)、
とあて、
しなやかに曲線を示す意、類義語タワムは、加えられた力をはねかえす力を中に持ちながらも、押されて曲がる意、
の、
たわむ、
意の、
しなふ、
とは別語である(岩波古語辞典)。現代語でいう、
したてる、
は、
したつ、
で、
仕立、
為立、
とあて、
「し」はサ変動詞「する」の連用形(精選版日本国語大辞典)、
シは為(シ)、タツは立派に目立つようにする意(岩波古語辞典)、
で、文字通り、
作り終わる、
拵えはたす、
意となり(大言海)、
御帳、御屏風など、あたりあたりしたてさせ給ふ(源氏物語)、
と、
目的に合った、望ましい状態につくりあげる。仕あげる、
意や、
里人は、車きよげにしたてて見に行く(枕草子)、
と、
美しくこしらえる。飾りたてる、
意などに使う。こうみると、
「した」は「したてる」「しなう」などの「した・しな」と同源か、
とする(精選版日本国語大辞典)、
したてる、
しなう、
との関係は、意味のつながりはともかく、
「した・しな」と同源か、
の意味はよくわからない。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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