たち変り月重(かさ)なりて逢はねどもさね忘らえず面影(おもかげ)にして(田辺福麻呂)
の、
さね、
は、
打消と呼応する副詞、
で、
ちっとも、
の意とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。この、
さね、
は、もともと、
實、
核、
とあて、
真根(さね)の意(日本語源大辞典)、
サ(接頭語 真)+根(根本)、つまり「真の実の中心」が語源(日本語源広辞典)、
真根(さね)の義(故に、実(まこと)、又根本の義ともなる)。和訓栞、さね「核を訓むは、小根の義なるべし」。芽を生ずる原(もと)の意なり(種(たね)も田根の義、稻も飯根の約)、實は、身にて、核なり、肝要を、核子、骨子と云ふ(大言海)、
サネ(小根)の義(日本釈名・東雅)、
サ(佳)は美称、ネ(根)は本の意か(菊池俗語考)、
サは先、ネは根の義か(和句解)、
サタネ(小種)の義(名言通・和訓栞)、
タネ(種)と通じる(日本古語大辞典=松岡静雄)、
等々の語原説があるが、和名類聚抄(931~38年)に、
核、(さね)、桃人、一名桃奴、毛毛乃佐禰(もものさね)、
核者、子中(このなか)之骨也、佐禰、
とあり、『大言海』は、
桃人、一名桃奴、
に注記して、
人は仁(にん)なり、和訓栞、さね「人の字を訓むは、人康(さねやす)親王の如し、子仁の義に因れる也」、
とする。
類聚名義抄(11~12世紀)に、
實、マサ・マコト・ミ・サネ・フサク・ミノル・ナル・ミツ・ミツク・ヨシ
とあるように、
果実の中心にある核(かく)、
を指し(岩波古語辞典)、瓜の核を、和名類聚抄(931~38年)に、
瓣、宇利乃佐禰
とあり、
瓜ザネ、
という(大言海)。これが転じて、
是を山田大娘皇女(おほいらつめのひめみこ)と為。更の名は、赤見の皇女といふ。文稍に異(け)なりといへども、其の実(サネ)一なり(日本書紀)、
と、
物事の中心、本質となるもの、
根本となるもの、
真実、
の意として使い(大言海)、さらに、
大垣はさねばかりこそ残りけれ方なしとてもいへはあらじな(続詞花和歌集)、
と、
人や動物の骨組。また、土壁や障子などの芯(しん)にする骨組、
等々にも使う(精選版日本国語大辞典)。この、
さね、
が、
転じて、副詞として、
さね忘らえず、
のように、
真実、
本当に、
の意で、奈良時代、下に打消しの表現を伴い、
決して、
少しも、
心から、
の意で使い、
さね忘らえず、
は、
「忘る」の未然形+可能の助動詞「え」+打消の助動詞「ず」、
で、
ちっとも忘れられない、
の意だが、この用法は非常に稀で、万葉集以降の文献ではほとんど見られないようである。中古になると、
行きてみてあすもさね来むなかなかにをちかた人は心おくとも(源氏物語)、
と、否定を伴わず、
本当に、
必ず、
の意で使う。おなじ、
さね、
でも、
難波潟(なにはがた)潮干(ひほひ)に出(い)でて玉藻刈る海人娘子(あまをとめども)汝(な)が名告(の)らさね(万葉集)、
の、
尊敬・敬愛の意の助動詞「す」の未然形「さ」+あつらえの意の助詞「ね」、
の、
さね、
は、
相手にそうしてほしいと敬愛の意をもって希望するときに使う、
もので、
……してくださいな、
の意である(岩波古語辞典)。
「核」(漢音カク・呉音ギャク)の異体字は、
覈(繁体字)、𣝗(古字)、𱓯(同字)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B8)。字源は、
会意兼形声。亥(ガイ)は、ぶたのからだのしんにあるかたい骨組みを描いた象形文字で、骸(ガイ)の原字。核は「木+音符亥」で、木の実のかたい芯、
とあり(漢字源)、同じく、
会意兼形声文字です(木+亥)。「大地を覆う木」の象形(「木」の意味)と「いのしし」の象形(「いのしし」の意味だが、ここでは「かたい」の意味)から、かたい木を意味し、そこから、「物事の中心」を意味する「核」という
漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1554.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、
形声。木と、音符亥(カイ)→(カク)とから成る。樹皮を編んで作ったかごの意を表す。借りて、「さね」の意に用いる(角川新字源)、
形声。「木」+音符「亥 /*KƏ/」。「果実のたね」を意味する漢語{核 /*gəək/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A0%B8)、
形声。
声符は亥(がい)。亥は獣の骨骼の形で、堅核の意がある。〔説文〕六上に「蠻夷、木皮を以て篋と爲す。状、籢𭔿(れんそん)の如し」とあり、籢は鏡匣の意(字通)、
と、形声文字としている。
(「實」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%A6より)
(「實」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%A6より)
「實」(慣用ジツ、漢音シツ、呉音ジチ)の異体字 は、
实(簡体字)、実(新字体)、
である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%A6)。字源は、
会意文字。「宀(屋根)+周(いっぱい)+貝(たから)」で、家の中に財宝をいっぱい満たす意を含む。中身がいっぱいで欠け目がないこと、また、真(中身がつまる)は、その語尾nが転じたことば、
とあり(漢字源)、同じく、
会意文字です(宀+周+貝)。「屋根・家屋」の象形と「方形の箱に彫刻がいちめんに施された」象形(「ゆきわたる」の意味)と「子安貝」の象形から屋内に財貨が「ゆきわたる・みちる」を意味する「実」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji493.html)、
会意。宀と貫(財宝)とから成り、家の中に財宝が満ちていることから、ひいて「みちる」、転じて「みのる」「み」の意を表す。教育用漢字は省略形による(角川新字源)、
会意。旧字は實に作り、宀(べん)+貫(かん)。〔説文〕七下に「富なり」とし、「貫を貨物と爲す」(段注本)とするが、宀は宗廟、貫は貝貨を貫き連ねた形で、貝を宗廟に献ずる意。その貫盈するところから、充実の意となる。金文の〔散氏盤(さんしばん)〕に鼎に従う字があり、また〔国差缶+詹(こくさたん)〕の字は、上部が冖(べき)の形に近い。鼎中にものを充たして供える意ともみられる。充実の意から誠実・実行の意となり、その副詞に用いる(字通)、
と、すべて、会意文字とするが、その字解うち、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)による、
宀と貫(財宝)、
とする、
「宀」 + 「貫」の分析は誤りである。「貫(毌)」の金文を見ればわかるように「貫」は関係ない(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%AF%A6)、
とし、
会意。「宀」+「周(玉器)」の原字 + 「貝」。家の中に宝物が満ち溢れるさまを象る。「みちる」を意味する漢語{實 /*dik/[字源 2]}を表す字、
を是とする(仝上)。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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