和栲(にきたへ)の衣(ころも)寒(さむ)らにぬばたまの髪は乱れて国問(と)へど国をも告(の)らず家問へど家をも言はずますらをの行きのまにまにここに臥(こ)やせる(万葉集)
の、
臥(こ)やせる、
の、
臥(こ)ゆ、
は、
臥(こ)いまろぶ、
で触れたように、
い/い/ゆ/ゆる/ゆれ/いよ、
と、自動詞ヤ行上二段活用で、
寝ころぶ、
横になる、
意である(学研全訳古語辞典)。由来は、
老い、老ゆ。悔い、悔ゆと同じ活用なり、此語、活用は違へど、崩(く)ゆ(下二段)に通ずと云ふ(蹴(く)ゆ、蹴(こ)ゆ)、崩(く)え横たわる意なり、一転して、こや(臥)る、くやるともなる(映(はゆ)、栄(はえ)る)、同義にして自動なり、崩(く)ゆも、くやすとなる、他動なれど、同じ趣きなり(臥ゆ、も、臥(こ)やすともなれど、是れは、敬語なり)(大言海)、
コヒ(臥)はコロビ(転)の転義(言元梯)、
とあるが、はっきりしない。ただ、
臥ゆ、
は、
「こい伏す」「こいまろぶ」など、連用形で複合動詞を作った形で用いられ、単独では用いられない、
とある(日本語源大辞典・学研全訳古語辞典)。
行きのまにまに、
は、
旅の途中で、
の意で、
まにまに、
は、
ままに、
任せて、
の意となり、
遠く故郷を離れたまま、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
行のまにまに(ゆきのまにまに)、
は、文字通りには、
しかすがに黙(もだ)もえあらねば我(わ)が背子が往乃万々(ゆきノまにまに)追はむとは千遍(ちたび)思へど(万葉集)、
と、
進むにまかせて、
また、
進み行くにつれて、
の意で(精選版日本国語大辞典)、
(あの方が)行った道筋通りに、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
まにまに 、
は、
「まにま」に格助詞「に」の付いた語、
で、
随に、
随意に、
儘に、
任に、
等々とあて(大言海・岩波古語辞典・広辞苑)、
連体修飾句を受け、全体が連用修飾句として、
副詞的に用いられ(精選版日本国語大辞典)、
儘(まま)に儘(まま)に、の約、
ともされ(大言海)、
他の人の意志や、物事の成り行きに従っての意(学研全訳古語辞典)、
他人の意志や事態の成り行きに任せて行動するさま(デジタル大辞泉)、
行動の決定を他に任せて、他の意志や事態の成り行きに従うさまを表わす語(精選版日本国語大辞典)、
として、
大君の行幸(みゆき)のまにまにもののふの八十供(やそとも)の男(を)と出で行きし(万葉集)、
と、
……に任せて、
……のままに、
の意で、
天皇の行幸に付き従って、
と訳し(伊藤博訳注『新版万葉集』)、
漕(こ)ぎゆくまにまに海のほとりにとまれる人も遠くなりぬ(土佐日記)、
では、
ある事柄が、他の事柄の進行とともに行われるさま、
の意で、
……とともに、
……につつれて、
の意で使い、さらに、後に、
この外に猫のよび名を、……主の随意(マニマニ)名づけ給へ(南総里見八犬伝)、
と、
思いのままに、
任意に、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
格助詞「に」を取った、
まにま、
は、
随、
随意、
儘、
任、
などとあて(大言海・岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)、
マの一音に、任(ままに)の意あり、任(ま)くなど云ふ、疊みて、ママとも云ふ、下のマは、逢はずま、懲りずまのマに同じ、
とあり(大言海)、
他の意志や事態の成り行きに従うさま(精選版日本国語大辞典)、
をいい、
かにかくにと念ひさまたく事なくして教へ賜への末仁末(マニマ)奉侍(つかへまつれ)(続日本紀)、
と、
従って、
の意となる(仝上・岩波古語辞典)。なお、『大言海』のいう、
ま、
は、
大和はくにのまほらま(古事記)、
かへらまに君こそ我(わ)れに栲領布(たくひれ)の白浜波(しらはまなみ)の寄る時もなき(万葉集)、
と、
形容詞語幹・動詞の未然形・打消しの助動詞「ず」・接尾語「ら」などに接続して、状態を表す語、助詞「に」を伴って副詞的に用いられることが多い。また「かへらま」「かへらば」などマとバと音が共通する(岩波古語辞典)、
名詞、形容詞の語幹、動詞の未然形、打消しの助動詞「ず」などに付いて、そのような状態である意を表す。多く「に」を伴って副詞句をつくる(デジタル大辞泉)、
形容詞の語幹や名詞、動詞の未然形、打消の助動詞「ず」などさまざまな語について、そのような状態である意の体言をつくり、さらに助詞「に」を伴って副詞句をつくる。「とひとまに」「まほらまに」「ふつまに」「かえらまに」「逢わずまに」など(精選版日本国語大辞典)、
とあり、また、
任(ま)く、
は、
罷く、
とも当て(精選版日本国語大辞典)、
任(まか)すと同根、
とあり(岩波古語辞典)、
支配者が下の者に対し命令して行動させる意、
を表わし、
亦鍛地(かたしところ)を賜ふ。即ち土部職(はしのつかさ)に任(マケ)たまふ(日本書紀)、
と、
任命する、
意である(精選版日本国語大辞典)。で、
まにまに、
の用例は、
伊弉諾尊、悪(にく)むて曰(のたま)はく、可以任情(ココロノマニマニ)行(い)ねとのたまふて乃(すなは)ち逐(やらひや)りき(日本書紀)、
の、
心のまにまに、
は、
こころ(心)のまま、
の意、
こととはばありのまにまに都鳥都の事を我に聞かせよ(後拾遺和歌集)、
の、
有りのまにまに、
は、
ありのまま(有儘)、
の意、
大君の末支能末爾末爾(マキノマニマニ)執り持ちて仕ふる国の(万葉集)、
の、
まけ(任)のまにまに、
は、
まけのまくまく、
まきのまにまに、
ともいうが、
任命のままに、
任命にしたがって、
の意(精選版日本国語大辞典)で使う。もともとは、
奈良時代の口頭語、
で、「万葉集」や「続日本紀」宣命では「まにま」と「まにまに」が併用されている。用例からすると「まにま」の方が新しいが、
「まにま」から「まにまに」へ転じたとする説、
と、
「まにまに」から「まにま」へ転じたとする説、
とがある(精選版日本国語大辞典)。平安時代には、訓点資料で見ると、九世紀中頃より、
「まにまに」から「ままに」へ移行したと推察される、
とある(仝上)が、訓点資料では、
ほしきまにまに、
ほしきままに、
の形で使用されていて、「まにまに」や「ままに」の単独用法には乏しい(仝上)ともある。その後、「まにまに」は減少し、一二世紀初頭には歌の中でも使用されなくなり、「ままに」にとって代わられる(仝上)とある。
(「随」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9A%8Fより)
(「随」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9A%8Fより)
「随」(漢音スイ、呉音ズイ)の異体字は、
隨(旧字体/繁体字)、
である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9A%8F)。
会意兼形声。隋・墮(堕 おちる)の原字は「阜(土盛り)+左二つ(ぎざぎざ、参差(しんし)の意)」の会意文字で、盛り土ががさがさと崩れ落ちることを示す。随は「辶(すすむ)+音符隋」で、惰性にまかせて壁土がおちてとまらないように、時勢や先行者のいくのにまかせて進むこと、もと、上から下へ落ちるの意を含む、
とある(漢字源)。同じく、
会意兼形声文字です(辶(辵)+隋)。「立ち止まる足・十字路の象形」(「行く」の意味)と「段のついた土山の象形と左手の象形と工具の象形と切った肉の象形」(「細かく割いてしなやかになった肉、くずれおちる」の意味)から、緊張がくずれたまま行く事を意味し、そこから、「言いなりになる」、「従う」を意味する「随」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1695.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、
形声。意符辵と、音符隋(スイ)とから成る。「したがう」意を表す(角川新字源)、
形声。旧字は隨に作り、隋(ずい)声、隋は祭の余肉。〔説文〕二下に「從ふなり」とし、墮(堕)(だ)の省声とする。墮は祭肉を埋めて地を祀る下祭の儀礼。神の在る所に従って祀る意。随時随所、神の在るところに従って祀るので、随従の意となる。わが国では「随神」を「神(かん)ながら」とよむ(字通)、
と、形声文字とするものもある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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