春されば妻を求むとうぐひすの木末(こぬれ)を伝ひ鳴きつつもとな(万葉集)
の、
もとな、
は、
やたらに、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)が、
やたらに……してどうにもならない、
しきりに、
みだりに、
無性に、
の意で使われる(大言海・広辞苑・岩波古語辞典)。多く、
自分には制御のきかない事態をあきれて眺めているさまに用いられる、
とある(精選版日本国語大辞典)。
木末(こぬれ)を伝ひ、
は、
梢(こずえ)伝いに、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
木末(こぬれ)、
は、
木(こ)の末(うれ)の、ノ、ウの約、ヌ(大言海)、
ウラ(末)の枝、ウラエの変化、こずえの意(日本語源広辞典)、
コノウレ(木末)の約(万葉代匠記)、
コノウレの約(岩波古語辞典・広辞苑)、
木の下の暗いところをいうコノクレ(木暗)の約(類聚名物考・和訓栞)、
木の枝の先端。こずえ(学研全訳古語辞典)、
「こ(木)のうれ(末)」の音変化(デジタル大辞泉)、
「こ(木)のうれ(末)」の変化した語(精選版日本国語大辞典)、
等々とあり、
木の枝先、梢(こずえ)(日本語源大辞典・広辞苑)、
伸びた若い枝先、木の枝先(岩波古語辞典)、
木の幹、又は、枝の先、木の末(うれ)(大言海)、
樹木の先端の部分。こずえ(デジタル大辞泉)、
木の枝さき。枝の先端の方。こずえ(精選版日本国語大辞典)、
等々の意とあり、微妙な差を捨象すると、
枝の先、
の意ということになる。
こずえ(こずゑ)、
は、
梢、
杪、
とあて、和名類聚抄(931~38年)に、
梢、古須恵、
とあり、
木末(こずゑ)の意(広辞苑・岩波古語辞典・大言海・名語記・和訓栞)、
木の末の意(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、
で、
幹や枝の先の部分(岩波古語辞典・広辞苑)
幹、又は、枝の先、木の末(うれ)(大言海)、
木の末の意(精選版日本国語大辞典)、
等々とあり、平安時代になって、
こぬれ、
に代わって使われ出した(岩波古語辞典)とある。
うれ(末)、
で触れたように、
うれ、
は、
ウラ(末・裏)の転(岩波古語辞典)、
で、
茎や葉の先の方、
をいい、
本、
は、
うれ、
に対して、
茎、
をいう(高田祐彦訳注『新版古今和歌集』)。
うれ、
は、
末、
若末、
と当て(岩波古語辞典)、
植物の生長する先端、
の意(仝上・精選版日本国語大辞典)で、
ぬれ、
うら、
とも訛る(仝上・大言海)が、
うれ、
は、
ウラ(裏・末)の転(岩波古語辞典)、
なので、
木の末、
は、
このうれ、
とも、
雪いと白う木のすゑに降りたり(伊勢物語)
と、
このすえ、
とも訓ませる(仝上)。つまり、
こずえ(梢・木末)、
である。
うれ、
の由来は、
末枝(ウラエ)の約まりてウレとなり、ウレ、又他語に冠すれば、ウラガレ(末枯)・ウラバ(末葉)となる(大言海)、
ウラの交換形(時代別国語大辞典-上代編)、
ウヘ(上)の転(和訓栞)、
と諸説あるが、
うれ、
の古形が、
うら、
で、
「もと」の対、
で、
幹に対する先端、
ともある(岩波古語辞典)。この、
うら、
は、
上の原語ウに接尾語ラを添えたもの(日本古語大辞典=松岡静雄)、
アナウラ(蹠 足裏)と同語(玄同放言)、
等々とあるが、
うへ、
は、
古形ウハの転。「下(した)」「裏(うら)」の対。最も古くは、表面の意。そこから、物の上方、髙い位置、貴人の意へと展開。また、すでに存在するものの表面に何かが加わる意から、累加・つながり・成行きなどの意などの意を示すようになった、
とある(岩波古語辞典)。
うえ、
で触れたように、
「う」+接尾語「へ」
という説は、上代特殊仮名遣いからみて、
接尾語「へ」は、「fe」(甲類)、「うへ」の「へ」は「fë」(乙類)、
で、接尾語説は採りえない。となると、
上の原語ウに接尾語ラを添えたもの、
は成り立たず、
うわ→うら→うれ、
と見るほかないのかもしれない。なお、
上の方の枝、
の意で、
上つ枝、
とも当てる、
ほつえ(秀つ枝)、
については触れたし、
裏、
心、
と当てる、
うら、
についても触れた。
(「木」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8より)
(「木」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8より)
(「木」 楚系簡帛文字(簡帛は竹簡・木簡・帛書全てを指す)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8より)
(「木」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8より)
「木」(漢音ボク、呉音モク)は、
象形、タチの形を描いたもの。上に葉や花をかぶった木、
とある(漢字源)。他も、
象形。一本の樹木を象る。「き」を意味する漢語{木 /*mˤok/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8)、
象形。立ち木の形にかたどり、樹木の意を表す(角川新字源)、
象形文字です。「大地を覆う木」の象形から、「き」を意味する「木」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji61.html)、
象形。枝のある木の形。〔説文〕六上に「冒(おほ)ふなり。地を冒ひて生ず。東方の行なり」という。〔釈名、釈天〕に「木は冒ふなり」とあり、当時の音義説である。卯字条十四下にも「冒ふなり」とあり、いずれも字義に関しない説で、字はむしろ朴の字義に近く、木訥(ぼくとつ)・木強のように用い、素材としての木をいう。植樹したものは樹という(字通)、
と、象形文字としているが、『説文解字』によれば、
「木,冒也,冒地而生。東方之行。从屮,下象其根―木とは、冒(おお)うことである。大地を覆って生育する。〔五行においては〕東方の行。幹と枝葉である屮に従い、下部はその根の形に象る」。「冒」は類音による注釈で、語源とは関連がない。五行は「木・火・土・金・水」の順で時計回りで一周し、「木」は東方に配置される。「木」が五行で東に位置することが、『説文』の「東」の解字を誤らせた可能性がある、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%9C%A8)。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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