さのかた


さのかたは実にならずとも花のみに咲きて見えこそ恋のなぐさに(万葉集)

の、

さのかた、

は、原文では、

狭野方(さのかた)、

とあて(精選版日本国語大辞典)、

あけび、か。恋する女の譬え、

と注記する(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

さのかた、

は、植物の名ではあるが、

何をさすかは諸説あるが未詳、

とされ(精選版日本国語大辞典)、

一種の蔓植物、藤の類ともアケビともいう(岩波古語辞典)、
つる植物の「藤(ふじ)」「通草(あけび)」、また「萩(はぎ)」などとする(精選版日本国語大辞典)、
マメ科の落葉つる性低木、フジの別称(動植物名よみかた辞典)、
「狭野方」は未詳ながら、「方」は蔓性植物の蔓を指しているといわれ、落葉低木のアケビとする説が有力になっていますhttps://bonjin5963.hatenablog.com/entry/2022/04/12/000500

等々の説があるが、はっきりしないものの、

蔓性の植物、

とするのが共通である。

落葉低木のアケビとする説が有力になっていますhttps://bonjin5963.hatenablog.com/entry/2022/04/12/000500
さのかた(狭野方)、アケビの古名と考えられていますhttps://wayouen.jp/?mode=f13&srsltid=AfmBOooU97cXjB0pZPOgZ-Y2d606KAfPjVEN2N9Xspgur9GU7lQJ-kmh

と、

アケビ、

とする説が有力である。

アケビ、

は、

木通(アケビ)、
通草(アケビ)、
山姫(ヤマヒメ)、
山女(サンジョ)、

などとあてhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B1%E3%83%93

アケビ科の蔓性落葉低木の一種、

であるが、

アケビ属、

に属する植物の総称でもある(仝上)。ただ、

アケビ、

は、

実の名、開肉(あけみ)の転(黄身(きみ)、黍)、実裂けて肉をあらはす義、アケビカヅラは、アケビの成る葛の義にして、灌木としての名なり、アケビ蔓とも云ふ(大言海)、

として、

アケビ、

アケビカヅラ、

を分けている(仝上)。後述の和名類聚抄等々では、確かに区別しており、

アケビヅル、
アケビカヅラ、

を略して、

アケビ、

と呼ぶ(大言海)。ここでは、まとめて、

アケビ、

としておくが、平安時代の漢和辞典『新撰字鏡』(898~901)に、

艹+開、山女也 阿介比、

『本草和名(ほんぞうわみょう)』(918年編纂)に、

通草、(梁の)陶弘景中云、華有細孔、両頭相通、阿芥比加都良、

和名類聚抄(931~38年)に、

通草、阿芥比加都良、
葡子、阿芥比、

『図経本草』(蘇頌 1061年)に、

通草、結、實如小木瓜、今亼謂之通草、

江戸末期の『本草綱目啓蒙』に、

通草、アケビカヅラ、アケビヅル、

とある。

アケビ、

の由来は、

開肉(あけみ)の転(黄身(きみ)、黍)、実裂けて肉をあらはす義(大言海)、
開け実の意(広辞苑)、
アケミ(開実・開肉)の転(日本語源=賀茂百樹、
ムベ(アケビ科の常緑低木)より熟期がやや早いので、秋ムベの意(国語史論=柳田國男)、
アカミ(赤実)の転(日本釈名・滑稽雑誌所引和訓義解・東雅・箋注和名抄)、
アマカツミ(甘葛実)の転(名語記)、
アケツビ(開玉門)の略(古今要覧稿・松屋筆記)、

等々とあるが、後述のような生態からみて、素直に、

開け実、

でいい気がする。

アケビの実.jpg


アケビ、

は、

アケビ科の落葉低木。本州、四国、九州の山野に生える。茎はつる性で、直径一・五センチメートルぐらい。他の樹木などに絡みついて生長する。葉は五小葉からなる掌状複葉で、小葉は細長い楕円形または倒卵形。春、新葉と共に淡紫色の花が総状に咲く。実は長さ八センチメートル内外の長卵形で、淡紫色。皮が厚く、熟すと縦に裂け、強い甘味がある。つるは、かご細工にするほか、木部には配糖体アケビンを含んで木通(もくつう)と呼ばれ、利尿、通経剤とされる。成熟した果実を天日乾燥したものが、八月札(はちがつさつ)と称される生薬になる。一般にアケビと呼ぶ植物はミツバアケビであることが多い、

とあり(精選版日本国語大辞典・https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B1%E3%83%93)。漢名は、

木通(もくつう)、
山女、
野木瓜、

とある(仝上)。

はんだつかずら、

ともいい、

アケベ、
アケブ、
アクビ、
アクミ、

等々と訛り、

アケツビ、
イシアケビ、
キノメ、

等々の方言名もある(仝上)。

アケビの花.jpg



アケビの新芽、

は、

山菜として利用されており、山菜名としては、新潟県ではキノメ、コノメ、山形県ではモエ、モイ、ヤマヒメなどとよばれている(仝上)。

フジ.jpg


藤、

は、

ふぢ、

呼称・発音され(「富士」は「「ふじ」)、

吹散(ふきちり)の略(大言海)、
吹き流しの意のフキチリ(吹散)の略(名言通)、
春の景物であるところからトルトキ(春時)の反、またハルツリ(張釣)の反か(名語記)、
ブチ(鞭)の義、古くはつるをムチにしたところから(百草露)、
フサタリハナ(房垂花)の義(日本語原学=林甕臣)、
フタアヰの義(和訓栞)、
フはハフの上略、チは地か(和句解)、
花が長くフチ(淵)に臨むところから(言葉の根しらべ=鈴木潔子)、
節のある植物であるところから(東雅)、

等々ととあるが、はっきりしない。漢字の、

藤、

は、本来は

中国産の種であるシナフジを中国で紫藤と表記したことにより、日本でこれを省略して当てたものである。藤という字そのものは藤本(とうほん)、すなわちつる性で木本(「草本」の対)性の植物を指す言葉である、

とあるhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%B8_(%E6%A4%8D%E7%89%A9)

フジ、

は、

マメ科のつる性落葉木本。本州、四国、九州の山野に生え、観賞用に栽植される。幹は長さ一〇メートル以上に達し右巻きに他物にからむ。葉は一一~一九個の小葉からなる奇数羽状複葉。各小葉は長楕円形または卵形で、花期には黄緑色、長さ約四センチメートル。四~五月、淡紫色の蝶形花が長く垂れ下がる房となって咲く。果実は偏長楕円形。長さ一五センチメートル内外の硬い莢で、乾くと裂けて中の種子を飛ばす。つるは丈夫で古代から縄(なわ)の代用にしたり、籠などの細工に用いる。

とあり(精選版日本国語大辞典)、近畿地方以西の山野に自生する、

ヤマフジ(蔓は左巻き)、

フジ(ノダフジ 蔓は右巻き)

のほか(広辞苑)、シロバナフジ・アケボノフジ・ヤエフジ・クジャクフジなど多数の園芸品種がある(精選版日本国語大辞典)。漢名に当てる、

紫藤、

は、

正しくは中国産のシナフジの名(仝上)とする。一般に、

フジ、

と言っているのは、

ノダフジ(野田藤)、

で、これは摂津国野田村(現在の大阪市福島区周辺)の地名に由来する。野田村は「吉野の桜、高尾(高雄)のもみじ、野田の藤」と言われるほどフジの名所であった。その他の地方名として、

ツルフジ、
フジヅル、
ハナフジ、

などともよばれているhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%B8_(%E6%A4%8D%E7%89%A9)

ヤマフジ、

は、

マメ科のつる性落葉木本。本州兵庫県以西、四国、九州の山野に生え、茎は左巻きに他物にからむ。葉は九~一三個の小葉からなる奇数羽状複葉。小葉は卵形で裏に細毛を密生。春、その年の枝先に鮮紫色のフジより大きな蝶形花がやや短めの房状に群がって咲く、

とあり(精選版日本国語大辞典)、

ノフジ、

ともいい(仝上)、いわゆる、

フジ(ノダフジ)、

との違いは、、

ヤマフジは葉の側小葉が4〜6対と、フジ(5〜9対)よりかなり少ない。
ヤマフジの葉裏には毛がある。フジでは成熟時に無毛となる。
ヤマフジの花序は長さが10〜20 cmにしかならず、フジ(20-90 cm)より遙かに短い。そこに花の柄が同じかやや長いので、花序の形は細長い紐状でなく、まとまった房のようになる。
ヤマフジの苞は卵形、フジでは狭卵形。
ヤマフジは種子が黒褐色(フジは褐色)。
ヤマフジは蔓が左巻き(Z巻き)で、右巻き(S巻き)のフジと逆、

とありhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%B8_(%E6%A4%8D%E7%89%A9)、ヤマフジは京都や奈良県、滋賀県には見られないので、古代に、

フジ、

とされるものは、

ヤマフジ、

は含まれない(仝上)。

フジのつるから繊維をとり、衣服を編んだ、

藤衣(ふじごろも)

については触れた。このフジも、

ノダフジ、

で、ヤマフジより繊維が強い(日本大百科全書)とされる。

フジ糸、

は、

つるを槌(つち)で打ち、皮をむき取り、灰汁(あく)で煮て、流水でさらし、乾かしたのち手でほぐし、撚(よ)りをかけてつくった。近年まで畳の縁はその糸で編んだ布が使われていた。諏訪(すわ)大社の御柱(おんばしら)を山から切り出し引く縄は、ノダフジの糸で綯(な)われていた、

とある(仝上)。

ハギ.jpg


なお、

はぎ

については触れた。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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