べみ


時ならず玉をぞ貫(ぬ)ける卯の花の五月(さつき)を待たば久しくあるべみ(万葉集)

の、

べみ、

は、

ベシのミ語法、

で、

久しくあるべみ、

は、

いつのことかわからぬので、

の意として、

待ち遠しくて仕方がないので、

と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

卯の花

は、

うつぎ、

の別名であり、「うつぎ」は、

うづき

で触れたように、

空木、

の意味で、茎が中空であることからの命名であるとされる。

卯の花.jpg


出(い)でて去(い)なば天(あま)飛ぶ雁の鳴きべみ今日(けふ)今日(けふ)と言ふに年を経(へ)にける(万葉集)

での、

べみ、

も、

ベシのミ語法、

で、

(空飛ぶ雁が鳴くように)お前が泣き悲しみそうなので、

と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

雁.jpg


べみ、

は、

推量の助動詞「べし」の語幹「べ」+接尾語「み」(デジタル大辞泉)、
推量の助動詞「べし」の語幹相当部分「べ」に、「み」がついたもの(精選版日本国語大辞典)、
べは推量の助動詞の語幹、ミは理由を表す助詞(岩波古語辞典)、
推量の助動詞「べし」の語形変化しない部分「べ」+原因・理由を表す接尾語「み」(学研全訳古語辞典)、

とあり、ほぼ同趣旨で、

……しそうなので、
……はずであろうから。
……してしまいそうなので、
……であろうと思って、

といった意で使い(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・学研全訳古語辞典)、上代に見られ、多く、

ぬべみ、

の形で使われた(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典)。中古には、

佐保(さほ)山のははその紅葉(もみぢ)散りぬべみ夜(よる)さへ見よと照らす月影(古今和歌集)、

と、

歌語としてのみ例がある(精選版日本国語大辞典)。

ぬべみ、

は、

「ぬ」は完了の助動詞、「べみ」は「べし」の語幹相当部分に接尾語「み」の付いたもの(精選版日本国語大辞典)、
「ぬべし」(完了の助動詞ヌに推量の助動詞ベシのついたもの)のヌベに理由を表す助詞ミのついたもの(岩波古語辞典)、

とあり、

天飛(あまだ)む 軽嬢子(かるをとめ)いた泣かば人知り奴陪瀰(ヌベミ)幡舎(はさ)の山の鳩の下泣きに泣く(日本書紀)、

と、

……してしまうだろうから、
きっと……だろうから、

の意となる。この助詞、

み、

は、

采女(うねめ)の袖吹きかへす明日香風(かぜ)京を遠見(とほみ)いたづらに吹く(万葉集)、
瀬をはやみ岩にせかるる谷川の割れて末にもあはんとぞ思ふ(詞花和歌集)、

と使われ、

従来接尾語として説かれてきた「瀬を早み」「風をいたみ」などの「み」は、その機能から見て、接続助詞と考えたい。形容詞(まれに形容詞型活用の助動詞)の語幹につく。多く上に助動詞「を」を伴い、「……のゆえに」「……なので」の意で、原因・理由をあらわす(岩波古語辞典)、
(「名詞+を…み」「名詞…み」の形で)原因・理由を表わして連用修飾語となる。「…が…なので」「…が…だから」(精選版日本国語大辞典)、

とある。

ミ語法、

というのは、

形容詞や形容詞型活用の助動詞の語幹に接尾辞-mîを付けて連用修飾語となる、

もので、ひとつは、

道の後(しり)古波陀(こはだ)をとめは争はず寝(ね)しくをしぞもうるはし美(ミ)思ふ(古事記)、
玉鉾の道の神たち賂(まひ)はせむ我(あ)が思ふ君をなつかし美(ミ)せよ(万葉集)、

と、

あとに「思う」「する」などの動詞が続き、感情の内容を表現する連用修飾語を作る、

という使い方、いまひとつは、上述した、

(「名詞+を…み」「名詞…み」の形で)原因・理由を表わして連用修飾語となり、…が…なので。…が…だから、

の意を表す(https://sites.google.com/view/ojp-pumyinonori/・精選版日本国語大辞典)。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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