しののに


聞きつやと君が問はせるほととぎすしののに濡れて此(こ)ゆ鳴き渡る(万葉集)

の、

聞きつやと君が問はせる、

は、

その声を聴いたかとあなたがお尋ねの、

と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

しののに濡れて、

は、

雨にびっしょり濡れて、

の意である(仝上)。

朝霧に之努努爾(シノノニ)濡れて呼子鳥(よぶこどり)三船(みふね)の山ゆ鳴き渡る見ゆ(万葉集)

では、

しとどに濡れて、

と訳す(仝上)。

しののに、

は、

びっしょりぬれているさま、

を表す語で(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)、

しっとりと、
ぐっしょりと、
しとどに、
じとじとに、

といった意になる(仝上・学研全訳古語辞典・岩波古語辞典)。

しぬぬに、

と同義とされるが、

しぬぬに、

は、

朝霧に之努努爾(シノノニ)濡れて呼子鳥三船の山ゆ鳴き渡る見ゆ(万葉集)、

とある、

「しののに」に当たる万葉仮名「努」などをヌと訓み誤って作られた語、

とあり(岩波古語辞典)、平安末期の歌学書『袖中抄(しゅうちゅうしょう)』(顕昭著)には、

しぬぬにぬれてとは、之怒怒と書きてしとどにぬれてともよみ、又しののにぬれてとも読めり、

とある。ただ、

しののに、

については、

びっしょり濡れそぼつさまというシトシトはシトト・シトドを経て、しのの(之怒怒)に転音した、

とする音韻変化に因るとする説もある(日本語の語源)。

似た例は、

しのに→しぬに、

がある。

しのに、

は、

淡海の海夕波千鳥汝が鳴けば情(こころ)も思努爾(シノニ)古(いにしへ)思ほゆ(万葉集)、

と、

草木のしおれなびくさま、

の意から、転じて、

心のしおれるさまなどを表わす語、

として、

しおれなびいて、
しおれて、
ぐったりと、

の意で使うが、この

しのに、

の「ノ」に当たる万葉仮名「怒」「努」「弩」などを「ヌ」とよんだところからできた、

しぬに、

がある。前出の歌学書『袖中抄』に、

近江の海夕なみちどりながなけば心もしぬにいにしへおもほゆ、顕昭云、心もしぬにとは、しのぶ心歟、

とある(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。

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参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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