片縒(かたより)
片縒(かたよ)りに糸をぞ我(わ)が縒る我が背子が花橘を貫(ぬ)かむと思(おも)ひて(万葉集)
の、
片縒り、
は、
一本縒り、
とあり、
上二句は、一筋に相手を思うことの譬え、
とあり、
片縒(かたよ)りに糸をぞ我(わ)が縒る、
は、
片縒りのままに私は糸を縒っています、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
片縒(かたより)、
は、
片撚、
とも当て(広辞苑)、
左右どちらか一方によりをかけること(広辞苑)、
糸などを、両方から搓らず、一方から搓ること(岩波古語辞典)、
糸を縒るとき、左右いずれか一方の向きにだけ縒りをかけること(精選版日本国語大辞典)、
片方の糸にだけよりをかけること(学研全訳古語辞典)、
などとあり、そうした、
長い繊維を一本あるいは数本ひきそろえて縒りをかけたもの、
を、
片縒糸、
という(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)。
まったく撚られていない無撚の糸は織ることはできないので、縒りをかけることになるが、
撚り、
には、
S撚り、
Z撚り、
の2つの向きがあり(「S」、「Z」はアルファベットの形からきている)、
S撚りは、逆さにしても、反対側から見ても決してZ撚りになることはありませんが、鏡に映すと、Z撚りと同じになります。こうした二つの関係は、鏡像対称性をもつ、と表現されます、
とある(https://shikenjyo.blogspot.com/2015/07/blog-post_9.html)。なお、S撚りとZ撚りは、英語でも、
s twist、z twist 、
と呼ばれる(仝上)。この、
撚りの方向による分類、
には、
右撚(S撚)、
左撚(Z撚)、
撚り数による分類、
には(撚り数の単位はT/m、糸1メートルあたり何回転したかで表す)、
甘撚 500T/m以下
中撚 500~1000T/m
強撚 1000~2500T/m
極強撚 2500T/m以上
とあり(http://www.nenshi.or.jp/about_nenshi.html)、
糸の撚り姿、
による分類では、
何本かの糸を引き揃えて片側に撚りを掛ける、
片撚り、
は、特徴として、
光沢があり綺麗。特に細い絹糸は綺麗に見えます。逆に指のささくれなどに引っかかりやすく、毛羽立ちやすいで、
とある(https://www.savageblue.com/nenshi.htm)。その他、
糸の撚り目(縄の目のような物)がはっきり見える撚り方として、
双撚り・諸撚り(もろより)、
がある。
撚り目で光沢は少し落ちますが、経糸にも緯糸にも使える万能糸で、使いやすい、
とある(仝上)。なお、
撚糸を2工程にかける(2回目の撚りを逆方向にかける)事により、糸の戻ろうとする力を抑える事ができ取り扱い易い糸になります。1回目の撚糸を下撚り、2回目の撚りを上撚りと言う、
とある(仝上)。
何本か引き揃えただけの状態のもの、
つまり、
無撚(むより・むねん)、
を、
引き揃え(ひきそろえ)、
という。
製造方法は双撚りと全く同じだが、下撚り・上撚りどちらもに1000回以上入った撚糸を、
駒撚り、
といい、通常、西陣・丹後(縮緬)では着尺の経糸に利用され(仝上)、
織物に堅さ&シャリ感を出すのが特徴で、汗をかいた際のべたつきなどが少なくなります。また摩擦などの耐久性にも非常に優れていますが、光沢は双撚りよりも落ちます、
とある(仝上)。
駒撚りよりもさらに撚りが強いものを、
特駒撚り、
といい、
ここまでくると、糸自体に縮もうとする力があります。織りあがった生地を少し縮める事ができます、
とある(仝上)。
縒る、
は、
搓る、
撚る、
とも当て(広辞苑・学研全訳古語辞典)、色葉字類抄(1177~81)には、
縒、ヨル、縒糸、
字鏡(平安後期頃)には、
搓、與留、
とあり、
ら/り/る/る/れ/れ、
の、他動詞ラ行四段活用で、
我(わ)が持てる三相(みつあひ)に搓流(よれル)糸もちて付けてましもの今そ悔しき(万葉集)、
と、
糸、または糸状のもの何本かをねじり合わせて一本にする、
意(「三相(みつあひ)」は、「三本縒り」)、
よられつる野もせの草のかげろひて涼しくくもる夕立の空(新古今和歌集)、
と、
ねじり曲げる、
意、
有る人、其の手足を縛(ヨリ)たり(法華義疏長保四年点)、
と、
縛る、
意にもなる(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)が、
ら/り/る/る/れ/れ、
と、自動詞ラ行四段活用の、
よる、
は、
縒れる、
意で、
蟬(せみ)の羽(は)のひとへに薄き夏衣(なつごろも)なればよりなむ物にやはあらぬ(古今和歌集)、
と、
しわになる、
からまる、
意になる(仝上)。この、
縒る、
の由来は、
ヨル(寄る)の義(志不可起・言元梯)、
ヨラス(寄らす)の義(名言通)、
イトロム(糸論)の反(名語記)、
横に拈(ひね)る意(国語の語根とその分類=大島正健)、
等々とあるが、普通に考えれば、
寄る、
ではないか。
寄る、
は、
凭る、
頼る、
とも当て、
事物や現象が一方向や一点にいちじるしく近づき、また集まってあらわれる意(広辞苑)、
ある物やある所、また、ある側に近づいて行く(精選版日本国語大辞典)、
物や心をひきつける方へ自然に自発的に近づいて行く意(岩波古語辞典)、
といった意で、
よる、
には、
寄、
倚、
凭、
拠、
縁、
依、
因、
由、
頼、
等々の字をあてはめるが、
依・因・由、
は、
よりどころとなる事柄に基づく(「もととなる」)、
拠・縁、
は、
気持が、そちらに引きつけられる、
根拠となる、
倚・凭、
は、
もたれかかる、
意となり(広辞苑・精選版日本国語大辞典)、ここでは、
寄る、
が近い(精選版日本国語大辞典・広辞苑)。この由来には、
ヨソ(余所)からアツマルの義か(和句解)、
などがあるがはっきりしない。
「縒」(①シ、②サ、③サク)は、
会意兼形声。「糸+音符差(シ・サ 食い違う・ぎざぎざ)」、
とある(漢字源)。なお、音は、「参搓(シンシ)」のように、布の先端がぎざぎざでそろわないさま、の意は①の音、色どりの鮮やかなさま、の意は②の音、「縒綜(サクソウ)」のように、「錯(サク)」にあてた用法の場合は、③の音、とある(仝上)。ただ、字源は、他に、
形声。声符は差(さ)。差に「參差(しんし)」の声がある。〔説文〕十三上に「參縒(しんし)なり」とあり、参差として乱れもつれることをいう。色のそろわぬさま、色とりどりの意がある。わが国では、ねじり撚(よ)る意に用いる。糸にはより糸、紙にはこよりという(字通)、
と、形声文字とするものがある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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