さいで


君こふる涙にぬるる我が袖と秋のもみぢといづれまされり(源整(ととのふ))

の、詞書(和歌や俳句の前書き)に、

紅葉と色こきさいでとを女のもとにつかはして、

とある、

さいで、

は、

裂帛、

とあて、

布や絹を裁ち切った余りの端、

の意で、

「色濃きさいで」を、血涙に濡れた袖の切れ端に見立てて贈ったのであろう、

と、注釈する(水垣久訳注『後撰和歌集』)。

さいで、

は、

裂帛、

のほか、

裂布、

とも当て(精選版日本国語大辞典)、

割出、

とも当てる(広辞苑)が、

布帛の裁片(たてはづし)(大言海)、
布帛の切れはし、小切れ(広辞苑)、
布の切れはし、小切れ(岩波古語辞典)、
絹、または布の裁(た)ちはし。裁ち余りの布帛。布きれ。たちはずし(精選版日本国語大辞典)、

と、

絹の布切れ、

の意で、だから、由来は、

「さきで」の変化した語(精選版日本国語大辞典)、
サキデ(割出)の音便形(岩波古語辞典)、
サキデの音便(広辞苑)、
サキデ(裂出・割出)の音便(名語記・答問雑稿・嬉遊笑覧)、
割出(さきで)の音便、裁ちて、餘りの出たるもの(大言海)、
サキタヘ(裂栲)の義(雅言考・名言通)、
さきたへ(裂絹)の義(言元梯)、
裂織の料とするところから(綜合日本民俗語彙)、

などとあり、色葉字類抄(1177~81)に、

割出、サイデ、布切也、、

とある。『枕草子』に、

枯れたる葵。ひひなあそびの調度。二藍(ふたあゐ 紅(くれない)と藍とを重ねて染めた青みのある紫色)、葡萄(えび)染め(エビカズラで染めた色)などのさいでの、おしへされて草子の中などにありける、見つけたる、

とあり、『屠龍工随筆』(1778)に、

幼き人の、さいで見つけて、這ひかかれると、枕草子に書けるは、絹の端切(はしきれ)のやうに聞こえたり、……然して、其名鞘塗師(さやぬし)にのみ残りて、鞘の地錆を磨きて拭ふ時を、さいでといふ、

とあり、江戸後期の『嬉遊笑覧』に、

絹にても、布にても、裁端をさいでと云ふ、今も、塗師方にて、漆を拭ふ布ぎれを、さいでと云ふなり、

とある。

さいで、

は、後に、上述のとおり、特に、

漆器の塗(ぬり)を業とする者が使う布きれ、

をいう(精選版日本国語大辞典)。

さいで、

にあてる、

裂帛、

は、

れっぱく、

と訓ませると、漢語で、

曲終收撥當心畫か(曲終り撥(ばち)を收めて、心(むね)に當てて畫(くわく)す)、
四絃一聲如裂帛(四絃一聲、裂帛の如し)(白居易・琵琶行)、

と、

帛(きぬ)を裂く、また、その音、

の意(字通)で、日本語でも、

裂帛の気合、

といった使い方をする。

「裂」.gif



「裂」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「裂」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A3%82より)

「裂」(漢音レツ、呉音レチ)は、

会意兼形声。歹(ガツ)は、関節の骨の一片。それに刀をそえて、列(レツ 骨を刀で切り離す→切り離したものがすずるずると並ぶ)となる。裂は「衣+音符列」で、布地をきりさくこと、

とある(漢字源)。同じく、

会意兼形声文字です(列+衣)。「毛髪のある頭骨の象形と刀の象形」(「首を切る」の意味)と「衣服のえりもと」の象形から「衣服を切りさく」を意味する「裂」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1566.html

と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、

形声。衣と、音符列(レツ)とから成る。切りさいた布、また、布を切りさく意を表す(角川新字源)

形声。「衣」 + 音符「列 /*RAT。「ぬのきれ」を意味する漢語{裂/*rat/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A3%82

形声。声符は列(れつ)。列は断首。ものを切断分裂する意がある。〔説文〕八上に「綸(きぬ)の餘りなり」とあって、裁(た)ち残りの裂(きれ)の意とする。布帛を截(き)ることをいい、〔左伝、昭元年〕「裳帛を裂きて之れを與ふ」とは、急いで裂き断つ意。はげしくものをさき破り、分裂することから、人の四肢を四馬に結んで四方に走らせる刑を車裂という。肉を削って次第に骨に至らしめるという凌遅(りようち)処死の刑とともに、刑の最も厳酷なるものといえよう(字通)、

と、形声文字としている。

「帛」.gif


「帛」(漢音ハク、呉音ビャク)は、

会意兼形声。「巾(ぬの)+音符白」で、白い絹布のこと、

とある(漢字源)が、他は、

形声。「巾」+音符「白 /*PAK/」。「きぬ」を意味する漢語{帛 /*braak/}を表す字https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%B8%9B

形声。声符は白(はく)。〔説文〕七下に「繒(きぬ)なり」とあり、糸部十三上に「繒(そう)は帛(きぬ)なり」と互訓する。金文の賜与に帛束・帛束璜などがみえ、のちの束帛加璧の類。金文の〔兮甲盤(けいこうばん)〕に「淮夷(わいい)は舊(もと)我が白+貝田+毎(はくほ)の臣なり」とあって、淮夷は白+貝田+毎の朝貢義務を負うものであった。白+貝はあるいは〔書、禹貢〕にこの地の貢ぎ物とする「織貝」の類であろう。古くは旗、のち書画に用い、漢代の帛書・帛画の類が出土している(字通)、

と、形声もじとしている。

参考文献;
水垣久訳注『後撰和歌集』(Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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