異(け)に
里ゆ異(け)に霜は置くらし高松の野山づかさの色づくみれば(万葉集)
の、
里ゆ異(け)に、
は、
里よりも異なった状態で、
の意で
人里とは違って、
と訳し、
野山づかさ、
は、
野山の小高い所、
の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
日に異(け)に、
で触れたように、
日(ひ)に異(け)に
の
異、
は、
ke、
の音、
け(日)、
は、
kë、
の音と(岩波古語辞典)、上代、
「け(異)」は甲類音、
「け(日)」は乙類音、
であり、
日(ひ)に日(け)に、
は、
日毎に、
毎日、
の意だが、
日に異(け)に、
の、
ケは異なっている意、
で(岩波古語辞典)、
日々に変って、
が転じて、
日増しに、
あるいは、
日がたつにつれて、
一日一日と、
また、
毎日毎日、
連日、
の意で使う(広辞苑・精選版日本国語大辞典)。
異に、
は、
名詞の異(け)に、辞(テニハ)のニの添ひたる語、
とある(大言海)が、形容動詞、
「け(異)なり」の連用形、
で、副詞的に用いる(学研全訳古語辞典)とあり、
異なり、
は、
殊なり、
とも当て(岩波古語辞典)、
なら/なり・に/なり/なる/なれ/なれ、
の、形容動詞ナリ活用で、
其の烟気(けぶり)、遠く薫(かを)る。則ち異(ケ)なりとして献る(日本書紀)、
妹が手を取石(とろし)の池の波の間ゆ鳥が音(ね)異(け)に鳴く秋過ぎぬらし(万葉集)、
と、
普通、一般とは違っているさま、
他のものとは異なっているさま、
をいって、
(普通とは)違っている、
変わっている、
意や、
秋と言へば心そ痛きうたて家爾(ケニ)花になそへて見まく欲(ほ)りかも(万葉集)、
と、
ある基準となるものと比べて、程度がはなはだしいさま、
きわだっているさま、
を言い、多く、連用形、
けに、
の形で、
特に(すぐれている)、
一段と(まさっている)、
とりわけ、
などの意で用いられる(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)。上掲の歌では、
うたてけに、
の、
ただならず、
いつもと違って、
の意を
自分でも不思議なほど奇妙 に、
と訳している(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
異なり、
は、この意味の派生で、更に、
御かたちのいみじうにほひやかに、うつくしげなるさまは、からなでしこの咲ける盛りを見んよりもけなるに(夜の寝覚)、
と、
能力、心ばえ、様子などが特にすぐれているさま、
すばらしいさま、
の意や、更に転化して、
ヲヲおとなしやけな子やな(浄瑠璃「甲賀三郎(1714頃)」)、
と、「けな」の形で用いることが多いが、
けなげであること、
殊勝であるさま、
の意でも使い、
けな人、
けな者、
という言い方もする(精選版日本国語大辞典)。
「け(異)なり」がもととなって室町時代後半ころから「けなげ(なり)」が生まれ、「けなげもの」「けなげだて」などを派生し、勢力を拡大していく過程で、「けなもの」の語義のうち、「特にすぐれている者」「けなげな者」といった意味を吸収していったと考えられる。その結果、「けなもの」は、「温和な者」「柔弱な者」の語義に限定されていき、さらに「怠け者」の語義を派生するまでになったものか。ただし、この変化は併存期の長いゆるやかなものであった、
とある(仝上)。
異なり、
の語幹、
異(け)、
は、
日に異(け)に、
でも触れたように、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
異、コトニ・コトナリ・ケニ、
とあり、
奇(く)し、異(け)しの語根(大言海)、
「怪」の音転(和訓集説)、
カ(気)の変化した語(国語溯原=大矢徹)、
斎・浄に相反する概念を示す語で、ケガレ(穢)の原語。凶異の意にも転用された(日本古語大辞典=松岡静雄)、
などとあるが、
奇(く)し、異(け)しの語根、
というのが意味的にも妥当な気がする。
け(異)、
は、
衣手(ころもで)葦毛(あしげ)の馬のいばゆ声心あれかも常ゆ異(け)に鳴く(万葉集)、
と、
普通、一般とは違っているさま、
いつもと変わっている、
他のものとは異なっているさま、
の意の状態表現から、それをプラスに意味づけて、価値表現に転じ、
十月(かんなづき)ばかりの紅葉、四方よもの山辺よりも異にいみじくおもしろく(更級日記)、
と、
ある基準となるものと比べて、程度がはなはだしいさま、
きわだっているさま、
の意で、多く、上述したように、連用形「けに」の形で、
特に、一段と、とりわけ、
などの意で用いられる(精選版日本国語大辞典)。
「異」(イ)の異字体は、
㔴、异(簡体字)、潩、熼、霬、𠔱、𢄖、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%95%B0)。字源は、「日に異(け)に」で触れたように、
会意文字。「おおきなざる、または頭+両手を出したからだ」で、一本の手のほか、もう一本の別の手をそえて物をもつさま。同一ではなく、別にもう一つとの意、
とある(漢字源)。他は、
会意兼形声文字です(羽(羽)+異)。「鳥の両翼」の象形と「人が鬼払いにかぶる面をつけて両手をあげている」象形(「敬い助ける」の意味)から、「両翼・つばさ」を意味する「翼」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1455.html)、
と、会意兼形声もじながら、「面」と解し、同趣しながら、他は、
象形文字。鬼の面をかぶって両手を挙げた形(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E7%95%B0)、
象形。人が大きな仮面をかぶって立っているさまにかたどる。神に扮(ふん)する人、ひいて、常人と「ことなる」、また、「あやしい」意を表す(角川新字源)。
象形。〔説文〕三上に「分つなり」と分異の意とし、字を畀(ひ)(与える)+廾(きよう)(両手)の会意とする。卜文・金文の字形によると、鬼頭のものが両手をあげている形。畏はその側身形。神異のものを示す(字通)、
と、象形文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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