桂楫(かつらかぢ)
天(あま)の海に月の舟浮(う)け桂楫(かつらかぢ)懸(か)けて漕ぐ見ゆ月人壮士(つきひとをとこ)(万葉集)
の、
桂楫、
は、
桂でつくった楫、
の意で、
月に桂の木があるという伝説による、
とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
月人壮士(つきひとをとこ)、
は、
月読、
で触れたように、
天橋(あまはし)も長くもがも高山(たかやま)も高くもがも月夜見(つくよみ)の持てる変若水(をちみづ)い取り来て(万葉集)、
と、
天つ月を保ち知らしめす神の御名、
として(大言海)、
月の神、
の意、さらに、
月、
の別称として使う(大言海・広辞苑・精選版日本国語大辞典)。また、月を、
男神、
と見た呼名として、
つきひとをとこ(月人壮士)、
ともいい(大言海)、さらに、
月を擬人化、
して、
月夜見男(つくよみおとこ)、
ともいい、
天にいます月読壮士(つくよみをとこ)賄(まひ)はせむ今夜(こよひ)の長さ五百夜(いほよ)継ぎこそ(湯原王)、
と、
月の桂、
で触れた、
桂男(かつらおとこ・かつらを)、
につながる(仝上)。
桂男、
は、
桂を折る、
で触れたように、
桂男(かつらおとこ・かつらを)、
といい、「酉陽雑俎‐天咫」(唐末860年頃)に、中国の古くからの言い伝えとして、
月の中に高さ五〇〇丈(1500メートル)の桂があり、その下で仙道を学んだ呉剛という男が、罪をおかした罰としていつも斧をふるって切り付けているが、切るそばからその切り口がふさがる、
という伝説がある(精選版日本国語大辞典)。
呉剛伐桂、
といい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%82%E7%94%B7)、伝説には、ひとつには、炎帝の怒りを買って月に配流された呉剛が不死の樹「月桂」を伐採するという説と、いまひとつは、
舊言月中有桂、有蟾蜍、故異書言月桂高五百丈、下有一人常斫之、樹創隨合。人姓吳名剛、西河人、學仙有過、謫令伐樹(酉陽雑俎)、
と、仙術を学んでいたが過ち犯し配流された呉剛が樹を切らされているという説とがある(仝上)、という。
ために、「月の桂」には、
月の異称、
とされ、略して、
かつら、
ともいい、月の影を、
かつらの影、
といったり、三日月を、
かつらのまゆ、
などという(大言海)。また「桂男」は、
桂の人、
などともいい、
かつらおとこも、同じ心にあはれとや見奉るらん(狭衣物語)、
と、盛んに使われる。
ただ、万葉集の「七夕」歌群にある、この歌では、
月人壮子、
を、
織女のもとへ通う牽牛を月の船に乗せて天の川を渡る渡し守の姿、
と見る、
七夕伝説の中に生み出された日本固有の物語、
とする見方がある(https://jmapps.ne.jp/kokugakuin/det.html?data_id=32155)。確かに、そうみた方が、この歌に限っては正鵠を射ている気がする。
桂楫、
を、上述のように、
桂でつくった楫、
としている(伊藤博訳注『新版万葉集』)が、万葉仮名では、
天海月船浮桂梶懸而滂所見月人壮子、
と、
桂梶、
とあるのを、多くは、
「桂楫(かつらかぢ)」の「かじ」は、櫂(かい)の意で、月の世界にあるという桂の木で作った船の櫂(精選版日本国語大辞典)、
月にあるという桂の木で作った櫂(かい)(デジタル大辞泉)、
月世界の桂の木で作ったかじ(広辞苑)、
月の中の桂の木があるという中国伝説による、桂の木で作った櫓(ろ)(岩波古語辞典)、
桂の木で作った櫂(かい)。桂は月に縁のある木とされ、月世界の神秘性を強調(Copilot)、
等々、
楫(かぢ)、
を、
櫂(かい)、
櫓(ろ)、
とみなしている。後述するように、中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎)に、
舟の櫂(かぢ)なり、
とあり、
船を進むる所以なり、
とあるので、
棒の先端を翼状に削ったもので、舷にかけて水を掻いて船を進める、
櫂、
になる。漢詩に、
桂楫中流望
空波兩畔明(丁仙芝「渡揚子江」)、
とあり、
桂楫(けいしゅう)、
は、
桂(かつら)の木で作った櫂(かい)、
転じて、
美しい櫂、
の意で使う(精選版日本国語大辞典・https://kanbun.info/syubu/toushisen108.html)。ここでの、
楫、
は、
櫂、
でないと、冒頭の、
桂楫(かつらかぢ)懸(か)けて漕ぐ、
が通じない。
しじ貫く、
で触れた、
しじ貫く、
は、万葉仮名で、
真梶之自奴伎(シジヌキ)、
と、
真楫(まかぢ)しじ貫き、
の形で用いられ、
左右の楫を舷側から、ぎっしり突き出す、
意である(広辞苑)。この場合も、
櫂、
でないと意味が通じない。類聚名義抄(11~12世紀)には、
楫、カヂ、檝、カヂ・サヲ、/檝師、カヂトリ 〔篇立〕楫、カヂ・カイ
とある。
楫、
をあてるものには、
布勢の水海(みづうみ)に海人舟(あまぶね)にま楫掻い貫き白栲の袖振り返し率(あども)ひて我が漕ぎ行けば(万葉集)、
と、
真楫(まかぢ)、
があるが、マは接頭語で(岩波古語辞典)、
舟の左右にそろった艪(ろ)、
いい、
一説に、艪の美称、
ともある(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)が、
真神、
片待つ、
で触れたように、
真、
は、
片、
の対で、
二つ揃っていて完全である、
意を表し、
マは、全手(まて)、両下(まや)のマと同趣、
で、
舟の櫂の左右備わりたるもの、
の意である。
櫓、
は、
つくめ、
で触れたように、
艪、
艣、
とも当て、和名類聚抄(931~38年)に、
艫、郎古反、與魯同、所以進船也、
とあるように、
船を漕ぎ進める道具の一つ、
で、
奈良時代に中国から導入され、それまでの櫂(かい)に代わって広く普及した。櫓杭(ろぐい)を支点として、押す時も引く時も推進力を生じる方式は、流体力学的にも効率がよく、船の推進具として櫂よりすぐれる。櫓羽には樫の木、櫓腕には椎の木を用いる、
とある(精選版日本国語大辞典)。『大言海』は、
後の艣(ろ)にて、艫(とも)、又は、船の傍にあり、一丈許りの長き樫の材にて作る。中程に穴あり、艪臍(ろべそ)に嵌めて、上端を艪縄(ろなは)にて舟底に繋ぎ、押せば、下端にて水を撥し舟を進む。其唐風にて上品なるを、唐艪(からろ)と云ふ、
と記している。櫓の構造は、
原則的に船の後部左舷(さげん)に固定した突起物(櫓杭 ろぐい)を、櫓の側にあるその受け入れ凹部(入子 いれこ)に差し込んで櫓の支点とする。この入子から下部を櫓下(ろした)または櫓べらといい、水中にあって水を切り推進役を担当する。入子から上部が用材を継ぎ足した形となる。この接合部を鉸(つがい)または違(たがえ)といい、ここから上部を櫓腕(ろうで)という。その先端部近くに綱(早緒 はやお)によって船体とつなぐための突起(櫓杆 ろづく)または櫓柄(ろづか))があり、漕(こ)ぐために手で握る場所にもなる、
とあり(日本大百科全書)、
櫓脚(ろあし 櫓をこぐとき櫓の水の中につかる部分)、
と
櫓腕(ろうで 近世以来主用された継櫓の柄の部分)、
からなり、
櫓脚、
には、
入子(いれこ)が、櫓腕には櫓柄(ろづか)がついている。舟側につけた櫓べそに入子をはめ、ここを支点にして櫓を操る。こぎ手は横向きになり櫓腕を前後に動かすが、このとき押すときと引くときで手首をかえし、水の中の櫓脚の角度を右上方に示すようにすると、飛行機の翼と同じ原理で揚力が発生し、その方向は押すときも引くときも前下方へ向く。この揚力の前方への成分が舟の推進力となる。下向きの成分は櫓べそで受ける、
とあり、
櫓腕、
には、
上向きの力がかかるので、櫓柄を綱で舟の床につなぎ、こぎやすいようにしている。櫓脚が水中へ入る角度をあまり小さくすると下向きの力ばかり大きくなり、また角度をあまり大きくすると重くなってこぎにくい。うまく操ることによって旋回することもできる。櫓の長さは、腕が1.5~2.1m、脚が4.2~5.5mで幅は13~15cmである、
となっている(世界大百科事典)。
櫓、
は、
もともと櫂(かい)を練って前進力を得る練り櫂から変化・発達したもの、
で、
原理的にはスクリュープロペラと同様で、推進効率がよい。初期(平安時代)は1本の木材でつくった棹櫓(さおろ)であったが、江戸時代初期ごろから櫓腕(ろうで 継櫓の柄の部分)と櫓羽(ろば 櫓の下半部の推進力を生ずる部分)をツガイによってつなぎ、「へ」の字に曲げた形の継櫓(つぎろ)または屈櫓(こごみろ)に変わり、漕ぎやすくなった、
とある(日本大百科全書)。で、上述の、
桂楫、
に、
櫓、
としていたのも、理由がある。だから、
麻久良我(まくらが)の許我(こが)の渡りの可良加治(カラカヂ)の音高しもな寝なへ子ゆゑに(万葉集)、
の、
からかぢ、
は、
唐楫、
韓楫、
とあて、
唐風の櫂(かい)か、あるいは櫓(ろ)か、
とある(精選版日本国語大辞典)のにも、意味がある。
さよふけて堀江漕ぐなる松浦船かち音高しみをはやみかも(続古今和歌)、
の、
楫音(かぢおと)、
は、
かじのと、
ともいうが、
櫂(かい)や櫓(ろ)などを使って船をこぐ時に生ずる音、
になる(精選版日本国語大辞典)。
玉の緒の現し心(うつしごころ)や八十楫(やそか)懸け漕ぎ出む船に後(おく)れて居(を)らむ(万葉集)、
の、
八十楫(やそか)、
も、
多くの楫、
の意(精選版日本国語大辞典)だが、
櫂、
の意になる。
楫、
は、
梶、
檝、
とも当て、和名類聚抄(931~38年)に、
檝、使船捷疾也、加遅、
とあるが、その由来は、
音を名とするか(大言海)
カケチガヘ(掛差)の略、斜めに船尾にかるから(名言通)、
形が梶に似ているから(桑家漢語抄)、
カはカユル、カヨフの意。チは波路のチ(和句解)、
カチ(風道)の義(言元梯)、
カは櫂の古語、チはト(物)の転呼。船の方向を操作するための舵の意に専用され、船尾で使用するので梶と書くようになった(日本古語大辞典=松岡静雄)、
等々、諸説あるが、上述した、
八十楫(やそか)、
というように、
カ(楫)、
は、
楫子、
楫取、
など、複合語の中だけで見える、
楫(かぢ)の古名、
であり(岩波古語辞典)、単音から見ると、
擬音語、
ということはあり得る気がする。この、
楫、
は、
古へ、船を漕ぐに用ゐたる具。製、詳らかならざれど、漕ぐに音を立つる由なれば、櫂の如くにて、大きく、中程に穴ありて、舟端にある突出(つく)にはめ、柄(から)を握み、端にて水を掻きて、舟を進ましめるものにて、尖出(つく)に軋りて、音の立つならむ、後の櫓に似たるものか、両舷に、數挺立てて漕ぎたり、
とある(大言海)のが妥当なのだろう。なお、
つく、
については、
つくめ、
でふれたように、
付目、
とあて、
語義未詳、
とあるが、
梶を舷に結びつける突起した部分の名か(精選版日本国語大辞典)、
舟の櫓(ろ)の手元の端にある櫓杵(ろづく)という突起部分です。これに、早緒(はやお)と呼ばれる綱を結びつけます(https://art-tags.net/manyo/eight/m1546.html)、
舟の櫓(ろ)の、櫓綱をかけるための突起か(広辞苑)、
舟の櫓の腕に櫓綱をかけるための突起物(岩波古語辞典)、
等々と推定されている。この、
楫、
が、
櫓、
と変じたる後、其名の、舵(たぎし)に移りたるにもあるか、梶の字をも用ゐるは、船尾木の合字なり、「梶(ビ)、木杪(こずゑ)也」の義にあらず、此字、構(かぢのき)にも借字として用ゐらる、
とあり、
櫂、
櫓、
の意から、
船の進行方向を定める装置、
である、
舵、
の意に転じている。
舵、
は、その由来を、
カ(櫂)+ヂ(方向)、船の方向を決める装置(日本語源広辞典)、
カはカイ(櫂)のカ、チは方向の意か(国語の語根とその分類=大島正健)、
とする説があるように、
船の艫(とも)に着けて、水に入れ、柄(つか)を取りて、左右へ動かし、面舵(おもかじ)、取舵(とりかじ)して、舳(へさき)の方向(むき)を定むる具、
で、古名は、
たぎし、
たいし、
などという。雅言考(1849頃)に、
「たぎし」は、「船のかじの古名たぎし……今世に云船のかぢの事也、
とある。和名類聚抄(931~38年)には、
舵、漢語抄に云ふ、柁、船尾なり。和語に云ふ、太以之(たいし)、今按ずるに、舟人挾杪を呼んで䑨師と爲す、是れなり、
とあり、江戸後期の辞書『箋注和名抄』は、
太以之(たいし)は卽ち當藝斯(たぎし)の轉なり。今俗に加遲(かぢ)と呼ぶもの是れなり、
と注記している。
則ち大なる風順吹(なひかせにふ)き、帆(ほ)舶(つむ)波の随(まにま)に櫨(カイ)楫(かち)を労(ねきら)はず便(すなは)ち新羅に到りたまふ(日本書紀)、
の、
櫂、
は、和名類聚抄(931~38年)に、
在旁撥水曰櫂、加伊、
新撰字鏡(平安前期)に、
木の枝柯の櫂長にして殺するを謂ふなり。加伊(かい)サヲ・トドム・ウツ・カイ・カヂ
字鏡(平安後期頃)に、
櫂、船乃加伊、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
櫂、サヲ・サヲキ、
とあり、その由来は、
掻きの音便、水を掻き意ならむ(大言海)、
「か(掻)き」の音変化(デジタル大辞泉・岩波古語辞典・和句解・和訓栞・国語の語根とその分類=大島正健)、
と、ほぼ「掻く」という行為からきているが、上述したように、
細長き材の端を平たくしたるを、舷(ふなばた)の縄にかけ、本を握り、端にて水を掻き、舟を行(や)るもの。古へに云へる加伊も、其製、今の物と異ならざるべし、
といい(大言海)、
普通、樫(かし)の木で作り、上半部を丸く、下半部を扁平に削り出し、頂部にツクという短い横棒をつける。一般に櫓(ろ)が海船用なのに対して川船や伝馬船に主用される。なお、船尾側面に設ける舵(かじ)用の大型の櫂(かい)を特に練櫂(ねりがい)と呼ぶ、
とある(精選版日本国語大辞典)。この、
櫂、
の、
カイ、
の音については、
奈良時代の語で、このようにイ音便となっている語は極めては少ない、
とあり(岩波古語辞典)、
古代語の中で、語中語尾に母音が位置する単純語では唯一の例である、
とある(精選版日本国語大辞典・日本語源大辞典)。これについては諸説あって、
①「掻く」の連用形のイ音便、と解する説が有力であるが、音便としては時代的に早すぎ、また、語と語の融合を示す音便のさきがけが名詞の語末であるというのは考えにくい、といった問題がある、
とされ、ほかに、
②被覆形「カ」に語的独立のための接尾語〔i〕のついた露出形、
という説もあるが、なぜ母音融合を起こさなかったのかという疑問が残るとし、
③ヤ行上二段動詞の連用形、という想定は「カユ」の語が文献上確認できない、
④「楷+戈」の字音、という説も、稀字に属する「楷+戈」字が日本語に採り入れられたことになり疑わしい。「楷+戈」字は、中世以降は「械」に取ってかわられるところから、むしろ「カイ」という語に当てるために形声によって造られた字と考えるべきであろう、
としている(仝上)。この、
櫂、
の変化した、
ろといふもの押して、歌をいみじう謡ひたるは、いとをかしう(枕草子)、
とある、
櫓、
は、
艪、
艣、
とも当て、和名類聚抄(931~38年)に、
艣、郎古反、與魯同、所以進船也、
とあり、上述したとおりだが、
古への舟の檝(かぢ)に、大小の別あるものにや、詳らかにならず、字音にて云ふなれば、後のものなるべし、
とした(大言海)上で、
後の艣にて、艫(とも)、又は、船の傍にあり、一丈許りの長き樫の材にて作る。中程に穴あり、艪臍(ろべそ)に嵌めて、上端を艪縄(ろなは)にて舟底に繋ぎ、押せば、下端にて水を撥し舟を進む。其唐風にて上品なるを、唐艪(からろ)と云ふ、
としている。なお、
櫓、
は、和名類聚抄(931~38年)に、
櫓、夜具良(やぐら)、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
櫓、ヤグラ・コシキ・カシ、
とあるように、
やぐら、
とも訓ませるが、
やぐら、
については触れた。
「櫂」(①漢音トウ・呉音ジョウ、②漢音ダク・呉音タク)は、
舟を漕ぐ「かい」の意、「櫂舟」(トウシュウ)、「孤櫂」(コトウ)などの場合、①の音、たかくまっすぐ伸びている木の枝、こずえ、の意の場合②の音となる。字源は、
会意兼形声。「木+音符翟(テキ・タク・トウ 高く抜け出す)」で、水面からさっと抜き上げる舟のかいのこと、
とある(漢字源)。同じく、
会意兼形声文字です(木+翟)。「大地を覆う木」の象形と「鳥の両翼の象形と小鳥の象形」(「高く踊り上がる」の意味)から「船を進める為の木の棒、さお」を意味する「櫂」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2536.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、
形声。「木」+音符「翟 /*LEWK/」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%AB%82)、
形声。木と、音符翟(テキ、タク)→(タウ)とから成る(角川新字源)、
形声。声符は翟(てき)。翟に嬥(どう)・濯(たく)の声がある。棹と声義同じ。〔説文新附〕六上に「船を進むる所以(ゆゑん)なり」、また〔釈名、釈船〕に「旁(かたは)らに在りて水を撥(は)ぬるを櫂と曰ふ」とみえる(字通)、
と、形声文字とする。
「楫」(漢音呉音ショウ、漢音シュウ・呉音ジュウ)の異体字は、、
檝、
艥、
とある(漢字源・https://kanji.jitenon.jp/kanjiy/12144)。字源は、
会意兼形声。「木+音符咠(シュウ よせあつめる)」で、水を掻き寄せる櫂、
とある(漢字源)。他は、
形声。声符は咠(しゆう)。咠に数しげくうごくものの意がある。〔説文〕六上に「舟の櫂(かぢ)なり」とあり、櫂(とう)は〔説文新附〕六上に「船を進むる所以(ゆゑん)なり」という。長くしなるようなものを櫂、短く数しげく動かして榜(こ)ぐものを楫という(字通)、
と、形声文字としている。
「梶」(漢音ビ、呉音ミ)は、
会意兼形声。「木+音符尾(細い尻毛)」で、細い木のこずえ、
とあるが、他は、
形声。木と、音符尾(ビ)とから成る(角川新字源)
形声。声符は尾(び)。〔類篇〕に「木杪(もくべう)なり」とあって、梢(こずえ)の義。わが国では舟のかじ、船尾の方向舵、また「かじの木」の意に用いる。字をその本義において用いることはほとんどない(字通)、
とある。
「舵」(漢音ダ、呉音タ)は、
会意兼形声。「舟+音符它(タ 横に伸びる、横に引く)」。舵darは、拽diadの語尾が転じたものであり、横に引っ張る舟のかじ、
とある(漢字源)。同じく、
会意兼形声文字です(舟+它)。「渡し舟」の象形(「舟」の意味)と「身をくねらせ尾を垂れるへび」の象形(「へび、まむし」の意味)から、へびの尾のように自由に動いて方向を定める「舟のかじ」を意味する「舵」という
漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji2162.html)、
と、会意兼形声もじとするものもあるが、他は、
形声。「舟」+音符「它 /*LAJ/」(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%88%B5)、
形声。舟と、音符它(タ)とから成る(角川新字源)、
形声。声符は它(だ)。字はまた柁に作る。它は蛇。左行右行して進むものである。舵は方向舵をいう(字通)、
と、形声文字とする。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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