天(あま)飛ぶや雁(かり)の翼(つばさ)の覆(おほ)ひ羽(ば)のいづくに漏りてか霜の降りけむ(万葉集)
の、
覆(おほ)ひ羽(ば)、
は、
空を覆うように両翼をひろげたさま、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
多くの雁などが翼を広げておおう、その翼(広辞苑)、
覆うように広げられている羽。雁が群れをなして翼を広げるさまなどにいう(岩波古語辞典)、
などとあり、一説に、
翼の部分の名、
ともある(広辞苑)。逆に、
鳥の翼の部分の名。雨覆(あまおおい)の称、
として、一説に、
物を覆うように鳥が広げた羽、
の意としているものもある(精選版日本国語大辞典)が、ここでは、歌意からみれば、
雁が群れをなして翼を広げるさま、
を指しているとみていいので、
鳥が広げた羽、
の状態をさしているとみていいようである。この歌の訳例を拾ってみると、
空を飛ぶ雁のつばさたる天の覆羽(https://manyo-hyakka.pref.nara.jp/db/detailLink?cls=db_manyo&pkey=2238)、
大空を飛ぶ雁の大群。空を覆う羽根(https://manyoshu-japan.com/11340/)、
大空を飛ぶ雁が羽根を連ねて空を覆うあの翼(https://sakuramitih31.blog.fc2.com/blog-entry-5343.html)、
空を飛ぶ雁(かり)の翼(つばさ)の空を覆う羽根(https://art-tags.net/manyo/ten/m2238.html)、
「覆ひ羽」は翼の上部を覆う羽根。雁の羽根が空を覆っているような比喩(Copilot)、
等々、ほぼ、
天の覆羽、
と見立てている。
鳥の翼の部位、
を言う、
雨覆(あまおおい)、
あるいは、
雨覆羽(あまおおいばね)、
は、
翼の前面を数列に並んで覆っている羽毛。雨覆ともいう。風切羽の基部を覆い、前方からの空気の流れをなめらかにしている。後列のものは大きく、大雨覆と呼んで区別するほか、上面のものを上雨覆、下面のものを下雨覆、前面を前縁雨覆などという(ブリタニカ国際大百科事典)、
翼の前方、風切羽の上の方に生えている短い羽です。風切羽は一枚一枚が区別できますが、雨覆羽は短い羽の集合で滑らかに見えます。この羽の役割はいくつかあると考えられていますが、飛翔の推進力となる風切羽を守る役割があると考えられています。「初列雨覆」「大雨覆」「中雨覆」「小雨覆」に分けられます(https://orbis-pictus.jp/blog/bird-feather.php)、
等々とあり、
初列雨覆(しょれつあまおおい)、
は、
初列風切の上の方を覆うように生えています。部位の分かれ目は風切羽と同じように、翼の中央付近の折れ目に対応しています(仝上)。
大雨覆・中雨覆・小雨覆、
は、
次列風切を覆うように順番に生えています。大雨覆が次列風切の上に、中雨覆が大雨覆と初列雨覆の上に、小雨覆が中雨覆の上に来ています、
とある(仝上)。
(翼上面の部位の名称。1.初列風切、2.初列雨覆、3.小翼羽、4.次列風切、5.(次列)大雨覆、6.(次列)中雨覆、7.(次列)小雨覆、8.三列風切、9.肩羽 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E9%A1%9E%E7%94%A8%E8%AA%9E)
(翼下面の部位の名称 1. 腋2. 下前縁雨覆3. 下小雨覆 4. 下中雨覆5. 下大雨覆6. 翼角関節7. 下初列小雨覆 8. 下初列大雨覆9. 次列風切 10. 初列風切 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B3%A5%E9%A1%9E%E7%94%A8%E8%AA%9Eより)
(「覆」 簡牘(かんどく)文字(「簡」は竹の札、「牘」は木の札に書いた)・戦国時代 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A6%86より)
(「覆」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A6%86より)
「覆」(①漢音呉音フク、②慣用フク・漢音フウ・呉音フ、③慣用フク・漢音フウ・呉音ブ)は、
「転覆」「覆轍」「手を覆す」などくつがえる、「反復」「覆試(再試験)」などの、かえす意、「覆滅」などの、ひっくりかえる、滅びる、などの意の場合①の音、「覆蔵」のかぶせる、意の場合は②の音、「三覆(サンプウ・サンプク)」(三隊の伏兵)のおおう、意の場合は③の音となる(漢字源)。字源は、
会意兼形声。復の右側は、包みかぶさって二重になるような具合に歩く、つまり復(もとにもどる、うらがえし)のこと。のち彳を加えた。覆は「襾(かぶせる)+音符復」で、かぶさってふせる、おおうの意、
とある(仝上)。同じく、
会意兼形声文字です(襾+復)。「うつわのふた」の象形と「十字路の左半分の象形(「道を行く」の意味)とふっくらした酒ツボの象形と下向きの足の象形(「ひっくり返った酒ツボを元に戻す」の意味)」(「もとの道を帰る、ひっくり返す」の意味)から、「ふたをひっくり返す」、「おおう」を意味する「覆」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji1758.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、
形声。襾と、音符復(フク→フウ)とから成る。おおいつつむ意を表す。借りて「くつがえす」意に用いる(角川新字源)
形声。「襾」+音符「復 /*PUK/」。「襾」の由来は明らかではないが、一説に「山」を上下覆した形に由来する[字源 1]。「くつがえす」を意味する漢語{覆 /*ph(r)uk/}を表す字。楷書では「賈」の上部と同じ部品を共有しているが、字形変化の結果同じ形に収束したに過ぎず、起源は異なる(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E8%A6%86)、
形声。声符は復(ふく)。復に反復の意がある。〔説文〕七下に「覂(くつがへ)るなり」とあり、覂(ほう)字条に「反覆するなり」という。〔説文〕は覆・覂を同義とするものであるが、覂は乏に従い、乏は変死者、水死者を泛という。その屍(しかばね)を土で覆うことを覂という。覆は蓋う意にも用い、上より覆う意。反覆・転覆・被覆・覆育のように用いる。また〔爾雅、釈詁〕に「審なり」、〔広雅、釈言〕に「索(もと)むるなり」とあり、覆視求索の意に用いる。〔左伝、定四年〕「其の載書(盟書)、~蔵して周府に在り。覆視すべきなり」とは、何度もうちかえしてしらべる意である(字通)、
と、形声文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
新村出編『広辞苑(第7版)』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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