したふ


秋山のしたひが下(した)に鳴く鳥の声だに聞かば何か嘆かむ(万葉集)

の、

したひ、

は、

紅く色づく意の動詞「したふ」の名詞形、

とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、

声だに、

は、

あの方の声だけでも、

の意で、

(もみぢの陰で鳴く鳥の声)その鳥の声ではないが、せめてあの方の声だけでも聞くことができたら、

と訳す(仝上)。

いろづく(紅葉).jpg


したふ、

は、

上代語、「した」は赤の意(広辞苑)、
(「したぶ」として)上二段活用、葉、萎ぶの意にて、やがて紅葉(もみづ)するを云ふ(大言海)
「したふ」のフは上代特殊仮名遣いではfuで四段活用、シタブと訓んで上二段活用とするのは誤り(岩波古語辞典)、
「した」は「したてる」「しなう」などの「した・しな」と同源か(精選版日本国語大辞典)、

とあり、

は/ひ/ふ/ふ/へ/へ、

の、自動詞ハ行四段活用で、

木の葉が赤く色づく、
葉が美しく色づく、
紅葉する、

意である。

春の園(その)紅(くれなゐ)にほふ桃の花下照(したでる)道に出で立つ娘子(をとめ)(万葉集)、

とある、

したてる、

は、

下照る、

とあて、古くは、

したでる、

と訓ませ(広辞苑)、

ら/り/る/る/れ/れ、

の、自動詞ラ行四段活用

で(学研全訳古語辞典)、

木の下などが照り輝く、一説に「したふ」の「した」と解し、花の色などが赤く美しく照る(広辞苑)、
花の美しい色でその下が照り映える(学研全訳古語辞典)、
花の色でその下のあたりが美しく照りはえる。赤く照る(精選版日本国語大辞典)、
下に照る、一説、シタはシタフと同根で、赤く照る(岩波古語辞典)、
下葉(したば)、赤く照る(大言海)、

等々、ニュアンスの差はあるが、文字通りには、

下に照る、
下が照る、

だが、

花の色でその下のあたりが赤く美しく照りはえる、

意になる。

耳に聞き目に見るごとにうち嘆き萎(しな)えうらぶれ偲(しのひ)つつ争ふはしに(万葉集)、
君に恋ひ萎(しな)えうらぶれ我(あ)が居(を)れば秋風吹きて月傾きぬ(仝上)、

の、

萎(しな)ゆ、

は、

え/え/ゆ/ゆる/ゆれ/えよ、

の、自動詞ヤ行下二段活用で(学研全訳古語辞典)、

生気を失ってうちしおれる、
元気を失う、
しぼむ、

意となる(仝上・岩波古語辞典)。

したてる、

の、

した、

と、

しなゆ、

の、

しな、

では、

色づき→萎びる、

という意味をつなげられなくもないか、よくわからない。

冒頭の歌の、

しなひ、

は、

「したふ」の連用形、

の名詞化、

木の葉が赤く色づくこと、また、その色の紅葉(広辞苑)、
もみじなどが赤く色づくこと。紅葉の照りかがやくこと。また、そのもみじ(精選版日本国語大辞典)、

の意となる。後世、

したび、

ともいう(精選版日本国語大辞典)。

なお、似た語に、

秋されば置く露霜(つゆしも)にあへずして都の山は伊呂豆伎(イロヅキ)ぬらし(万葉集)、

いろづく、

は、

いろつく、

ともいい、

色づく、
色付く、

とも当て(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)、文字通りには、

色がつく、
変色する、

意だが(精選版日本国語大辞典)、

葉や花や実が秋色・春色を帯びる、

意だが、古くは、

モミジに言うことが多い(岩波古語辞典)とある。なお、

かえでの、

かへるて

もみづ(もみち)、

の、

もみち

については触れた。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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