なまし


秋萩の上(うへ)に置きたる白露の消(け)かもしなまし恋ひつつあらずは(万葉集)
秋の穂をしのに押しなべ置く霜の消(け)かもしなまし恋ひつつあらずは(仝上)

の、

消(け)かもしなまし、

の、

かも、

は、

疑問、

し、

は、

サ変動詞「す」の連用形、

で、

消え失せてでもしてしまう方がましなのではないか、

と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。なお、

秋の穂、

は、

秋の稲穂、

である(仝上)。

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なまし、

は、

完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「まし」がついた語(広辞苑・岩波古語辞典)、
助動詞の過去の意を云ふヌの変化のナと、推量の意を云ふマシと接続した語(大言海)、
完了の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「まし」(デジタル大辞泉)、
完了の助動詞「ぬ」の未然形に推量の助動詞「まし」の付いたもの(精選版日本国語大辞典)、

とあり、

伎倍人(きへひと)のまだら衾(ぶすま)に綿(わた)さはだ入り奈麻之(ナマシ)もの妹が小床(をどこ)に(万葉集)、

と、実現・実行しなかったことを残念に思う気持を表わし、

……すればよかったろう、

の意、

遠妻(とおづま)し高にありせば知らずとも手綱(たづな)の浜の尋ね来(き)名益(ナまし)(万葉集)、

と、現実には反するが、条件によっては実現の可能性のあることを想像して表わし、

……のだったら……することだったろう、
……してくれたらよかったのに、

の意、

白玉かなにぞと人の問ひし時露と答へて消えなましものを(伊勢物語)、

と、多く上の仮定表現を受けて、

きっと…していただろう(に)、
……してしまっていたらよかった(のに)、

の意、

立ち添ひて消えやしなまし憂きことを思ひ乱るる煙くらべに(源氏物語)、

と、助詞「や」と相伴って、判断の逡巡を示し、

……するだろうか、どうだろうか、

の意、

世の中の憂(う)けくに飽(あき)ぬ奥山の木の葉に降れるゆきやけなまし(古今和歌集)〈

と、多く疑問の語を受けて、決断に迷いながらも未来を考える気持を表わし、

……してしまおうか、
……するのがいいのではあるまいか、
いっそのこと……しようか、

の意、

けふ来ずはあすは雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや(古今和歌集)、

と、未来への確定的な予想、または意志を表わし、

きっ……だろう、
……てしまうかもしれない、

の意等々と使う。

かも、

は、

ものかも

で触れたように、種々の使い方があり、

係助詞「か」に係助詞「も」が付いて一語化したもの、体言や活用語の連体形などに付く。…か(なあ)。…なのか(学研全訳古語辞典)、
係助詞「か」+係助詞「も」。上代語、種々の語に付く(「かも」がかかる文末の活用語は連体形をとる)。感動を込めた疑問の意を表す。…かなあ。中古以降、おおむね「かな」に代わる(デジタル大辞泉)、
係助詞の「か」と「も」が重なったもの。体言、用言の連体形(まれにシク活用形容詞の終止形)を受け、詠嘆を含んだ疑問を表わしたり、詠嘆を表わす(精選版日本国語大辞典)、
詠嘆の「か」とも」の複合したもの、感動をあらわし、……ことだ。平安以降は「かな」が一般的になった(広辞苑)。
「か」の下に「も」を添えた助詞。体言または活用語の連体形を承ける。「も」は不確実な提示、あるいは不確実な判断を表すのがその本質的な意味であるから、「かも」となった場合も、単独の「か」の持つ疑問の意を受けつぐ。ただし詠嘆の意を表す場合は、「かも」は「か」単独の場合よりもやわらげた表現のように見える(岩波古語辞典)、

などとあるが、

浦みより漕ぎ來(こ)し船を風早み沖つみ浦に宿りするかも(万葉集)、

では、

(遠い沖合の)こんな恐ろしい裏で旅宿りをするというのか、われらは、

と訳し(伊藤博訳注『新版万葉集』)、詠嘆を含んだ疑問を表わし、

霞立つ長き春日をかざせれどいやなつかしき梅の花かも(万葉集)、

では、

(髪に挿しているけれど)ますます離しがたい気持ちだ、この梅の花は、

と訳し(仝上)、詠嘆を表わす。

かも、

の、

か、

は、

疑問詞を承ける係助詞のひとつ、

で(岩波古語辞典)、種々の語に付く(デジタル大辞泉)が、

表現者自身の判断を下すことが不能であること、疑問であることを表明するのが原義、

とあり(岩波古語辞典)、

「か」は体言または活用語の連体形を承ける。(中略)疑問はその意味をやわらげれば慨嘆になる、

ともあり(仝上)、

苦しくも降り來る雨か三輪の崎挟野(さの)の渡りに家もあらなくに(万葉集)、

では、

何とも心せつなく降ってくるあめであることか、

と訳し(伊藤博訳注『新版万葉集』)、慨嘆の意となっている。

かも、

の、

も、

は、

疑問詞を承ける係助詞の一つ、

で(岩波古語辞典)、やはり、種々の語に付き(デジタル大辞泉)、

「も」は、承ける語を不確実なものとして提示し、下にそれについての説明・叙述を導く役割をする。(中略)承ける語を不確実なものとして提示するばかりでなく、下文も、打消・推量・願望などの不確実な表現で終わるものが多い、

とある(岩波古語辞典)。ここでの、

も、

は、

終助詞、活用語の終止形(係結びでは結びの形)、ク語法について、詠嘆の意を表す。体言には「かも」「はも」などの形で用いる。「かも」は平安時代には「かな」に代わる(広辞苑)、
終助詞。文末で、活用語の終止形、助詞、接尾語「く」に付く。感動・詠嘆を表す。…ことよ。…なあ。「かも」「ぞも」「はも」「やも」、主に上代の用法で、その後は「かな」に代わった。係助詞の終助詞的用法ともいう(デジタル大辞泉)、
文末用法。文末の終止形(文中に係助詞がある時はそれに応ずる活用形)およびク語法を受けて詠嘆を表わす。体言を受ける場合は同じく詠嘆を表わす他の係助詞が上接して「かも」「はも」「そも」などの形となる。終助詞とする説もある(精選版日本国語大辞典)、

などとあり、

春の野に霞たなびきうら悲(がな)しこの夕影にうぐひす鳴くも(万葉集)、

では、

鶯がないているなあ、

といった意味になる。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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