打橋
天の川打橋(うちはし)渡せ妹が家道(いへぢ)やまず通はむ時待たずとも(万葉集)
千鳥鳴く佐保の川門(かわと)の瀬を広み打橋渡す汝(な)が来(く)と思へば(仝上)
の、
打橋、
は、
板などを渡した狩りの橋、
とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、前者の、
時待たず、
の、
時、
は、
七夕の夜、
の意である(仝上)。また、
機物の蹋木(ふみき)持ち行きて天の川打橋渡す君が來(こ)むため(万葉集)、
の、
蹋木、
は、
織機の踏み板、
で(仝上)、
踏木、
とも当て、
ふみぎ、
とも訓ませる。
足をのせておく木、
の意だが、特に、
機(はた)で緯(よこ)糸を通すときに、経(たて)糸を上下させて杼口(ひぐち)を作るために足で踏む木、
をいう(広辞苑)。
蹋(漢音トウ、呉音ドウ)の異体字は、
躢、
とあり(漢字源)、
会意兼形声。右側は「羽+冒の字の上の部分(おかす、むりに動く)」の会意文字で、無理に羽をぱたばたさせること。蝶(チョウ)と同型の言葉。蹋は「足+音符トウ」で、もと、足の裏を平らにぺたぺたと地に着けること、
とある(仝上)。
踏、
と同義で、
ふむ、
意とともに、
蹋鞠(トウキク)、
というと、
けまり、
の意となる。
閑話休題。
打橋、
は、
移橋(うつしはし)の約(うちひさす、うつひさす)、何處へも移しかけらるる意と云ふ、
とある(大言海)ように、
かけはずしのできる、板や材木の橋、
の意(広辞苑)だが、
いみじく笑ひてほとほとうちはしよりも落ちぬべし(枕草子)、
と、
建物と建物との間に架け渡して、取りはずしの自由な橋とした板、
の意や、こうした意味をメタファに、
生ける間のうちはしの絶えてあはずは(平中物語)、
と、間に架け渡すところから、
なかだち、
仲介者、
の意でも使う(精選版日本国語大辞典)。
うちはしだつものを道にてなむかよひ侍る(源氏物語)、
と、
打橋だつ、
という動詞(四段活用)もあり、
一見、打橋のように見える、
意である(岩波古語辞典)。
「打」(唐音ダ、漢音テイ、呉音チョウ)は、「うちつけに」で触れたように、
会意兼形声。丁は、もと釘の頭を示す□印であった。直角にうちつける意を含む。打は「手+音符丁」で、とんとうつ動作を表す、
とある(漢字源)。同じく、
会意兼形声文字です(扌(手)+丁)。「5本の指のある手」の象形と「釘(くぎ)を横から見た」象形から、釘(くぎ)を手にして「うつ」を意味する「打」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji461.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、他は、
形声。「手」+音符「丁 /*TENG/」。「うつ」を意味する漢語{打 /*teengʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%89%93)、
形声。手と、音符丁(テイ→タ)とから成る。手で強く「うつ」意を表す(角川新字源)、
形声。声符は丁(てい)。丁は釘の頭の形。釘の頭をうちつける意。〔説文新附〕十二上に「擊つなり」とする。のち動詞の上につけて打聴・打量のように用いる。わが国の「うち聞く」「うち興ずる」というのに近い(字通)、
と、いずれも形声文字としている。
「橋」(①漢音キョウ・呉音ギョウ、②キョウ)の異体字は、
喬(「喬」の通字)、墧、憍(「憍」の通字)、桥(簡体字)、槁(「槁」の通字)、槗、橇(「橇」の同字)、檋(「檋」の通字)、矯(「矯」の通字)、鞽、𣘺、 𫞎、𫞏(俗字)、𭫥、𱴦(同字)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A9%8B)。字源は、「石橋(せききょう)」で触れたように、
会意兼形声。喬は、高(たかい家の形)の屋根の先端が曲がったさまを描いた象形文字で、高くて曲線をなしてしなう意を含む。橋は「木+音符喬」で、⌒型に高く曲がったはし、
とあり(漢字源)、「橋梁」「架橋」の「橋」、橋をメタファにした横木、「橋起」のように、たかくそびえるさま等々、いわゆる「橋」の意の場合は①の音、轎(キョウ)に当てて用いた、橋のように担ぎあげる輿の意の場合は、②の音となる(仝上)。別に、
会意兼形声文字です(木+喬)。「大地を覆う木の象形」と「高い楼閣の上に旗がかけられた」象形(「高い」の意味)から谷川に高くかけられた木の「はし」を意味する「橋」という漢字が成り立ちました、
も(https://okjiten.jp/kanji419.html)、会意兼形声文字とするが、
形声。「木」+音符「喬 /*KAW/」。「はし」を意味する漢語{橋 /*ɡ(r)aw/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E6%A9%8B)、
形声。木と、音符喬(ケウ)とから成る。「はし」の意を表す(角川新字源)、
形声。声符は喬(きょう)。喬はアーチ状の高楼の上に表木を立てて神を招く意で、架上・高挙の意がある。橋は山の岸や谷にかけ渡したものをいい、また衣桁のように用いるものをもいう。〔儀礼、士昏礼〕に「纁裏(くんり)は橋に加ふ」とは衣桁の類。〔説文〕六上に「水梁なり」とするが、古くはいわゆる高橋(たかはし)をいう。水橋の意は、字の初義ではない(字通)、
は、形声文字とする。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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