山さな葛(かづら)
あしひきの山さな葛(かづら)もみつまで妹(いも)に逢はずや我(あ)が恋ひ居(を)らむ(万葉集)、
の、
山さな葛、
は、
びなん葛か、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)が、
山さな葛、
は、
山にある野生のサネカズラ、
とある(デジタル大辞泉)。
さなかづら、
は、
真葛、
実葛、
とあて(精選版日本国語大辞典)、
さねかづらの古名、
で、
佐那葛(サナかづら)の根を舂(つ)き、其の汁の滑(なめ)を取りて(古事記)、
と、
サは発語(サ衣、、サ牡鹿)、ナは滑(な)のナ、滑葛(なめりかづら)の意(古事記伝)。滑(なめり)多きものなり、さねかづらと云ふは、音転なり(偏拗(かたくね)、かたくな。神祈(かんねぎ)、かんなぎ)、
とあり(大言海)、
さねかづら、
も、
真葛、
実葛、
と当て(仝上・岩波古語辞典)、その名は、
サネは実、カズラはつるで、美しい果実がつくつるの意味、
ともあり(https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-1350)、
五味子髪を結ふにびなんかづらとて南五味子の茎を水に漬しそのねばり汁を用ゆ(「嬉遊笑覧(1830)」)、
と、
サネカズラの茎をこまかく切り、水につけてつくった頭髪油として髪を整えた、
ので、上述の注釈にある、
美男葛(びなんかずら)、
ともいい(デジタル大辞泉・仝上)、
五味、
とも(大言海)、
とろろかづら、
ともいう(仝上)。和名類聚抄(931~38年)に、
五味、作禰加豆良、
とあり、
マツブサ科の蔓性つるせいの常緑低木。暖地の山野に自生。葉は楕円形で先がとがり、つやがある。雌雄異株で、夏、黄白色の花をつけ、実は熟すと赤くなる(デジタル大辞泉)、
ともあるが、
モクレン科のつる性常緑木。関東以西の本州、四国、九州の山地に生える。枝は褐色で皮に粘液を含む。葉は互生し柄をもち革質で厚く、長さ五~一〇センチメートルの楕円形の両端がとがり、縁にまばらな鋸歯(きょし)があって裏面は紫色を帯びる。雌雄異株(雄花と雌花が別の株に咲く)。夏、葉腋(ようえき)に淡黄白色で径約一・五センチメートルの広鐘状花を下向きに単生する。花被片は九~一五枚、雌雄蕊は多数。果実は径約五ミリメートルの球形の液果で、ふくらんだ花托(かたく)のまわりに球状に多数つき赤熟する。果実を干したものを南五味子と呼び北五味子(チョウセンゴミシ)の代用として健胃・強壮薬にする。古来枝の皮に含まれる粘液物を髪油や製紙用の糊料に用いた、
とある(https://www.kahaku.go.jp/research/db/botany/wild_p100/autumn/14_sanekazura.html・精選版日本国語大辞典)。漢方に、
五味子(ごみし)、
があり、
サネカズラ、
また、
チョウセンゴミシ、
の種子をいう(仝上)。
酸味・塩から味・甘味・苦味・辛味があるといい、漢方では鎮咳・強壮薬などに用いる、
とあり(仝上)、前者を、
南五味子(なんごみし)、
後者を、
北五味子(ほくごみし)、
というとある(仝上)。なお、
真葛、
を、
ま葛(くず)延(は)ふ小野(をの)の浅茅(あさぢ)を心ゆも人引かめやも我(わ)がなけなくに(万葉集)、
と、
まくず、
と訓ませると、
「ま」は接頭語、葛の美称(デジタル大辞泉)、
と、
くず、
のことで、
実葛、
とも当て、この、
マ(真)、
については、
真神、
で触れたように、
片(かた)の対、
で、
名詞・動詞・形容詞について、揃っている、完全である、優れている、などの意を表す(岩波古語辞典)、
名詞・動詞・形容詞・形容動詞などの上に付いて、完全である、真実である、すぐれているなどの意を加え、また、ほめことばとしても用いる(精選版日本国語大辞典)、
体言・形容詞などに冠し、それそのものである、真実である、正確であるなどの意を表す(広辞苑)、
等々とあり、ここでは、
ま玉、
ま杭(ぐい)、
ま麻(そ)、
と同様、
ま葛(くず)、
は、
立派である、美しいなどの意を込めて、ほめことば、
として用いている(精選版日本国語大辞典・広辞苑・岩波古語辞典)。
葛、
については触れたし、
葛切り、
についても触れた。
なお、
さなかづらの、
さねかづらの、
で、
狭根葛(さねかづら)後もあはむと大船(おほぶね)の思ひたのみてたまかぎる岩垣淵(いはかきふち)の隠(こも)りのみ(万葉集)、
大船の思ひ頼みてさな葛いや遠長(とほなが)く我(あ)が思へる君によりては言(こと)の故もなくありこそと(仝上)、
などと、
蔓が長く伸びるので「遠長く」に、分れてまた会うので「会ふ」にかかる(岩波古語辞典)、
はい回った蔓が末で逢うということから「逢う」「のちも逢う」にかかる。また、蔓をたぐるということから、「繰(く)る」と同音の「来る」にかかる(精選版日本国語大辞典)、
枕詞として使われる。ただ、中古以降の用法は、
つれなきを思ひしのぶのさねかつらはては来るをも厭なりけり(後撰和歌集)、
あふ事は絶にし物をさねかつらまたいかにして苦しかるらん(木工権頭為忠百首)、
と、
「来る」「苦し」「絶ゆ」などを掛詞や縁語として多用し、「さね」に「さ寝」をかけたりして用いられた(仝上)とある。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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