ふりみふらずみ
神無月(かみなづき)ふりみふらずみ定めなき時雨ぞ冬の初めなりける(後撰和歌集)
の、
ふりみふらずみ、
の、
み、
は、
二つの対照的な動作が交互に行われる意を表す接尾語、
で、
降ったり降らなかったり、
の意、
ふりみふらずみ、
は、
冬の訪れを知らせる知らせる風物として時雨を言い、それが不安定な雨であることから、落ち着きのない気持が添わり、初冬の心細いような季節感を捉えている、
と注釈し、
降ったり降らなかったり、不規則な、この時雨というものが、
と訳す(水垣久訳注『後撰和歌集』)。
ふりみふらずみ、
の、接尾語、
み、
は、
すべをなみ、
で触れたように、いくつかの使い方があり、第一には、
春花の咲ける盛りに思ふどち手折(たを)りかざさず春の野の繁み飛び潜(く)くうぐいすの声だに聞かず(万葉集)、
と、
形容詞の語幹について体言を作り、
高み、明るみ、深み、
等々と、
その性質を帯びた場所(岩波古語辞典)、
そのような状態をしている場所(精選版日本国語大辞典)、
を言ったり、
黒み、白み、青み、赤み(ロドリゲス大文典)、
と、
色合い(岩波古語辞典)、
その性質・状態の程度やその様子(精選版日本国語大辞典)
を表わすが、
「厚み」「重み」「苦み」「赤み」「面白みに欠ける」「真剣みが薄い」など、「さ」と比べると使われ方は限られる、
とある。また、
甘み、苦み(仝上)、
と、味わいを表す(岩波古語辞典)が、
漢語の「味」と混同され、「味」を用いることも、近代には多い。
とされる(精選版日本国語大辞典)。
第二に、
采女(うねめ)の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く(万葉集)、
瀬をはやみ岩にせかるる谷川の割れて末にもあはんとぞ思ふ(詞花和歌集)、
若の浦に潮満ち来れば潟(かた)を無み葦辺(あしへ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る(万葉集)、
などと、
形容詞の語幹、および助動詞「べし」「ましじ」の語幹相当の部分に付いて(学研全訳古語辞典)、
形容詞の語幹に添ひて、「の故に」「さに」の意をなす(大言海)、
形容詞や形容詞型活用の助動詞の語幹に付いて、「名詞+を…み」「名詞…み」の形で ) 原因・理由を表わして連用修飾語となる(精選版日本国語大辞典)、
とある、
み、
は、
(……が)……なので、
(……が)……だから、
……のゆえに、
……によって、
と、原因・理由を表す(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)。多く、上に「名詞+を」を伴うが、「を」がない場合もある(学研全訳古語辞典)。
第三に、冒頭の歌のように、
負ひみ抱(むだ)きみ、
で触れた、
子の泣くごとに男(をとこ)じもの負ひみ抱(むだ)きみ朝鳥(あさとり)の哭(ね)のみ泣きつつ恋ふれども験(しるし)をなみと言問(ことと)はぬものにはあれど(高橋朝臣)、
生駒(いこま)の山を見れば、曇りみ晴れみ、たちゐる雲やまず(伊勢物語)、
などの、
……み……み、
の形の、
み、
は、
もと動詞ミ(見・試)の連用形、動詞または助動詞「ず」の連用例について(岩波古語辞典)、
試みる意の「見る」の連用形からという。動詞または助動詞「ず」の連用形に付き、その並列によって連用修飾語をつくる。対照的な動作または状態を並列してそれが交互に繰り返される意を表わす(精選版日本国語大辞典)、
動詞および助動詞「ず」の連用形に付いて、その動作が交互に繰り返される意を表す(学研全訳古語辞典)、
もので、
……み……み、
で、
……したり、……したり、
……したり、……しなかったりして、
の意になる。第二の、
み、
と同語とされる場合もあるが、第二の、
み、
は、形容詞の語幹に下接し、この「み」は動詞の連用形に下接するので、別語である(精選版日本国語大辞典)。
第四に、
道の後(しり)古波陀孃子(こはだをとめ)は争はず寝(ね)しくをしぞも愛(うるは)し美(ミ)思ふ(古事記)、
望月(もちづき)のいやめづらしみ思ほしし君と時々幸(いでま)して(万葉集)、
の、
み、
は、
形容詞の語幹に付いて、下に動詞「思ふ」「す」を続けて、その内容を表す(学研全訳古語辞典)、
あとに「思う」「する」などの動詞が続き、感情の内容を表現する(精選版日本国語大辞典)、
とある。この、
み、
は、品詞の扱いとしては、
接尾語とする説、
以外に、
助詞とする説、
四段活用動詞の連用形に相当すると見る説、
などもある(精選版日本国語大辞典)。また、この用法による、、
「甘みす」「重みす」「安みす」、
は、音便により、
「甘んずる」「重んずる」「安んずる」
等々となる(仝上・大言海)。
「降」(①漢音呉音コウ、②漢音コウ・呉音ゴウ)の異体字は、
夅(古字)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%99%8D)。「昇降」「以降」「降雨と、「おりる」「下る」「ふる」意は①の音、「投降」と、「くだす」「くだる」意は、②の音、となる(漢字源)。字源は、「くだち(降)」で触れたように、
会意兼形声。夅(コウ)は、下向きの左足と右足を描いた象形文字で、下へくだることを示す。降は、それを音符として、阜(おか)を添えた字で、丘を下ることを明示したもの、
とある(漢字源)。同じく、
会意形声。阜と、夅(カウ)(下に向かって歩く)とから成り、高い所からおりてくる意を表す。ひいて「おろす」、したがえる意に用いる(角川新字源)、
会意兼形声文字です(阝+夅)。「段のついた土山」の象形(「丘」の意味)と「下向きの足の象形×2」(「くだる」の意味)から、丘を「くだる」を意味する「降」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji988.html)、
と、会意兼形声文字とするものもあるが、
会意。「阜」+「夂」×2、高いところから人の足が降りてくるさまを象る。「くだる」「おりる」を意味する漢語{降 /*kruungs/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%99%8D)、
会意。𨸏(ふ)+夅(こう)。𨸏は神の陟降する神梯の象。〔説文〕十四下に「下るなり」とするが、神の降下することをいう。〔書、多士〕「惟(こ)れ帝、降格す」とみえる。卜辞に「帝囗+┣(とが)を降(くだ)さざるか」「帝は大𦰩(かん 暵)を降さざるか」「疾を降すこと勿(な)きか」のように、これらはすべて上帝の意思によって下民に降されるものとされた。降雨も同じ。また「祖丁を降さんか」のように、祖霊の降下することを卜する例がある。神聖の命を以て与えられるものをすべて降といい、降命という。春秋期以後、降服の意にも用いる(字通)、
と、字解は同趣しながら、会意文字とするものがある。
参考文献;
水垣久訳注『後撰和歌集』(Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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