距離化
H・ウェルナー、B・カプラン(柿崎祐一監訳)『シンボルの形成―言葉と表現への有機-発達論的アプローチ』を読む。
本書のキーワードは、
距離化、
である。
真に人間的な世界を創り出すために、つまり単に反応の的にすぎない世界ではなく知の対象となる世界を創り出すために、人間は新しい道具を必要とすること、そしてこの道具は、知るという活動を構成するあの種々の操作にふさわしく、それらの操作を可能ならしめるものでなければならないこと、これである。そして、〈シンボル〉こそ、その道具に他ならない。
と宣言する、
シンボル、
は、
新しい独自の機能、つまり表示(representation)の機能を担う実体、
とし、この機能こそが、
シンボルの本質的特徴、
であり、
サイン、シグナル、や物と区別される、
という。ここに言われていることは重要な視点で、単に、
対象の指示機能、
や、
コミュニケーション機能、
でははなく、
表現、
に視点を置いていることこそが、ポイントである。そうすると、
対象⇔言葉、
の二次元ではなく、
対象⇔認知(知覚⇒認知)⇔言葉、
の三次元になる。それは、
対象依存、
状況依存、
の言語ではなく、
言語自体が自立する、
表現世界、
を前提にしていることになる。それを、
距離化、
と、著者は呼ぶ。
指さすことは単に対象指示、つまり現前している具体的対象の指摘あるいは指示にすぎないが、シンボルは対象指示と対象表示の二つの価値を分化しかつ統合しているのである。指さし行為によって対象を指示する場合、指示された対象は具体的状況に〈突きささった〉ままである。シンボルによる表示の場合には、対象の特徴的様相(その内包)がいわば抜きとられて別の素材からなる媒体(聴覚的媒体、視覚的媒体、身振り等々)の中に具現される。
この、
シンボルが状況に埋め込まれた状態、
から、
距離化、
していく言語の場面は、
指さしの場、
言語-概念の場、
シンボル的-\統語論的場、
があるとし、具体的状況に縛られている、
指さしの場、
から、
言語の意味、概念が、情共依存から脱して使われる状態、さらに、
文脈、
つまり、
従属関係、類似関係等によって種々の語-概念を相互に関係づける、
内的な(言語の)構造化、
ができる、
言語-概念の場、
へと進化していく、とする。この言い方で、ユングが、
言語を覚えたころ、空飛ぶ夢を見る、
といったていたのを思い出す。言語化が、
状況依存から、自立した表現世界、
を創り出す象徴と言っていい。だから、
人は、知っているものを見る、
とは、
知っていること(言葉)で物を見る、
で、さらに、
知っていることしか見えない、
ともなる。それが自己完結してしまえば、
幻想、
妄想、
ということになるが。
ピアジェをはじめとする、多くの幼児の研究を踏まえて論証していく、著者の論旨には、多く頷かされる部分がある。こうした多自立化した表現世界を前提にして、吉本隆明の、
自己表出、
と、
指示表出、
という言語表現の価値表現が可能になる。
なお、「環境世界」についての、「環世界」については、
ヤーコブ・フォン・ユクスキュル『生物から見た世界』、
で触れた。言語論については、
三浦つとむ『日本語はどういう言語か』
吉本隆明『言語にとって美とはなにかⅠⅡ』
ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』
ウィトゲンシュタイン『哲学探究』
アリス・アンブローズ編『ウィトゲンシュタインの講義―ケンブリッジ1932~1935年』
ノーム・チョムスキー『統辞構造論』
熊倉千之『日本語の深層:〈話者のイマ・ココ〉を生きることば』)
エルンスト・カッシーラー『シンボル形式の哲学』
J・ピアジェ『知能の誕生』
ミシェル・フーコー『言葉と物―人文科学の考古学』
柳田國男『不幸なる芸術・笑の本願』
高沢公信『古井由吉・その文体と語りの構造』
高沢公信「言葉の構造と情報の構造」(http://ppnetwork.c.ooco.jp/prod0924.htm#%E8%A8%80%E8%91%89%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0%E3%81%A8%E6%83%85%E5%A0%B1%E3%81%AE%E6%A7%8B%E9%80%A0)
柄谷行人『探求Ⅰ』
柄谷行人『探求Ⅱ』
マーヴィン・ミンスキー『心の社会』
ギルバート・ライル『心の概念』
等々で触れた。
参考文献;
H・ウェルナー、B・カプラン(柿崎祐一監訳)『シンボルの形成―言葉と表現への有機-発達論的アプローチ』(ミネルヴァ書房)
時枝誠記『日本文法 口語篇』(岩波全書)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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