岩根(いはね)踏むへなれる山はあらねども逢はぬ日まねみ恋ひわたるかも(万葉集)
の、
へなる、
は、
隔てになる、
意で、
岩根(いはね)踏むへなれる山はあらねども、
は、
大きな岩を踏み越えて行かねばならないような隔ての山はありはしないのだが、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
まねみ、
は、
まねしのミ語法、
とあり、
しげしげと多いので、
の意で、
逢えない日が度重なるので、
と訳す(仝上)。
まねみ、
の、
み、
は、
すべをなみ、
で触れたように、
み、
の、いくつかの使い方の一つで、
采女(うねめ)の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く(万葉集)、
瀬をはやみ岩にせかるる谷川の割れて末にもあはんとぞ思ふ(詞花和歌集)、
若の浦に潮満ち来れば潟(かた)を無み葦辺(あしへ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る(万葉集)、
などと、
形容詞の語幹、および助動詞「べし」「ましじ」の語幹相当の部分に付いて(学研全訳古語辞典)、
形容詞の語幹に添ひて、「の故に」「さに」の意をなす(大言海)、
形容詞や形容詞型活用の助動詞の語幹に付いて、「名詞+を…み」「名詞…み」の形で ) 原因・理由を表わして連用修飾語となる(精選版日本国語大辞典)、
とある、
み、
で、
(……が)……なので、
(……が)……だから、
……のゆえに、
……によって、
と、原因・理由を表す(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)。多く、上に「名詞+を」を伴うが、「を」がない場合もある(学研全訳古語辞典)。
まねし、
は、
多し、
數多し、
とあて(大言海・精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)、
(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ、
の、ク活用の形容詞で、
朝鮮語manh(多)と同源か(岩波古語辞典)、
とあるが、
月日の打ち続きたるを云う語、
とあり(大言海)、
たび重なる、
度数が多い、
しげし、
頻繁(ひんぱん)である、
の意で(仝上・精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)、転じて、
矢形尾(やかたを)の鷹を手に据(す)ゑ三島野に猟(か)らぬ日まねく月ぞ経にける(万葉集)
と、
多い、
意となり、
うらさぶる情佐麻禰之(サマネシ)ひさかたの天のしぐれの流れあふ見れば(万葉集)、
の、接頭語「さ」をつけたのが、
さまねし、
で、
まねし、
と同義である。
さまねし、
は、
数多し、
とあて、
数が多い。
度数が多い、
意である(精選版日本国語大辞典)。
まねし、
は、さらに、
一年二年爾不在、歳真尼久(まねく)傷(そこなへる)故爾(龍田風祭祝詞)、
と、
ゆきわたる、
意となる(大言海)。類義語に、
あまねし、
があり、
しぐれの雨間(ま)なくし降れば御笠山(みかさやま)木末(こぬれ)あまねく色づきにけり(万葉集)、
と、
すみずみまで広くゆきわたっている、
意で使う(精選版日本国語大辞典)。ちなみに、接頭語、
さ、
は、
「さ夜」「さ牡鹿」「さ霧」「さ迷う」「さとし」「さ噛みに噛む」「さまねし」、
等々、
名詞・動詞・形容詞の上に付いて、語調をととのえる、
もので、
実質的な意味はほとんどない使い方のほか、
「五月蠅(さばえ)」「早乙女(さおとめ)」「早苗(さなえ)」「五月(さつき)」「五月雨(さみだれ)」、
等々、
「五月」「早」、
とあてて、
名詞の上に付いて、時期的に早く若々しい、
意や、また、
五月、
の意をあらわす使い方、さらに、
「さ来年」「さ来月」、
等々、
時間をあらわす名詞の上に付いて、
さきの、
の意をあらわす使い方をする(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。
(「多」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9Aより)
(「多」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9Aより)
(「多」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9Aより)
「多」(タ)の異体字は、
夛、𭐴(俗字)、
とある(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9A)。字源は、
会意文字。夕、または肉を重ねて、たっぷりと存在することを示す、
とあり(漢字源)、
会意。夕の字を二つ重ねて、日数が積もり重なる、ひいて「おおい」意を表す。一説に、象形で、二切れの肉を並べた形にかたどり、物が多くある意を表すという(角川新字源)、
会意文字です(夕+夕)。「切った肉、または、半月」の象形から、量が「おおい」を意味する「多」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji156.html)、
会意。夕+夕。夕は肉の形。多は多肉の意。〔説文〕七上に「重ぬるなり。重夕に從ふ。夕なる者は、相ひ繹(たづ)ぬるなり、故に多と爲す」と夕・繹(えき)の畳韻を以て解する。また「重夕を多と爲し、重日を曡と爲す」といい、多・曡を夕・日を重ねる意とするが、多は多肉、曡は玉を多く重ねる意。宜の初文は、俎上に多(肉)をおいて廟前に供える意。曡はそれに玉飾を加える形である。宜の初形は、卜文・金文においては多に従う。牲薦の肉の多いことから、のちすべて繁多・豊富の意となる(字通)、
と、多く会意文字とするが、
不明。「おおい」を意味する漢語{多 /*tˤai/}に用いる。
一説に象形。沢山の肉を象る。「ごちそう」を意味する漢語{膳 /*dan-s/}を表す字。のち仮借して{多}に用いる。
また一説に「肉」単体が{膳}を表し、「多」はそれを二つ並べた形声文字で、{多}を表す字。
肉が沢山あるさまを象り、{多}を表す字という説があるが、この説では「肉」である必要性が説明できないため、上記のような説が考えられる。しかしいずれも憶測の域を出ない説である(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%9A)、
と、不明としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント